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【こころ #20】自分に合う環境へもがいたことを伝えるVtuber

鬱ノ宮 シアンさん(後編)


前編から続く)

 鬱ノ宮シアンさんは現在、就労継続支援B型事業所※で、ピアスタッフ兼事務作業員として働いておられる。ピアスタッフとは、利用者と同じく精神疾患や障害を抱える又は同じ経験をもつスタッフを指す。併せて、事務作業員として請求業務などを担う。

 事業所を経営する会社の社長からは「本人が困っていることはともあれ、(鬱ノ宮シアンさんは)スペックは高いからな」、直属の先輩上司からは「自分のできないことを補ってくれる」と可愛がられている。

 確かに、鬱ノ宮シアンさんは「自宅からオンライン会議の時間は守れるが、着替えて準備してバスの時間を見計らって家を出るといったいくつものタスクを経て時間通り出勤することができない」。他方で、PCスキルがあって雑務の処理能力が高く、独学で覚えたデザインソフトを使って事業所の掲示物のデザインもできる、それも自分から積極的に動く。だから、社長は自宅と職場の送迎までしてくれ、「通勤できるならしたらいいし、車にも乗れないなら在宅でいいとまで言ってくれる」。

 「私の場合、時間を守れないとか普通と違うことが問題で信頼をなくす。収入もなくす。いまは普通じゃない企業に勤めさせてもらっている」。それを聞いて、この会社は、障害を生む環境即ち“社会的障壁を作り出さなかった”ことに気付かされる。


 もちろんそこまで一足飛びにたどり着いたわけではない。

 かかった病院の主治医は自身にも発達障害があり、主治医も含めた当事者同士で話すグループワークがあった。そうした会を重ねる中で「病院は苦しさを吐き出すところではなく、異常状態をどうコントロールするか一緒に考える場所」になった。そうした中で処方されたうつ病の薬も「人生の価値観が変わったぐらい効いた」。


 振り返れば「家庭環境が悪く、小学校3年生からずっと鬱だった」。その頃から自殺願望や希死念慮。「自分は死にたいけれど、ここに兄弟を置いておけない。だから巻き込んで死なないといけないと思うぐらいの心理状況でした」。「今思うとえげつないですよね。今ならそんな経験してほしくないと思うけれど」。

 それほどに酷い“ここ”であり“経験”だった。例えば、「経済的に余裕がなかったので、病院に行くのも難しかった」。小さい頃に健診で引っかかってもネグレクトを受けて病院に連れて行ってもらえず、やっと自立して経済的余裕ができて「子供の頃以来、初めて歯医者にかかったのは27歳」だった。


 ようやく病院にかかる余裕ができて、薬を服用することで「人間って深夜にむやみに泣いたりしないんだ」と気付き、少しずつ睡眠リズムやストレスが改善し、自力で構築していく気力がわいた。「一歩を踏み出す後押しになった」。

 経済的にも、かつては「常勤で働いても、出勤できなければ時給が稼げなかった」。現在の職場に移った今も余裕があるわけではないが、「合っていない環境の中で動かないままだったら変わらなかった」と振り返る。さらに「とにかく自分に合う環境を求めてもがくことが大事」と、誰かに投げかけるように続けた。


 ご自身の経験を踏まえてかつての自分と同じ人たちに、伝えたいことはたくさんある。薬に「必要以上に不安にならなくていい」。精神疾患には“人薬”も必要と言われるが「巡り合えない人もいるし、手を差し伸べられてもつかめない時もある」。だからこそ「人の介在がなくても、その人のタイミングで、正しい知識にアクセスできるようにすることが大事」。さらに「そういったチャンスがたくさんあることが重要」。

 そのために今回のインタビューに応じてくれたし、ご自身でも伝えていくために、バーチャルキャラクターでライブ配信をする『Vtuber』をやられている。その名前が『鬱ノ宮シアン』なのだ。「たまたま活動が目に入って、“これでいいんだ”となればいい」。そんな素晴らしい活動は以下から是非。


【note】


【YouTube】



※ 就労継続支援B型事業所
 「就労継続支援」とは、一般企業などで働くことが困難な方が、障害や体調にあわせて働く準備をしたり、働くための能力を向上したりするためのサポートを指す。その中でも「B型」は、雇用契約を結ばずに、障害や体調にあわせて自分のペースで利用できる。





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