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【みみ #26】マイノリティの働き方を変えるエンジニア

岩田 佳子さん


 第24話で、聴覚障がいのある木下さんが開発チームに加わっている、リコー社が手掛ける聴覚障がい者向けコミュニケーションサービス『Pekoe(ペコ)』をご紹介した。その『Pekoe(ペコ)』の開発チームリーダーを務めるのが、エンジニアの岩田さんだ。


 「障がいのある方がマイノリティであることも、資本主義の中ではマイノリティ向けのサービスは継続もマネタイズも難しいことも、わかっています。でも、これだけテクノロジーが進んだ世の中で、そのマイノリティの方々の働き方が何十年前と変わっていないことにショックを覚えたんです。」


 第24話でもご紹介したが、リコー製品の一つ「インタラクティブホワイトボード(電子黒板)」への音声認識機能の追加開発を進める中で、聴覚障がい者向けに活用できないかと発案されたことが、『Pekoe(ペコ)』が誕生するきっかけになった。

 当時その追加開発を担当していた岩田さんにとって、実はもう一つ印象的な出来事があった。出産を機に、育児に専念しなければならなかった岩田さんは、「思うように仕事ができなかった」。それを聴覚障がいのある木下さんに話すと、返ってきた言葉は、「(岩田さんは)子供が大きくなったら元通り仕事できるけど、私たちはずっと聞こえないままだよ。」

 「あーっていう感じでしたね。仕事を自由にしたくても、今だけじゃなく、ずっとできないんだって」。岩田さんは、エンジニアとして、障がいのある人も含めて誰もがコミュニケーションできる、今までの働き方自体を変える思いで、テクノロジーに注力し始めた。


 『Pekoe(ペコ)』を利用すれば、遠隔会議の音声をリアルタイムに文字化できるとともに、文字の誤認識があったとしてもその場で修正できて、最終的には会議録の形にもなる。さらに「自然と協力できる雰囲気づくり」を重視し、“ありがとう”を伝えるための「いいねボタン」を入れたり、発話できない人がチャットで気付かれないことがないよう何かしら相手に通知する仕組みを検討するなど、今も改善が続いている。
 岩田さんの想いは一つ。『Pekoe(ペコ)』を通じて、“聞こえない”人でも“聞こえる”人でも「お互いにコミュニケーションを取れるようになれば、仕事って面白くなる」ということを実感してほしいから。



 しかし、冒頭で引用した岩田さんのコメントの通り、「マイノリティ向けのサービスは継続もマネタイズも難しい。」

 「社会課題は分かる人にはわかるけれど、分からない人には全くわからない世界」。なかなか自分事化して、想像力をもって理解をすることが非常に難しいのが現実だ。聴覚障がい者のために導入を検討して運用まできちんと理解して“いいね”と言ってくれる企業はまだ少ない。

 意思決定者も「特に現状で困っていることはない」「(マイクロソフトの)Teamsでも文字起こしできるからいいじゃん」と、まだまだ「情報保障」という思考レベルになってない。そのため、相手の会社の中でも「影響力のある層に働きかけたい」と思うが、現在の社内の新規事業部の一チームという立ち位置から一足飛びには難しい。

 さらに、仮に導入を検討するに至ったとしても、人事か、労務か、聴覚障がい者を雇用する部門かと、「誰がお金を払うか問題」も発生する。最もサービスを必要とする聴覚障がいのある当事者さえも「自分が所属する部門が負担するのであれば気が引ける」という言葉が出ざるを得ない環境だ。


 『Pekoe(ペコ)』は最近、オフィスを飛び出して、スポーツ現場でもスタジアムMCの音声の文字化に使われ始めるなど、利用先が広がっている(参考プレスリリース)。同じようなニーズは公共交通機関にもあるはずだし、能登半島地震が起これば「何かできたのではないか」ともどかしい気持ちが芽生える。

 しかし、まだ「どこでも使える仕組みの青写真はなく」、それぞれのニーズに合わせて作り込めば、さらに“持続的ではない”ビジネスの形になってしまう。事業として継続させるために「社会の色々なシーンで共通して利用できる音声情報の仕組みをどう考えるか」も大きな課題だ。

 正直、議事録機能に特化して、マイノリティを脱して一般向けに広げればいいといった意見もある。しかし、「それはやりたくない。マイノリティの方の意見が入らなくなっちゃうから」。岩田さんに、最初に抱いた想いをぶらすつもりはない。


リコー公式チャンネル RICOH CHANNEL より抜粋


 最後、そんな想いを確認するように、「やれる限りはやってみようと思う」と話された。私も、企業との面談があれば「御社は当然、聴覚障害のある社員も抱えておられますよね。そんな会社で影響力のあるあなたは、まさか“社会課題が分からない人”ではないですよね。」なんて話題を振って、できる限り『Pekoe(ペコ)』を紹介してみよう。読んで頂いた皆様も是非よろしくお願いします。



▷ Pekoe(ペコ)




ここまで読んでくださった皆さまに‥


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