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【こころ #16】義務教育で精神疾患を教えて偏見を無くす

森野 民子さん(後編)


中編から続く)

 履修する単位を最低限にしてなんとか大学を卒業した息子さんだが、幻聴が消えることは無くふたたび家でゆっくりと休みながら就労支援施設に通ったり、好きな運動のためにジムに行ったり、資格の勉強もするなどゆっくりとではあるが少しずつ意欲を取り戻していった。その中で、自身で見つけた仕事先でも「障害者雇用としてトライアルして無事に終われば採用について話すことになっていた」が、頑張りすぎてしまう。その結果、胃腸炎になってしまい、何もなくとも緊張する症状や不安感が強くなるなど、薬を追加する結果になってしまった。

 でも、森野さんは言う。「頑張った分大変になってますけど、徐々に落ち着いてきてます。その振れ幅とどう折り合いをつけていくか。」が大事だと。併せて、「環境の変化がとても苦手な病気なので、“スモールステップじゃないといけない”とわかってもらえたら」と周囲による理解の重要性も訴えられた。


 看護師の資格もお持ちの森野さんから「がんや糖尿病など他の病気は医療の力がとても強いが、精神疾患は周りの人の力が回復の鍵となる病気なんです。」と教わった。

 新しい友人をつくることも環境の変化になるため、「一番変化が少ないのが昔の友達」。そんな友達から出る「元気になったらいつでも声かけて」という何気ない温かい言葉が回復につながる。息子さんがアルバイト先で知り合った4つ上の男の子が今でも声をかけてくれるのだそう。「その子のおかげで暮らせている。感謝してもしきれない。」と森野さんは話された。


 森野さんには、これから息子さんと同じ経験をされるかもしれないお子さんやご家族を想いながら「少しでも早い段階から友達や学校にも病気への理解が進んでほしい」という強い願いがある。

 息子さんが発症した際、学校に行っても「じゃあどうすればいいか?」と逆に聞かれるばかりだった。職員会議に出て説明することを申し出ても「根性論や努力を重視する対応もあった」。学校を批判したいのではなく、ただ「知って(いて)ほしかった」。

 そんな思いから、森野さんは『義務教育で精神疾患を教えて偏見を無くしてほしい』という署名活動の発起人になられる。そこに集まった55,000名分もの署名は2019年3月に、当時の萩生田文部科学大臣に提出される。その結果、まだまだ道半ばではあるが、2022年度から高校の学習指導要領が改訂され、保健体育の授業で『精神疾患』に関わる単元が40年ぶりに復活することになっていた。

 一般的に学校現場での先生の負荷が増していることもわかっている。故に「先生が生徒の症状を簡単に記載しておくと対応ガイドなどが示されるようなシステムがあるといいのかもですね」なんてお話もさせて頂いた。


 「統合失調症になっても幸せに暮らせる」そう信じて純粋に、ご自身の経験を自身の中で留めず社会を変えることにつなげていこうとされている森野さんを尊敬する。そして、少しでもその力になりたいと強く思う。


【参考】
 森野さんは、脳や心に起因する疾患及びメンタルヘルスへの理解を深め促進する『シルバーリボンジャパン』の副代表を務めておられ、第6話では同団体で監事を務めておられる須賀さんもご紹介させていただいている。


▷ シルバーリボンジャパン



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