見出し画像

【しんけい #3】会社を興すしかなかった「寝たきり社長」

佐藤 仙務さん(前編)


 佐藤仙務(ひさむ)さんは、『寝たきり社長』として自ら会社を立ち上げ経営を拡大するとともに、ブログYoutubeでも多くの発信を行い、大変有名な方だ。その名前を検索すれば、この記事よりもよほど多くの情報が手に入るので、是非ご覧いただきたい。

 『寝たきり社長』と称する理由は、生後10か月で診断を受けた『SMA(脊髄性筋萎縮症)』。背骨の中にある神経の束である脊髄、更にその中にある筋肉を動かすための運動神経細胞が変化して、手や足などの筋力が低下していく進行性の『指定難病』である。佐藤さんは現在、動くのは目と口と親指1cmのみであり、それによるマウス操作と会話や表情によって様々なことに挑戦している。


 「会社を興す発想はなかったんです」。誰しも高校2,3年生で進学や就職など将来を考え始める。佐藤さんも「進行していく自分の体とどう向き合うか」も含めて考え始めた。

 当時在籍していた養護学校(現・特別支援学校)の先生方が企業の特例子会社や就労支援の事業所を当たってくれるも、佐藤さんには全介助が必要だ。受け入れ体制を整えることが難しく、面接さえ受けられないケースもあった。働く「土台にも乗れなかった」。 

「『SMA』は身体的な能力だけの問題なので、テレワークで会社が雇うつもりがあれば、自宅から仕事をすることはできるのに」。それが今につながる原点だった。


 「“働く場所がありません”となって、“じゃあ働かない”という選択肢は自分の中でなかった」。だから、何とかしようと思えば「会社を興すしかなかった」。同じく重度の障害のある幼馴染とともに、ホームページや名刺の作成を請け負う会社「仙拓」を立ち上げた。

 「働く場所がないって、つまるところ、“居場所”がないんですよ」。自分だけじゃない。その後、自分と同様に働く場所がない重度障害者を雇い入れ、さらに障害のある在宅ワーカーと企業をつなぐサービスを始めるなど、“居場所”を広げてきた。

 挑戦は、在宅の範囲を超える。障害者や高齢者のように思うように外に出られない方でも食を楽しんでもらうために、キッチンカー事業も始めた。多くの協力者を得て、「寝たきりで、ITはできても、飲食業は無理」という決めつけを覆して見せた。

 この4月には、介護事業にも参入する。数多くの障害当事者と接する中で「働くことや食べることに困っている方も多いが、それ以前に、生活が整っていない障害者が多い」。家族が対応できなかったり、ヘルパーさんが休んでしまえば、24時間介護を受けられない。「外出や入浴って毎日のことですよね?でも、障害者にとっては誰かに止められてできないことが普通」。そうした当たり前の日常生活を送れていない方がたくさんいて、「そこが解決されないと、働く土台にも乗れない」。かつての自分を振り返るように「そこをカバーしてあげたい」。

 「頭が悪いのかも(笑)」。困りごとを抱える人に出会えば、それを解決しようと事業を拡大してきた。「困っている人がいて、それが解消され、なおかつ自分の仕事になれば」。他者への貢献は、自分の“居場所”づくりでもあった。

後編に続く)


▷ 株式会社仙拓




⭐ ファン登録のお願い ⭐

 Inclusive Hubの取り組みにご共感いただけましたら、ぜひファン登録をいただけますと幸いです。

 このような障害のある方やご家族、その課題解決に既に取り組んでいる研究開発者にインタビューし記事を配信する「メディア」から始まり、実際に当事者やご家族とその課題解決に取り組む研究開発者が知り合う「ミートアップ」の実施や、継続して共に考える「コミュニティ」の内容報告などの情報提供をさせていただきます。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?