立憲主義と日本における同性婚

 拙著(堀川・岡, 2018)の冒頭でも述べている通り、私は現在の日本の憲法および法律では同性婚は認められていないと考えています。
 この記事はその理由についての私自身の考えの覚書です。残念ながら現在の親同性愛的な方々の中ではマイナーな考え方だとは思いますが、あくまでそのひとつの考え方であって、その呈示によって考えを押し付けようとかケンカしようとかいう意図はないことをまず明言します。

【1】私の憲法・法律に対する立場


 まず私の考えは、以下の立憲主義という立場に基づいています(立憲民主党のHPから引用しておりますが、私の支持政党が同党であることを示すものではありません)。

 日本国憲法を一切改定しないという立場は採らない。立憲主義に基づき権力を制約し、国民の権利の拡大に寄与するとの観点から、憲法に限らず、関連法も含め、国民にとって真に必要な改定があるならば、積極的に議論、検討する。
 いわゆる護憲と改憲の二元論とは異なる、「立憲的憲法論議」を基本スタンスとする。(引用:立憲民主党HP

 もちろん改憲についても、以下に示す憲法第96条に則った改憲手続きは当然認められるものであると考えています。

〔憲法改正の発議,国民投票及び公布〕
第96条 この憲法の改正は,各議院の総議員の三分の二以上の賛成で,国会が,これを発議し,国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には,特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において,その過半数の賛成を必要とする。
2 憲法改正について前項の承認を経たときは,天皇は,国民の名で,この憲法と一体を成すものとして,直ちにこれを公布する。(引用:出版情報関連ユニオン京都支部)   

 そして以下は、上で引用した立憲民主党HPにある、憲法第9条の解釈改憲に対する立場です。

 日本国憲法9条は、平和主義の理念に基づき、個別的自衛権の行使を容認する一方、日本が攻撃されていない場合の集団的自衛権行使は認めていない。(中略)集団的自衛権の一部の行使を容認した閣議決定及び安全保障法制は、憲法違反であり、憲法によって制約される当事者である内閣が、みずから積み重ねてきた解釈を論理的整合性なく変更するものであり、立憲主義に反する。(引用:立憲民主党HP)  

 こちらについても、解釈改憲が立憲主義の立場からは認められるものではないという原則論的な考え方には同意です。
 もちろん、基本的人権に関する条文についても同じことが言えると考えます。

 以上の考えを整理し、基本的人権についての私の考えを一言で述べるならばこうです。

『憲法の理念として守るべきであるにもかかわらず憲法で保証できていない人権』が時代を経て明らかになったならば、その理念に基づき憲法をアップデートする必要がある」。

 以上に示した立憲主義の立場から、以下、私の考えをお話しします。


【2】憲法第24条とその解釈-実質的な同性婚の否認

 それでは、婚姻について規定している日本国憲法第24条を示します。

〔家族関係における個人の尊厳と両性の平等〕
第24条 婚姻は,両性の合意のみに基いて成立し,夫婦が同等の権利を有することを基本として,相互の協力により,維持されなければならない。
2 配偶者の選択,財産権,相続,住居の選定,離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては,法律は,個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して,制定されなければならない。
(引用:出版情報関連ユニオン京都支部

 「両性の合意のみに基づいて成立」したもの、と明確に定義されています。
 ここでいう「両性」とは、「男性」と「女性」のことでしょう。性別を考慮しないのであればわざわざ「両性」という性別に注目した書き方をするはずがありません。公布された時代背景を考えても、異性婚以外の婚姻が想定されていたとはまず考えられません。

 しかし、この憲法は、法の下の平等という日本国憲法の理念に基づいた、平等権という人権を保証するためのものです。
 そして婚姻が人権として憲法に認められているものである以上、同性間での婚姻が認められない現状は、この理念にもとると言えるでしょう。
 同性愛それ自体も、当然憲法第19条にて保証される思想及び良心の自由の範疇であり、またその表現は人々の明白かつ現在の危険を侵さないものです。そのため憲法上、同性愛は当然認められますし、異性愛と平等に扱われるものである必要があります。
 したがって、憲法第96条に基づく手続きにより、同性婚が認められるよう憲法を改正すべきであると考えております。


【3】憲法第24条の解釈改憲について


 一部の法学者の方々を含め、同性愛者の中で能動的に声を上げることができる方々やその支援者には「同性婚は現行憲法でも認められ、むしろ認めないことは基本的人権を侵害する憲法違反である」といった主張をされている方も少なくありません。
 同性婚を認めないことが憲法の理念に反しており、憲法公布当初同性婚が想定されていなかった以上、その理念をもとに時代の背景に合わせて条文を解釈するのが適切である、という立場です。
 確かに現在の左翼では、憲法の改正は全く認めないものの、一方で同性婚は認められてほしい……という声が大きいように思いますので、この立場はその双方の欲求を都合良く解消できる合理的なものなのだろうとは理解しております。

 しかしこの立場は立憲主義にもとるでしょう。まさに解釈改憲であると考えます。
 上述した私の憲法解釈に関する議論を含め、何が正しいか、法がどのようにあるべきかという考えは、個々人の思想に過ぎません。その思想に基づいて条文に書かれていない意味を読み取る考え方がまかり通るのは、法よりも思想が優先される、その名の通り無法地帯と化した社会であると言えます。
 そして、婚姻の可否を最終的に決定するのは実質的に公権力です。これらを考え合わせると、時の公権力の思想によって、24条のみならず全ての憲法解釈が決定され得ることになるでしょう。
 だからこそ、同性婚を合憲とするためには96条に基づく改憲の必要があると考えています。

【4】おわりに

 以上です。
 セクシュアリティはともかく法についてはど素人である人間の考えですので、まだまだアップデートする余地は当然あると考えております。もし私に事実誤認等あればTwitter等でご指摘いただけますと幸いです。

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堀川佑惟(Yui Horikawa)
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