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次世代ミステリの最前線【阿津川辰海】のおすすめBEST3!【新刊発売記念】

最近、ミステリ作家の紹介について筆が止まっていたので久々に書こうと思う。
いや、元々このnoteはミステリ作家の紹介チャンネルではないのだけれど。

とはいえ、もっともっと世に出てほしいミステリ作家がたくさんいるのは事実で、僕は彼らを一人でも多くの人に知ってほしいと思っている。だから今日も元気に期待のミステリ作家を紹介しよう!

今回紹介するのは来る2月16日に待望の新作の発売を控えている若き気鋭、その名も
「阿津川 辰海」だ!!!

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↑発売予定の新作『蒼海館(あおみかん)の殺人』

阿津川辰海の魅力

「このミス」2位、「本格ベスト・ミステリ10」3位など輝かしき実績を持つ若き気鋭の魅力はズバリ「巧みな特殊設定の操り方」だ。はて、「特殊設定」とは何か。「特殊設定」というのは現実ではありえない設定の世界観で物語が展開されること。
例えば、「超能力者がいる世界」とか「タイムスリップが起こる世界」とかのことである。

こうした特殊設定ミステリで起こりやすいのが、世界観に依存しすぎたトリックだ。
例えば、「超能力者がいる世界で起こった怪事件。被害者は5トンの金庫に押しつぶされていたが、周りには重機が動いた痕跡はない。さて、どうやって殺害されたのか。」という事件で「尋常じゃない怪力を持つ超能力者が実はいました。」というタネ明かしをされる。

こういうことをされると、「えー、何でもアリじゃん。」と途端に冷めてしまうだろう。これは極端な例だとしても特殊設定ミステリでは往々にして起こっていることだ。

その点、彼の作品にはそういった無理がない。
彼の作品の中で特殊設定は物語の根幹を握るほど重要なものだが、それは決して依存した謎解きがなされるわけではない。むしろ特殊設定によって唯一無二の事件とトリックが浮き彫りになり、新たなミステリの可能性を眩しく照らしている。

彼の作品の魅力を作っているものはもう一つある。
それは「圧倒的なミステリ愛」だ。彼はミステリ作家以前に重度のミステリ愛好家である。古今東西のミステリを読み漁り、各書評家も舌を巻く知識量を有している。そんな彼が紡ぐ物語は先人たちへの敬意と挑戦に満ちていて、読み進めるととても幸せな気分になれる。

彼のtwitterではそんなミステリ愛にあふれた日常が多くツイートされているので是非そちらも覗いてみてほしい。時々最前線の作家同士の会話も垣間見られて得した気分になれる。


彼の作品はその特殊性ゆえ、映像化はなかなか難しいだろう。しかし、今までの彼の作品とこれからの作品の期待値を鑑みると、彼は必ず次のミステリ界を代表する作家となることは絶対だ。

さて、ここまでで阿津川辰海の小説に興味を持ってくださったという方にお勧めのベスト3を紹介したいと思う。

3位『透明人間は密室に潜む』

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本格ミステリの魅力と可能性に肉薄する4編。
透明人間による不可能犯罪計画。裁判員裁判×アイドルオタクの法廷ミステリ。録音された犯行現場の謎。クルーズ船内、イベントが進行する中での拉致監禁──。
絢爛多彩、高密度。ミステリの快楽を詰め込んだ傑作集!(光文社HPより)

「このミス」2位を獲得した著者初の短編集。「透明人間病」が流行する世界での事件などは阿津川辰海らしい物語が展開されている。私が特にお勧めしたいのは「六人の熱狂する日本人」。お察しの通り「12人の怒れる男」のオマージュなのだが、二転三転する物語の中で提示される思いもよらない結末には思わず唸らされる。

2位『名探偵は嘘をつかない』

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「ただいまより、本邦初の探偵弾劾裁判を開廷する!」
彼が本当に嘘をついていないのか、それは死者を含めた関係者の証言によって、あきらかにされる!
名探偵・阿久津透。その性格、傲岸不遜にして冷酷非情。妥協を許さず、徹底的に犯人を追い詰める。しかし、重大な疑惑が持ちあがった。それは、彼が証拠を捏造し、自らの犯罪を隠蔽したというものだった──(光文社HPより)

著者の記念すべきデビュー作。デビュー作ともあって内容が少々詰め込まれすぎな部分はあるが、それでも特殊設定の数々を操りきって唯一無二の世界観をデビュー作にして作り上げたその手腕には脱帽。ミステリの無限の可能性をこれでもかと見せつけられる、ミステリ好きにこそ読んでほしい一作だ。

1位『紅蓮館の殺人』

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山中に隠棲した文豪に会うため、高校の合宿を抜け出した僕と友人の葛城は、落雷による山火事に遭遇。
救助を待つうち、館に住むつばさと仲良くなる。
だが翌朝、吊り天井で圧死した彼女が発見された。
これは事故か、殺人か。
葛城は真相を推理しようとするが、住人や他の避難者は脱出を優先するべきだと語り――。
タイムリミットは35時間。
生存と真実、選ぶべきはどっちだ。(講談社HPより)

著者初の特殊設定を使わずに真っ向から本格推理小説に挑んだ一作。ミステリ愛にあふれた仕掛けだらけの館で起こる怪事件を楽しみながら、「探偵とは何か」というミステリを志すものならば考えなければならない問いも扱う珠玉の一作。著者初のシリーズ物の第一作としてその人物描写にも力が入った現時点で最高の作品だ。


終わりに


彼の作品はその特殊性ゆえ突飛に見えるかもしれないが、その実、文章が若手とは思えないほど完成されている。さらに自然な物語展開の中に伏線が多く仕込まれており、そんな伏線をも再読する際に楽しめるのも彼の作品の魅力の一つだ。
そんな読めば読むほど驚かされる彼の実力はすでに現代作家のトップクラスに位置していると考えていいだろう。

2月16日には新作『蒼海館の殺人』が発売される。

数々の緻密な論理と驚くべき仕掛けで我々を驚かせてきた彼が次はどんな力作を発表するのか。
そんな次世代を担う気鋭の作家阿津川辰海の作品も皆さんもぜひ手に取ってほしい。

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