見出し画像

「公務員・大企業の仕事を通じてクリエイティブになる方法」

大阪市役所の職員として20年働いた後、フィラメントという会社を起業した角 勝と申します。
フィラメントはカテゴリーとしてはビジネスコンサルティング会社なのですが、自分たちとしては「人と組織の革新をプロデュースする会社」だと思ってます。新規事業創出の支援、新しいことに挑める人材育成の支援、柔軟で自律的な組織文化醸成の3つが我々のメイン事業です。
起業して9年ほど経ちますが、かなり順調に成長しており、誰でも名前を知っている大企業を多くクライアントに持っています。
ここまで読まれた方は「地方公務員の経験しかない人間がなんでそんな仕事で起業して成功できてるの?」と疑問に思われたのではないでしょうか?
そのお気持ち、とてもよくわかります。「お役所仕事」という言葉に表れているとおり公務員の仕事は型どおり決まりきった仕事であり、クリエイティビティが必要なビジネスコンサルティングなどの仕事とは正反対に思えるでしょう。

ですが僕の実感としては公務員の経験があればこそ、今のフィラメントとしての仕事ができているのだと思っています。先般、縁あって東京都の宮坂副知事の勉強会でお話をすることになったので、自分の人生の棚卸をしつつ、どうやったら公務員の仕事でクリエイティビティを磨けるのかについて、説明する資料を作ってみました。公務員だけでなく多くの大企業の皆様にも共感いただけるものになったんじゃないかと自負しています。今回、抜粋して説明しますのでよかったら読んでみてください。


(1)知性には2種類ある

僕は、人間の賢さって2種類あると思います。論理的知性と情緒的知性です。
論理的知性は「筋道だてて物事を理解できる能力」です。「頭が良い」ことの一般的なイメージはこちらかと思います。
情緒的知性は、「人の気持ちがわかり、寄り添える能力」です。人柄からにじみ出る頭の良さであり、社会的動物としての人間には極めて重要な能力です。
公務員はこの2種類の賢さを磨くために最適な仕事だというのが実体験を伴う僕の持論です。

知性には論理的知性と情緒的知性の2種類がある

(2)公務員の仕事の特徴

なぜ公務員の仕事が論理的知性と情緒的知性の両方を高めるのに適しているのか。それは公務員業務の特徴に起因しています。
公務員業務の特徴に詳しく触れる前に、そもそもの公務員の仕事の本質に簡単に触れたいと思います。
公務員の仕事というものをものすごく単純化してコンパクトに説明すると「誰もが納得する税金の使い方を決めること」です。
大事な税金の使い道を決める際に「誰も揉めないこと」が大事なのであり、以下に示す公務員業務の3つの特徴もそのためのものであると考えれば納得しやすいと思います。

公務員の仕事には3つの特徴がある。そのうち「多様な視点」が必要になるという特徴は情緒的知性を育むのに大きく貢献する。

1)多様な視点

公務員の仕事を通じて調整しなくてはならない関係者は多岐にわたります。世の中の人で全く税金を払っていないという人はいませんし、誰もが税金の恩恵を受けているからです。
民間企業では考えられないくらい関係者の数もバリエーションも多く、そのどれかを切り捨てるということは基本的に許されません。多くのステークホルダーのすべてに向き合い、意見を聞き、回答を返します。結果として完全には分かり合えなくともある程度以上の納得を引き出すことが必要となります。(それができなければ不服申し立てや行政訴訟などに発展する可能性があります)

2)複雑な構造

公務員の階層的かつ複雑な合意形成プロセスや業務執行プロセスは一般的な企業ではあまり馴染まないものだと思います。大切な税金を扱うものだけに幾重にもプロテクトがかけられていて、公金の執行にあたってはそのプロテクトを一つずつ外していくような慎重な作業が必要になります。市議会などの監査の仕組みも厳重ですし、財政当局などの予算管理なども含め非常に複雑な業務構造をもっていると思います。

3)繊細な実務

これは上記1)と2)の結果であるともいえるのですが、とても繊細で失敗が許されない仕事が多いです。多様な関係者に対して複雑な構造の業務を執行する、そのためには手続きも複雑かつ面倒になります。また行政の仕事の本質が「揉めないように税金の使い道を決める」ことであるため、組織の本能として「やり玉にあげられること」を極端に恐れます。ちょっとしたミスでも許されない雰囲気があるため実務には常に繊細心配りが求められます。

(3)クリエイティビティが発揮されるプロセス

行政の中ではいろんな仕事がありますが、企画分野の仕事もたくさんあります。新しい仕事のやり方を考えたり、社会に必要な新しい行政サービスを考える仕事です。そうしたクリエイティブな仕事の進め方も先ほどあげた公務員の仕事の特徴に沿って進められていきます。
その進め方は、まず個人レベルで生み出された気づきや発想を仲間レベルに展開して共感を獲得し、企画としての肉付けをしつつ予算化します。そこからさらに多様なステークホルダーとの調整をしながら施策として社会に押し広げ実現していきます。

発想→共感→実現という業務プロセスはほぼ全ての組織的活動に共通するもの

こうした、個人レベルでの発想→仲間レベルでの共感→社会レベルでの実現というプロセスはほかの多くの企業での仕事でもほぼ同じ流れで進んでいきます。

(4)学びを最大化するコンピテンシー

公務員の仕事をしていれば誰でもクリエイティビティが身につくのか?というとそんなことはありません。どんな仕事であっても同じですが、「心構えや態度」というのはものすごく大事です。
僕が思うクリエイティビティを高めるための「学びを増やす態度/行動特性」は以下の3つです。

リスペクトが起点になると続くアクションもリフレクションもポジティブになり前向きなチャレンジと改善のサイクルを継続できるようになる

1)リスペクトー尊ぶ/尊重力

他者をリスペクトすること、他者だけでなく自分自身もリスペクトすること。他者だけをリスペクトして自分をリスペクトしないと他者と健全な関係性を築くことはできませんし、持続的に良い仕事をすることもできません。このリスペクト/尊重力は自分の中に学びを増やし蓄積することだけでなく、良い仕事をしていくために最も大事な態度だと思います。リスペクトを起点とすることは何にもまして意識すべきポイントだと思います。

2)アクションー動く/活動力

手近なこと、できることを探してとりあえずできる範囲でやってみること。フットワークの軽さとか俊敏性と言い換えてもいいと思います。その際、①のリスペクトの態度があると、何かに取り組むこと自体を楽しい・面白いと感じるはずです。誰かに言われてやるのではなく「面白がってやってみる」という感覚。だからこそ自分からすっと体が動くしそれがストレスに感じない、楽しく感じる。そういう態度がこのアクション/活動力です。

3)リフレクションー省みる/内省力

自らの活動とその成果を分析してより良いやり方はないか、どうすれば成果が高まるかを考えること。この際、自分に対するリスペクトがベースにあることが重要です。自分に対するリスペクトがなければ失敗した部分ばかりに気がとられくじけたりすねたり絶望して闇落ちしたりしてしまいがち。ポジティブに内省することができればこそ、輝きを増した次の取組が実現していくものです。

(5)リスペクトを起点とする行動実例

リスペクトを起点にして、面白がってやってみる、やった後にはその取り組みをポジティブに振り返る。そのサイクルを公務員の仕事を通じて回していくことで、情緒的知性も論理的知性も磨かれていきます。
特に多様な関係者に対して常にリスペクトをもって接する経験は情緒的知性の醸成には大きく貢献すると思います。

論理的知性だけが高まっている人に比べて、情緒的知性も同時に高められている人はビジネス界隈では実はそんなに多くはない。

「リスペクト」という態度/行動特性に関するTipsを3つ、共有しておきます。
いずれも僕が若い頃に意識してやっていたことですし、簡単なので誰でもいつでもマネしていただけます。

1)「その場にいない人を褒めたたえる」

その場にいる人を褒めると場がしらけるがその場にいない人を褒めると食事も美味しくなるし、いろんな人の「褒め讃えるべきポイント」を客観的にたくさん聞けるのは「学びの取れ高」も大きい

一つ目は「その場にいない人を褒め讃える飲み会」です。
これは何人かで飲みに行ったときにこんな風に言うのです。「最近お世話になった人の話をしよう。誰がどんなシチュエーションでどんなことしてくれたのか。まず俺からな。」みたいな感じで話し始めると我も我もと話をつなげてくれますよ。
こうして聞く話は人間の良いところ・素敵な行動だけを集めて煮凝りにしたようなすばらしい話ばかりで本当にためになりました。
そして何より酒がうまい。同僚たちの素晴らしい行動を讃える話って最高に場をあっためてくれます。

2)「苦手な人ほど飲みに誘ってみる」

「苦手だな」と思っていた人でも、その人の行動原理がわかるとぐっと共感しやすくなりその後仲良くなれたことも数知れず。最後まで理解できないこともありますけどね。

2つ目のTipsは「苦手だなと思う人ほど飲みに誘ってみる」というものです。これはちょっと心理的なハードルが高いかもしれませんが、そもそも「人に対する苦手」というのはその人のもつクセに対してこちらが慣れていないということです。相手の癖に慣れるためには相手のことを知る必要がありますし、相手のことを知るためにはそのために相手と向き合う時間が必要です。こちら側からちょっとだけ勇気を出して「ちょっとだけ飲みに行きませんか?」と声をかけてみるのです。もちろんサシでなくて何人かで行く感じでいいのです。普段の仕事だけで接していては知ることができないその人の心のひだに少しだけゆっくり触れるような時間をつくり、相手を理解する。それだけでその人と仕事をする時間がより良いものに変わっていく。僕はこの飲み会のおかげでそんな素敵な経験を何度も味わいました。

3)「口車に乗ってみる」

最後のはTipsというよりは僕の体験の一つです。障がい福祉の仕事をしていた時、障碍者団体の方から「あなたは障がい者のことをわかっていない。一度ホームヘルパーの体験をして方がいい」と言われて、なるほどと思い、有休をとって全身性障がい者の方のホームヘルパーを体験しました。
もちろん「それは私の仕事ではありません」といって断ってもよかったのでしょうが、相手のことをリスペクトしてとりあえず面白がってやってみたわけです。でもそのおかげ普通にデスクの上で仕事をしているだけでは絶対気づけない多くのことに気づけたし団体の方々とも仲良くなれました。その後、人事異動で福祉とは全く違う職場に移ったあとに、件の障碍者団体の方がわざわざ僕のもとまで来てくださって「角さんとまた一緒に仕事をしたい」と言ってくださったのは忘れられない思い出です。これだから仕事ってのは最高なんですよね。あのとき口車に乗ってやってみてよかったなと今でも思ってます。

(6)仕事を通じてクリエイティビティを磨く

僕が大阪市に就職したのは1995年、バブル崩壊後の就職氷河期のまっただ中でした。関西の私大の文学部というツブシのきかない学歴で就職できる企業は限られ、ある種「デモシカ公務員」的に公務員になった僕ですが、公務員の仕事は本当に素晴らしかった。「リスペクト」という態度は大事だとこの記事でも何度もお伝えしてきましたが、なぜその態度が身についたのか、最後にその点に触れますと、それはたくさんの尊敬できる同僚や先輩、関係者の方々と会えたからです。
同期で入庁した仲間はそれまで会ったことがないような面白い人たちがたくさんいましたし、仕事を教えてくれた先輩や上司も多くが、魅力的な方々ばかりでした。そうした素敵な人たちの真似るべき部分を探してその真似をしてきた結果ーリスペクトを続けた結果が今の人生をつくったともいえると思います。

リスペクトーアクションーリフレクションの積み重ねをポジティブに積み重ねていくことが結果として情緒的知性も論理的知性も高めていく。
それは公務員はもちろん、ほとんどすべての職場で実行可能だと思います。
これをお読みいただいたみなさんもよかったら実践されてみてはいかがでしよう。
例えばまず「その場にいない誰かを褒める」会など、オススメですよ!

・・・・・・・
最後までお読みいただきありがとうございます。 ここまで読んでいただいた方には僕の会社フィラメントのサイトの「新規事業ノウハウ」のコーナーも楽しんでいただけるかもしれません。
リンクを貼っておきますのでぜひどうぞお越しください!!


また、フィラメントでは「世の中をよりよくしていきたい人たちが集う場」をコンセプトにQUMZINEというメディアを運営しています。

こちらフォローしていただけると僕たちみんな小躍りして喜びますのでぜひぜひぜひぜひよろしくお願いいたします~


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?