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【こころ #24】当事者家族で、そしてそれを支える立場で

木内 千枝子さん


 木内千枝子さんは、第23話でご紹介した木内健人さんのお母様だ。


 息子さんの小学校時代。「2年生の頃に、算数が周りに比べて難しい。高学年になっても作文など文章が1-2年生程度だった」。小学校では知的な差はそれなりにあるものだが、逆に「身体的な差や自閉的な感じは一切なく、兄弟の中でも優しい男の子だった」。

 「ご両親が不安になるとお子さんも不安になってしまうので心配し過ぎないように」といったアドバイスも受けたが、「成績表を見ると、一生懸命に取り組もうとしているけど、理解できていないことは表れていた」。

 さらに、息子さんが中学2年生の時に全身硬直の発作を起こす。脳が一時的に過剰に興奮することによって意識を失ったりけいれんが生じたりする発作を繰り返し起こす『てんかん』という病気で、病院に通い「出生時の病気により前頭葉に脳の萎縮があることが原因とわかった」。


 「成績の問題はあったけれど、人懐っこく周囲ともうまくコミュニケーションが取れる」。中学校まで一般校に通っていた、そんな息子さんの高校進学をどうするか。親元から通える一般の学校に行くか、障害者手帳を取得して特別支援学校に入るか。

 最終的に決めたのは、当時行き場がなかった「不登校児を多く受け入れている、遠く離れた全寮制の高校」。勉強よりもまず、「人と違っていても」受け入れてくれる。そしてコミュニケーションが取れる息子さんが「良い経験ばかりではないかもしれないが、自分と違うことを学ぶことができる」。そんなご両親と息子さんの判断だった。

 年齢の違う生徒同士、4人部屋で寝食を共にする。「都内では経験できない色々な経験はあったと思うが、(勉強以外でも)田植え、林業、陶芸をやったり、理科の先生は屋久島や北海道に連れて行ってくれたり。文化祭となればご家族が全国から来て、美化活動には父兄も参加するなど、親たちも協力する体制もできていた」。

 色々と言いたくなる年頃だったが、全寮制だったことで「親子の適度な距離を保つことができた」。離れたことで、携帯料金が何万円もいったり、ビデオの延滞料がすごい額になったりしたこともあったが、「それは本人に失敗に気付かせる必要な代償。自分でどうしたらいいか考えて、将来の失敗の度合いが小さくなればいいと思った」。


 高校の頃から「後は本人次第」「自分のことは自分でできるように」と思ってきた。「いずれ親が先にいなくなるから」。ただ、息子さんが成人された今でも心配は終わらない。例えば、お金の管理。月当たりや週当たりで初めに渡すのか、郵便局から下せるようにするのか、「試行錯誤してきたが、まだ安心して任せられる状況ではない」。


 息子さんを育ててこられた経験も手伝ってだろうか。木内さんは16年前から、小学生から高校生まで比較的重度の知的障害や発達障害の児童が通うデイサービスで働いておられる。そういった現場での支援が「体制としても支援員の質としても十分ではない」と感じていることはもちろん、そのお子さんたちのご家族にまで想いを馳せる。

 「デイサービスの中には朝8時半に送り出しても16時半には帰ってくることも」あり、ご家族も働いている中で、平日夕方はもちろん土日もつきっきりで面倒を見ないといけなくなる。子供の頃は放課後教室などあっても、成人になると一層「居場所がない」のが現状だ。

 現在息子さんはグループホームに入居されているが、それも「数が少ない」そうで、さらに「親として気軽に相談できる窓口にまでなってくれるホームは、(息子さんが入居されている)藍さんだけかも」と、障害のあるお子さんを持つ親として安心できる居場所を見つける難しさを吐露された。


 障害のある息子さんを育て、将来を見据えて親子の距離も調整し、成人した今も親として支えつつグループホームの手も借りながら息子さんに寄り添ってこられた木内さん。

 当事者として、障害のあるご本人もそのご家族も「寄り添って話を聞いてくれる場所があるだけで不安が軽減される」ことを誰よりも知っている。同時に、当事者への福祉サービスの提供者側としても、そういった場所を提供する体制や支援員が充実して、「(当事者が)安心して少しずつ社会に馴染んでいけるような制度」が必要だと何度も繰り返し、「(障害のある方に限らず)ひきこもりの方にも通じるのでは」と添えられた。

 障害のありなしではなく、どんな形にせよ課題を抱えた親子を社会としてどう受け止めるのか、もっと広い投げかけまで頂いた気がした。



▷ 社会福祉法人 藍




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