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目標にひとさじの「甘み」を

現在バイアス

悪い習慣は頑張らなくても、すんなりと日常に入り込んでくるのに、逆に良い習慣は簡単には作られない。

悪い習慣と違って、すぐ目の前の報酬が得られるわけではないからこそ、挫折する確率が高い。

人の基本設定は遠い未来の報酬よりも近い将来の目先の利益に報酬系を刺激されやすくできているがゆえである。

行動経済学的にいうと、「現在バイアス」と呼ばれるものである。

いますぐ報酬が得られる誘惑を、遠い先に得られるもっと大きな報酬よりも優先してしまう習性であり、万国共通だという。

しかし、薬にひとさじの砂糖を足すと子どもでも飲みやすいように、将来の目標をめざす取り組みの中で、短期的に楽しくなるようなものをところどころでひとさじ加えれば、行動変容の成功率はずっと高まる。

大人も子供と同じで、物事を楽しいと思えなければ、長続きしないし、そもそもやろうとも思えない。

大人は子供に比べて自制心を発揮できるものと思われているが、デフォルトは子供と対して変わりないという。

それをしっかりと認識する必要がある。

そこで有効とされるのが、〝誘惑バンドル〟と呼ばれる戦略である。

誘惑バンドル

これは有益であるが気が乗らない活動に誘惑を抱き合わせてあげれば、誘惑につられて、気が乗らない活動をする機会が増えて、目先の報酬が得られるうちにおのずと長期的に持続できるようになっていく効果を持つ戦略である。

例えば、書籍『自分を変える方法』(ケイティ・ミルクマン/ダイヤモンド社)では、筆者が実際に実生活に取り入れた実例を挙げている。

筆者は大学院生時代にジムにどうしても行く気になれずにいた。
そして、大学の課題そっちのけで、読みだしたら止まらない小説にもハマっていたという。

運動量を増やしつつ、勉強の先延ばしをやめる方法はないものだろうかと考え、こうした時に考案したのが、〝誘惑バンドル〟である。

好きな小説を読む楽しみを、運動するときだけにとっておく。

こうすれば、小説が読みたいがためにジムに行くし、ジムに行ったらおのずとワークアウトする気も起きてくる。

ジムでワークアウトと小説を読むことをこなせてしまうので、家では勉強の時間を捻出できるという具合である。

他にも筆者は、大学教授になってからは、お気に入りのハンバーガー店でジャンクフードを食べるという行為と成績不振の学生の指導のために会うという行為を抱き合わせることで、その効果を実感している。

食べたくてたまらないハンバーガーを食べるために、学生の指導にもっと時間をかけられるようになったし、制限がかかったことで、ジャンクフードの量も減らすことが出来たという。

わたしはこの誘惑バンドルを参考にして朝のランニング習慣を形成するために、オーディブルを導入してみたところ、以前よりも迷いなく朝起きて外へと向かうことができるようになった。

朝のランニングは起きて外に出るまでがひとつの鬼門となる。

その鬼門を難なくクリアできれば、あとは余裕である。

外に出れさえすれば、やっぱやめようとはなりづらい。

外に出たのだし、せっかくだから少しでもジョギングでもしようという気になる。

オーディブルは聞いていると続きをもっと聞きたくなるので、以前よりもランニング時間も伸びる効果もあった。

もはや、運動したくてランニングしているのか、オーディブルでビジネス書や小説を聞きたいがためにランニングしているのかは曖昧になっている。

しかし、結果として、〝誘惑バンドル〟の戦略が著効し、朝のランニング習慣にも苦もなく取り組めるし、オーディブルも2~2.5倍速で聞きまくることができるし、しかも朝のランニングは幸せホルモンと呼ばれるセロトニンや成長ホルモンの分泌を活性化するのに最適であるとの研究もあるそうなので、心身ともに健全な行為なのである。

誘惑バンドルの片づけへの落とし込み

ここからは、衣食住を整えるということを〝誘惑バンドル〟の戦略を使って考えていきたい。

まず、〝衣〟である。

やりたくないこととやりたいことを抱き合わせればいいのであるから、まずはその両方を考えることからスタートである。

自分が〝衣〟においてやりたくないことは着る服をちんたらと迷い選ぶ行為である。

逆にやりたいことは、これまた隙間時間を使ってのオーディブルである。

こうして、抱き合わせセットが見えてきたので、実践である。

朝起きて、その日に着る服を選ぶためにウォークインクローゼットに向かう前にイヤホンを耳に装着し、オーディブルを再生する。

そして、そのままクローゼットへと直行する。

こうするとクローゼットで服を選んでいる一人の時間を使って、面倒な服選びと続きが気になるオーディブルを隙間を使って聞くことができる。

自分の場合、服は一時期に、片づけを通して厳選したモノしか残さないようになったから、それほど迷うほどの量はないが、それでも隙間の蓄積は侮れない。

毎日の積み重ねでオーディブルで充分の耳勉が可能となる。

付加効果として、その日に着る服を選び終わっても、あと数分だけオーディブルを聞きたいという報酬のために、それとなくクローゼットの5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)もこなしたりするので、耳勉しながらもクローゼットが常に整う仕組みとなっている。

次は〝食〟である。

同じようにまずは〝食〟においてやりたいこと、やりたくないことを考えてみる。

自分にとってやりたいこととは、wellnessな自炊である。

逆にやりたくないことは、不必要なジャンクフードを食べること、いわば間食習慣である。

これを抱き合わせるにはどうすべきか?

自分なりの〝誘惑バンドル〟は次のようなものである。

3日間自炊をこなしてwellnessな食事を摂れば、度を過ぎない程度の間食はOKとするゆるい作戦である。

追加作戦として、わたしはその際に間食する際はまずはじめの欲求が出てきたら、10~15分程度は待つようにしている。

それでも欲求が残っているようなら、手始めに豆乳ヨーグルトにブルーベリーを加えたものを食べるようにしている。

そして、またしばし待つ。

それでも、まだジャンクフードへの欲求があるようなら、冷凍の枝豆やフルーツやミニトマトなどをつまむようにしている。

それでもまだ口寂しいようなら、ミックスナッツやハイカカオのチョコレートをつまむ。

そして、またしばし他の事をしながら興味をそらす。

それでもまだどうしようもなくジャンクフードへの衝動にかられる際は、この時はもうよしとして食べるようにしている。

何層にも結界を張るイメージである。

これを繰り返していると不思議なことに衝動が波のようにゆらいで、打ち寄せては返す像が頭の中でメタファーとして浮かびあがってくるから面白い。

結界を破ってまで食べたい衝動はもう仕方がないと思って、抵抗しないようにわたしはしている。

100%禁じるのは逆にストレスがかかるだけである。

こうすると、wellnessな自炊へのモチベーションも高まるし、間食もほどほどならば食べてよしというゆる設定で望むことで、以前よりも自分の欲求にそれほど抵抗せずにいられ、自然体でいることで、間食の頻度は下がっている。

最後に〝住〟である。

同様にやりたいこと、やりたくないことを挙げてみる。

自分にとってやりたいことは筋トレである。やりたくないことは床の掃除である。

これを抱き合わせて、誘惑バンドルを作ってみる。

わたしには現在、生後9か月になる第2子がいる。
その子がはいはいでリビングを歩き回り、しかもヨダレもダラダラとたらしながらであるから、フローリングが手垢とヨダレ跡で速攻で汚れるわけである。

片づけ本を読むと、お掃除ロボを購入するのがスマートな解決法なのはわかるが、ここが肝である。

一度やってみると実感してもらえるのであるが、雑巾がけは全身運動である。

しかも、普段しない態勢で行うから、慣れないとはじめのころはカラダが悲鳴を上げる。

床を拭き上げるころには、軽い息切れとカラダがうっすらと汗をかくほどである。

まさに筋トレである。

毎日の手拭きによるフローリングの雑巾がけは正直億劫であるが、これは筋トレなのだと思い込むことで、俄然やる気がみなぎるから不思議である。

ある研究によるとホテルのハウスキーピングに従事している人たちを2グループに分け、ある1グループには、これから行う研究はその人たちが普段しているハウスキーピングの仕事は運動効果にどれほど寄与しているのかを調べる目的ですと伝える。

もう一方のグループには、何も伝えないでおく。

そうすると、研究の目的を伝えられたグループのほうが、体重の減少効果が高かったそうなのである。

プラセボ効果とよばれる思い込みの力の実証である。

ここから導き出されるのは、たかが雑巾がけと言えども、思い込みひとつで運動効果が如実に違ってくるということである。

面倒な雑巾がけも運動だと思えば、しっかりとした全身運動と化すのである。

しかも、リビングのフローリングであれば、ものの5分かからずに拭きあげられる。

こうした〝誘惑バンドル〟を生活のどこかに配置していくのを一種のゲームとして捉えてみると、毎日の生活が激変するので、おススメである。





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