見出し画像

戦前の『内務省納本月報』を新刊ブックリストとして活用する男

 拙noteの以下の記事で奈良で島本一が発行していた雑誌『考古雑筆』を検討した論文「島本一『考古雑筆』とその誌友」黒岩康博(史文 = Tenri historical review(23)、2021年3月)を紹介したが、この論文には全巻目次、寄贈雑誌・図書欄、日記部分が翻刻されている。

上記の論文に翻刻されている「考古雑筆日記」に興味深い記述があったので、以下に引用してみたい。

(前略)(六、)二三 京都島田貞彦氏、奈良高田十郎先生、東京浅田芳郎氏来信。田村吉永氏来信。
二四 内務省納本月報来る。東京三輪氏雑誌一冊寄贈さる。/神戸小林行雄氏、奈良龍田ノ京谷氏、仝新沢の吉田氏来信。
二六 蟬のなき声初めて聞く。東京柴田常恵氏来信。仝八幡一郎氏来信。/東京浅田芳郎氏播磨文化資料一、二寄贈さる。(後略)(太字は筆者による)

民俗学、考古学関連の人々との交信や雑誌の交換の記述が中心となっている。今までの私であればここで終わっているが、ここで島本は6月24日に内務省納本月報という本を受け取っていることに気が付いた。この記述は日記の中で少し異質に思われるが、島本はなぜ「内務省納本月報」を読んでいたのだろうか。

 以下の論文「国立国会図書館にない本 内務省納本雑誌との出会い」小林昌樹(『国立国会図書館月報』(673)、2017年5月)によると、「昭和20年まで政府による出版物の検閲制度があり、出版物を内務省に届ける義務が出版物に課されていた」という。これは新刊はすべて内務省に届け出る必要があったため、内務省には新しく出版される本の情報はすべて集まってくるとも言えるだろう。そのため、島本は「内務省納本月報」を現在で言うところの新刊のブックリストや読書案内の代りに使っていたのではないだろうかと推測した。

 やはりそうであったようで「内務省納本月報」は以下のWebページにあるように金沢文圃閣より当時の書誌や出版状況を知ることができる貴重な資料であるため『内務省納本月報―帝国日本の「全国」書誌編成』として復刻されている。この本の内容見本も以下のWebページから閲覧できるが、内容見本の推薦文によると「内務省納本月報」は読売新聞の学芸部の記者であった木村武雄によって編集されていた本であった。この本は島本にとって新刊の情報をチェックする貴重な情報源となっていたのだろう。

 余談だが、内務省納本制度で検閲された本には内務省印がおされており、古本市場に出品されることもあるようだ。以下のMRさんの記事では内務省印のおされている本が紹介されている。


よろしければサポートをよろしくお願いいたします。サポートは、研究や調査を進める際に必要な資料、書籍、論文の購入費用にさせていただきます。