見出し画像

柳田国男と『忘れられた日本人』―柳田文庫目録から

  古本屋さんに注文していていた『増補改訂 柳田文庫蔵書目録』が本日到着した。これは成城大学にある「柳田文庫」の中にある雑誌類を含めた書物をリスト化したものである。現在、例のウイルスの影響で成城大学もしまっているため、目録を調べて行った気になろうと思って購入した。

 いろいろ調べてみたいことはあるが、とりあえず宮本常一の著作が柳田文庫にあるかどうかを調べてみると、以下の著作があることが分かった。

『周防大島を中心としたる海の生活史』 1936年 アチックミューゼアム
『出雲八束郡片句浦民俗聞書』 1942年 アチックミューゼアム
『吉野西奥民俗採訪録』 1942年 日本常民文化研究所(宮本編著)
『屋久島民俗誌』 1943年 日本常民文化研究所
『村里を行く』 1943年 三國書房(「女性叢書」の一冊として出版)
『村の社会科(昭和文庫)』 1948年 昭和書院
『愛情は子供と共に』 1948年 馬場書店
『越前石徹白民俗誌』 1949年 三省堂出版(「全国民俗誌叢書」の1冊)
『周防大島天保年度農業問答嘉永年度年中行事』 1950年 日本常民文化研究所(宮本、岡本定編)
『ふるさとの生活』 朝日新聞社 1950年(柳田が「旅と文章と人生」という文章を載せている)
『ふるさとの生活―少年少女の社会科―』 1950年 朝日新聞社
『越前石徹白民俗誌』 1951年 刀江出版
『日本の村(中学生全集90)』 1953年 筑摩書房
『民俗学への道』 1955年 岩崎書店(「民俗民芸双書」の1冊)
『海をひらいた人びと(小学生全集74)』 1955年 筑摩書房
『周防大島昔話集』 1956年 大島文化研究連盟(謄写版)(宮本編)
『日本の子供達』 1957年 岩崎書店(「日本人の生活全集―写真でみる」の1冊)
『中国風土記』 1958年 広島農村人文協会
『忘れられた日本人』 1960年 未来社
『都市の祭りと民俗』 1961年 慶友社
『庶民の発見』 1961年 未来社
『生業の推移』 1965年 河出書房新社(「日本の民俗」の1冊)
『瀬戸内海の研究1』 1965年 未来社
『にっぽんのやど(現代教養文庫529)』 1965年 社会思想社(宮本、近畿日本ツーリスト編纂)
『辺境を歩いた人々(さ・え・ら伝記ライブラリー14)』 1966年 さ・え・ら書房
『村のなりたち(日本民衆史4)』 1966年 未来社
『宮本常一著作集3』 1967年 未来社
『私の日本地図 2 上高地付近』 1967年 同友館
『大隅半島民俗採訪録(常民文化叢書1)』 1968年 慶友社
『宮本常一著作集9』 1970年 未来社
『私の日本地図 8 沖縄』 1970年 同友館

 上記の情報から気づいた点が3点あるので以下に簡単に今後の課題も含めて記していきたい。

 1点目は宮本が既存の民俗学の在り方への疑問を呈した1955年に出版された『民俗学への道』があることだ。柳田がこの本を実際に読んだかどうかは実際に確認しないと分からないが、もし読んでいたとしたら柳田はどのように読んだのだろうか。

 2点目は現在もっとも親しまれている宮本の『忘れられた日本人』があることだ。『『忘れられた日本人』の舞台を旅する―宮本常一の軌跡』木村哲也さんによると、柳田が健在であった当時、柳田への批判とも受け取れるこの本を出版するのは相当勇気のいることであったようだ。こちらも実際に確認しないと分からないが、もし読んでいたとしたらどのような感想を持っただろうか。なお、『忘れられた日本人』のもとになった「年よりたち」が連載されていた雑誌『民話』も1958~1960年刊行分(1~24号(16号のぞく))が柳田文庫に所蔵されており、こちらで読んでいたかもしれない。

 3点目は戦後の社会科教育に関する宮本の本が所蔵されていることだ。宮本は戦前に展開された生活綴り方運動を推進した芦田恵之助の影響を受けて、大阪府の教員時代に子どもたちと村の生活を記録することを通して郷土史教育を実践していた。(注1)柳田は戦後に国語教育や社会科教育に積極的に関わったことが知られている(注2)が、宮本もその仕事に関わっていたことを今回柳田文庫の目録を見ていてはじめて知った。この論点はあまり触れられたことはないように感じるので、いつか調べてみたい。

 柳田文庫は目録を少し見ているだけでもいろいろな発見があるので、これからも継続的に調べていきたい。おもしろいことがあれば、ここで報告をしていきたい。

(注1)たとえば、下記の論文が参考になる。

小国喜弘 1995年「昭和初期郷土教育における民俗伝統への接近 : 宮本常一の教育実践を中心にして」『東京大学大学院教育学研究科紀要』35巻

リンク:https://ci.nii.ac.jp/naid/110001101712

山田恵吾 2000年「宮本常一における「民俗学的郷土教育」論の形成--1930年代小学校教員時代の分析を通じて」『筑波大学教育学系論集』25巻1号

リンク:https://ci.nii.ac.jp/naid/110000257728

(注2)たとえば、室井康成『柳田国男の民俗学構想』森話社、『社会を作れなかったこの国がそれでも大塚英志 ソーシャルであるための柳田國男入門』角川EPUB選書など

この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

よろしければサポートをよろしくお願いいたします。サポートは、研究や調査を進める際に必要な資料、書籍、論文の購入費用にさせていただきます。