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【こころ #42】広告と不動産の大企業が手掛ける就労支援


松尾 俊志さん


 昨年4月、「博報堂と三井不動産、精神障がい者の雇用拡大とキャリアアップを支援する新会社「SUPERYARD」設立、事業開始」というプレスリリースが流れた。日本を代表する広告と不動産の大企業が何を?と思う方も多いかもしれない。プレスリリースの副題には、「合理的配慮のあるシェアオフィスと最適な業務設定を提供」とある。

 博報堂から出向し、この新会社の副社長を務める松尾さんにお話をお聞きし、大企業の2社が手を組んだ理由が腹落ちした。


 「広告の仕事は視点を移動する、見立てを変えるのが面白い仕事だと思っていました」。例えば、ある会社の活躍を聞かなくなってしまい印象が薄くなってしまっていても、現場では丁寧な仕事が一生懸命に続けられている。そこに光を与えると、その会社の“見立てが変わる”。また評価を得ることができることにつながります。

 「実は障害者も同じだと思っています」。障害者は、何かしら生活に不便はあるかもしれないが、働いたり作業ができる面からみると全然関係がない。だから、「障害者にもっと違う見立てがあってもいいんじゃないか」という広告マン的捉え方だった。「誤解を恐れずに言えば、やらなきゃいけないとか使命感よりは、純粋に広告と同じ作業を面白くてやっているんです」。逆にそういった方の発想こそ、うまく世の中に広がるのではないかと感じた。


 松尾さんは、あくまで極端な言い方と前置きした上で、「今の障害者雇用は、一般社員の現場にそこまで合理的配慮がされなくていい障害者が選ばれるか、障害者だけを集めて雇用してから何ができるか考える、のどちらかの方針になりがちです。」と指摘する。

 でも、一般的に新入社員であれば、最初は戦力じゃなくても良い先輩につくとか、キャリアが積める仕事につくとか「育てる前提での雇用が存在するのに、障害者については企業側にその用意がないんです。それを実現したい。」と強調した。

 具体例として、不安障害のある方のケースを教えてくれた。すごい仕事ができるのに、「一緒に働いているメンバーが嫌ってるんじゃないか怒っているんじゃないか」と思いがちだ。その方とは月一回の「事実確認ミーティング」で、メール文面で「ありがとう」と言われている数を数え、不安になる必要はないことを伝える。

 「直属の上司がそこまでやるのは現実的じゃないと思います。でも、そこまで解決できると上司も育てようと思うようになる。合理的配慮の“代行”ではなく、あくまで“サポート”です」。

 「SUPERYARD」のシェアオフィスでは、複数の会社に所属する障害者が机を並べ、こうした最適な業務環境のサポートを受けながら働いている。



 こうした考え方に基づく、広告の“見立てを変える”×三井不動産の“働き方のノウハウ”の掛け算が、博報堂と三井不動産によるジョイントベンチャーが「精神障がい者の雇用拡大とキャリアアップ」に取り組むことに繋がった。

 しかし、いかに大企業といえども市場は甘くない。「こういった話は、もちろん賛同してくれる人もいますが、中には全然興味がない人もまだいます。単に雇えればいい、出社してくれればいい、さらにお金をかけて雇う必要性がないと言ってしまう人もいる。」と正直に教えてくれ、その後に「そういう話を聞くと、しょぼんとします」の一言が付いた。

 一方で、大企業のグループ会社ゆえの利点もある。実利だけを追えば、こんなサポートに手間や時間をせずに、どんどん就労の人数を伸ばせばいいが、「利益第一主義にならないでいられる」。「新卒と同じで、育成した結果として、現場でちゃんと働ける障害者が増えることを採用の実利として訴え、積み上げていく。」と真剣に話された。

 もちろん「(障害は)個別性が高いので、一つひとつ考えないといけないのは、簡単じゃない面もある」。しかし、こうした新しいやり方が世の中に広まるには、「ある一定の数を超えないと、新しい時流にならない」。そのためには、「大企業こそが本気になる必要がある」と力を込めた。


 松尾さんのお話をお聞きし、私こそ、広告会社や不動産ディベロッパーの“見立てが変わった”。精神障害者が能力をフルに発揮できる職場環境を必ずしも自社ですべて準備する必要はなく、後方支援を受ければいい。是非多くの会社に、そのように“見立てを変えてほしい”。

「ビジネスに、バックヤードを超える「スーパーヤード」を。」に社名が由来する新会社「SUPERYARD」が助けてくれる。





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