The Gold Transition
Zauberkugel
わたしは、片づけとは〝魔法の弾丸〟であると考えている。
魔法の弾丸とは、医学領域で使われる概念である。
1900年代に梅毒に著効する抗生剤のサルバルサンが開発された。
この開発の背景にあった概念が〝魔法の弾丸〟である。
名付け親が免疫学の基礎を築いたドイツのノーベル賞受賞者パウル・エールリヒという人物なので、ドイツ語で〝ツァウバークーゲル(Zauberkugel)〟という。
銃から発射された弾丸が特定の標的に命中するのと同じように、侵入してくる微生物を特異的に標的にする方法があるのではないか、体に害を与えることなく、体に病気を引き起こす特定の原因物質にフォーカスを当てて撃退することができるのではないかという考えに端を発する概念である。
そして、片づけは、ただ部屋が綺麗になるという物理的な効果だけではなく、片づける中で起きる自己変革や部屋が片づくことで付随して起きる衣食住への意識改革、それによるストレスレベルの低下、ダイエットや生活習慣病への予防、不安やうつの予防などといった数えきれないほどのメリットを心身に及ぼす。
片づけはこのように副作用のない抗生剤のようなものではないだろうか?
体には一切の害を与えることはなく、多くのメリットを享受できる。
まさに、現代の魔法の弾丸である。
しかも、片づけはただモノを減らしていき、自分の生活にあった適正量を見極めたら、あとは各々を所定の定位置に収めるだけなので、型にはめこみやすい作業である。
抗生剤のようにお金はかからないし、副作用といったものとも無縁。
やってみて、失敗しても現状維持するだけ。
やればやっただけ感じるのは、プラスの効果だけ。
なので、一刻も早くその型を自分のものとし、習慣に落とし込んでしまうに限るのである。
人生の早い時期にスキル習得してしまえば、残りの人生にレバレッジがかかるのである。
というわけで、自分は目下、脳神経科学や心理学、行動経済学、行動デザイン、医学といったさまざまな分野の知識を応用して、その型を習得中なのである。
片づけTips
今日は、書籍『自分を変える方法』(ケイティ・ミルクマン/ダイヤモンド社)より、行動経済学の側面からwellnessな手法を応用していきたい。
行動経済学とは、ざっくりいうと、人がどんなときに、なぜ誤った決定をしてしまうのかを、厳密な分析と経験的実証によって解明することを目指す学問である。
人のデフォルトは合理的なんかでは全くなく、いたって不合理という所から始まっている。
この学問の中で提唱されている数ある理論の中で、「ナッジ理論」というものがある。
ナッジ(nudge)とは、日本語に訳すと〝軽くつつく、行動をそっと後押しする〟といった意味を持つ英語である。
ナッジ理論は、シカゴ大学の経済学者リチャード・セイラ-が提唱した理論である。
この理論は、〝人々が強制的にではなく、よりよい選択を自発的に取れるようにする方法〟を生み出すための理論である。
間違いに気づけない自分を気遣って、隣の人がさりげなく肘でつついて気づかせてくれるような優しさを持った理論といえる。
筆者がこのナッジ理論の虜になっている時期に参加していたある研究発表会でたまたま出くわしたアメリカ人が早死する原因を分析した円グラフでの気づきがある。
〝早死の主な原因は、不十分な医療でも、劣悪な生活環境や悪い遺伝子、環境有害物質でもなかった。早死の40%が個人の行動、しかも自分で変えられる行動によるものと推定されていた。〟
〝食事や運動、喫煙、セックス、交通安全などに関わる、毎日の一見ささいな決定が積もり積もって、毎年数千件のがんや心臓発作、交通事故での死亡を招いているというのだ。
私は愕然とした。それから、ちょっと姿勢を正して考えた。
「もしかしたら、この40%の人のために何かできるかもしれない」〟
ナッジ理論への興味と世の中の解決すべき課題への気づきが結びついた瞬間である。
このナッジ理論は身近な存在である片づけにも充分に応用できるのではないかとわたしは考える。
次項は、ナッジ理論の片づけへの落とし込み編としていきたい。
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