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ただの新聞記者ではなかった?中国通のジャーナリスト・尾崎秀実の父・尾崎秀真

 『郷土史家名簿』(日本経済史研究所, 1934年)には、台湾の項に尾崎秀真という人物が載っている。この人物は、中国に精通したジャーナリストでソ連側のスパイとしてゾルゲ事件に関係したことで知られている尾崎秀美(ほつみ)、大衆文化を研究していた尾崎秀樹(ほつき)の父親である。『共同研究転向3』思想の科学研究会編(東洋文庫, 2012年)に収録されている「翼賛運動の設計者―近衛文麿」鶴見俊輔の尾崎秀実の紹介には、秀真は台湾日日新聞の記者として紹介されているが、『郷土史家名簿』では「史跡調査委員」とされているため、歴史研究者としての側面もあったようだ。『台湾總督府職員録』(台湾日日新報社, 1924年)によると、台湾総督府資料編纂委員の嘱託に秀真の名前が確認できる。この役職を長期間にわたってつとめたのであろうか。

 秀真の書誌的なデータを少し調べてみたところ、いくつか情報が出てきた。国会図書館デジタルコレクションには、『自由通信 第2巻 台湾号』(自由通信社, 1929年)に、秀真は「台湾の生蕃に就て」という文章を寄稿しているが、「台湾総督府博物館」という所属と思われる記載がある。また、書誌が調べられる「ざっさくプラス」で検索してみると、台湾総督府が発行していた『台湾時報』に多くの台湾の歴史関連の記事を投稿していたことが分かった。

 さらに、よく分からない人物に出会ったら取りあえず引くことにしている『昭和前期蒐書家リスト 趣味人・在野研究者・学者4500人』(トム・リバーフィールドさん編集, 2019年)(注1)にも秀真の名前が出ている。秀真は『千里組織』(集古会, 1935年)、『日本蒐書家名簿』(日本古書通信社, 1938年)に載っており、歴史を調査している人々が多く所属していた集古会の会員であったことが分かる。蒐集分野は、『千里組織』では「台湾古代史(台湾四千年史、常世国と台湾、六千年前の巨石文化と古代文字)」、『日本蒐書家名簿』では「郷土史、漢文、歴史」となっている。特に台湾の古代の歴史に関心を持っていたことが推測されるが、気になるのは「常世国と台湾」である。常世国は日本の神話で海のかなたの世界とされているが、このことと台湾の関連でも調べていたのだろうか。

 最後に、秀真の簡単なプロフィールを以下の論文の中に見つけたので、それを引用してみたい。この論文によると、このプロフィールは、『東寧墨蹟』林錫慶(1933年)という本がもとになっているようだが、この本の詳細は分からなかった。秀真の生没年も明らかにされているが、この典拠も気になるところだ。

尾崎秀真(1874~1949年)は岐阜県の生まれ。かつて明治文学の主編および報知新聞の記者を10年続けた後、1900年に台湾日日新報社の記者となって同漢文版の主筆となった。総督府嘱託を兼任し、史料編纂官、台湾史跡天然記念保存会委員を歴任し、台湾文化史の研究に尽力した。

(注1)この本の凄さに関しては、以下の記事で紹介したので、気になった方は参照してみて欲しい。


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