見出し画像

【しんけい #4】障害者こそ“与える側”の人間になれる

佐藤 仙務さん(後編)


前編から続く)

 『寝たきり社長』として自ら会社を立ち上げ経営を拡大してきた佐藤さん。

 誰もが前編の話を知れば、「すごい行動力やバイタリティだな」と思うだろう。そう投げかけると、3人の男兄弟の末っ子である佐藤さんから、長男や次男が五体満足でサラリーマンとして結婚して子供をもつ姿を引き合いに「障害なく生まれてきたら会社を立ち上げたりしたかは、自分でもわからない。逆にどうしようもない奴だったかもしれないし。」と笑みを含んだ答えが返ってきた。ただ、「寝たきりで、日常生活のすべてに介助が必要という状況にしては、一般の方に比べて、障害の有無にかかわらず多くの人と触れ合うことができている」と満足げに付け加えた。

 もちろん、多くの障害のある方にも出会い、そのたびに「どうしたら、そうなれるか?」と聞かれる。その際に最も伝えたいことは、「与える側の人間になってほしい」。世の中どこかで“障害者は与えられる側”というバイアスがかかっていて、障害者もどこかで“自分たちは困っているから”というブレーキがかかっている。すべてがビジネスになるかはわからない。でも、「どんな小さいことでもいいから、与えることを意識し、誰かの役に立とうと思って行け!」と背中を押している。

 ある例を挙げてくれた。上肢や下肢障害の方は、体が変化していく中でも、義手や義足や装具は今も石膏でアナログに製作され、何週間も待つのが通例だ。でも今や3DプリンターやAIがある。「今までは自分の生活に足りないものを業者が作るのが当たり前だったが、みんな障害の種類も程度も違う。だったら、自分たちで作ってしまえる環境があればいい。それは、同じように困っている人を救うかもしれない。そんな意識をもてば、世の中もっと面白くなると思いませんか?」。

 障害分野には、技術がこれだけ変化しても、何十年も変わらない仕組みもある。障害のある当事者も、自分で費用を払うわけではなく、税金や保険から出るから当事者意識が芽生えづらい。新しいやり方が生まれない世界では業者も殿様商売になってしまう。それでは、「そのまま数十年、レベルが変わらない」。

  自分や身の回りに課題はあるはずだ。諦めずにそれに取り組み、誰かの役にも立とうとすれば、もっと自分を取り巻く世界は面白くなるはずだ。でも、それをしなければ、何も変わらない。佐藤さんは、それを体現している。


 同じ障害当事者で起業している人もいる。でも、「それがスタートだと誰にも興味をもってもらえない。だから、ITから始めて、飲食もやって、いま介護まで。他と同じことやっていてはダメ」。その言葉は、競争する経営者そのものだ。

 併せて話してくれた。誤解を恐れずに言えば、「福祉や介護って目立たないし、暗いし、みんなが憧れてやる仕事じゃないと思っている」。ただ、同時に、「福祉や介護に人生を通じて縁がなく死んでいく人はほぼいない。誰だって年を取れば、何らかの障害を負う」。

 市場は広い。だからこそ、障害のある人の困りごとに気付ける当事者こそが立ち上がれるはず。でも、僕は負けないよ。そう言っているように聞こえた。障害当事者による起業をもっと応援したい、そう思える貴重な時間をいただいた。




⭐ ファン登録のお願い ⭐

 Inclusive Hubの取り組みにご共感いただけましたら、ぜひファン登録をいただけますと幸いです。

 このような障害のある方やご家族、その課題解決に既に取り組んでいる研究開発者にインタビューし記事を配信する「メディア」から始まり、実際に当事者やご家族とその課題解決に取り組む研究開発者が知り合う「ミートアップ」の実施や、継続して共に考える「コミュニティ」の内容報告などの情報提供をさせていただきます。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?