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Tears of The Baddest Man on the Planet. 第一章

Michael Gerard Tyson.

リングに立ち続ける、世界最凶の男へ敬意を込めて

神々の山と呼ばれる
三十の峰と岳から成る霧島連山

その麓に佇めば、海の向こうに今日も相変わらず煙を噴き上げている桜島が見えた
古政会・若頭・古川政成と呼ばれた男は、日本国で唯一、世界で一番強い男
マイク・タイソンのボディーガードを
務めた男である。

本名、板元悦夫は1952年、鹿児島県福山町(現、霧島市福山町)で
父・新一、母・貴恵の四番目の長男として生を受けた
家業は果樹園芸を手広く行い、温州みかん・桜島みかんのは二千本もあり、
その他にも茂木琵琶・田中琵琶・小桃・渋柿と一年中果樹の実らぬ時はない様に考え
その上、稲作まで営んでいたのである。
これは父・新一が一代で求めた物であった

福山町は薩摩半島と大隅半島の両岸に挟まれた鹿児島湾・別称・錦江港の最北に位置し
その錦江港にへばりついたような小さな田舎町であった
その隣町、牛根境はやがて吉川政名の親分・養父になる古川政雄の出身地でもあった。

南国の風景明媚な福山町は、目の前が海
海の向こうにぽっかり浮かぶ桜島山を望み
高原には江戸時代から放牧場が広がり霧島連山も望める牧の原からは
薩摩・大隈・日向の三州を一度に見渡せる事も出来た

少年、悦夫は小学生にもなると、学校の休みの時は必ずみかん畑に駆り出された
みかんの収穫時期は冬なので、寒さに震えながら耐え忍ぶ時間の中
昼食時、父ちゃん母ちゃんと三人で食べる弁当は楽しみで
魚の缶詰を三人で分け合いながら食べ眼下に望める桜島山をを眺め、
大きくなったらきっと偉い人になってみせると、いつも自分に言い聞かすのが常であった。

そんな田舎育ちの何一つ不自由のない家庭に育ち、純粋で汚れを知らない少年が
まさか、中学2年の終わりを境に愚れだしてしまうとはその時、誰が想像しえただろうか

中学生になった少年悦夫は、父・新一から
『悦夫、中学には剣道部が新しく出来るらしいな剣道やってみないか?』
父ちゃんがどうしてもと言うならと。
剣道を学び、やがてその剣道のお陰で
世界チャンプ マイク・タイソンに一目惚れされるに至るのであった

福山中学校は、なんせ田舎の学校
クラブ活動としては、水泳部・卓球部
そして、新たに始められた剣道部のたったの3部しか無かったのである
体育館も建設中で無く、2年生の教室で練習していた剣道部は、机・椅子は廊下に出され
部員は二年生が二名・一年生が十名 竹刀を振って号令に合わせて汗を流していた。

剣道部の様子を観に行くと、一年生の一人が悦夫をめざとく見つけて近くに寄って来た
『剣道部はどうか?』と聞いたところ
『入りたいのか? もう入るのは遅いよ。 防具も竹刀も何も余っていないよ』
と、言うので暫く練習風景を見学して夜、父にその事を話して聞かせると
『そうか防具も竹刀も何も余っていないのか
それなら父ちゃんが新しいのを一式、買ってやるからそれなら剣道部に入るか?』

少年悦夫は『うん、それなら剣道部に入る。明日、剣道部の二年生に話してみる』と答え
剣士・悦夫が誕生した

福山市という所はその昔、福山の赤胴で有名だったらしい。
福山中学の剣道部は去年、出来たばかりだが、同じ福山町にある牧之原中学は
しばし全国大会に出場する程の剣道の盛んな学校だったのだ

学校の休みの日、父とバスに一時間揺られながら鹿児島市内まで剣道の防具一式を買いに行った
防具はもちろん、竹刀・木刀・そして真っ黒な剣道の袴まで買ってくれた
防具の胴は赤胴に決めた
もちろん学校で自分の防具一式持参なんて悦夫一人だけだった
買いたくて買ったのではなく、学校の防具が余っていないから仕方なしに買ったまでの話である。
いかに父が剣道に力を入れていたかが手に取るようにわかった、とても優しい父であった
自前の防具一式ゆえに、剣道の練習に熱が入ったのは、必然の事であった
学校の休みの日には、家の雑木山に行って自分で作った木刀で無茶苦茶に雑木を打ちまくっていた
その雑木の中に、漆の木が混ざっていて漆の木に負けて首の周囲に出来物が帯になった様に出来て
母が包丁を当てて治してくれた。金物を当てるのが効果があるとの事で、
出来物が首一周したら命に関わる危ない事だと教えてくれた。

そして、中学2年の夏には福山中学初の昇段試験を受けた
鹿児島市にある武道館に行き、見事に福山中学から2人だけ初段の免状を取得するにまで成長したのであった

中学2年も終わろうとしているある日、一生を左右される少年悦夫にとって最大の出来事が、
ある男の一言で…
いや、それも不良に成っていくのは性分であったのだろうか?
たった一日で人間の性格が変わろうとは誰も想像し得ない事柄だった
内面を表に出さず、兼ねてと変わらぬ様に生活して行けたなら、少年はきっと大物に成れるだろう。
しかし少年は内面を誰にも見せる事も無しに生活したけれど、その日を境に愚連の世界に突き進んで行ったのである


その日は突然やって来た。同級生で仲の良い男が居た
その男に話がある。教室では言えない話しだと言われたので、
中学の隣にある浄土真宗・西本願寺の末寺・西念寺の所有する畑に行った
そこは学校の裏道から直に行けるのであった。
話は何か、と問うと
『実は昨夜両親から、板元の息子と仲が良いらしいが、あんまり仲良くするな。
と、言われたから何で? と、聞いたら、あそこの親父は朝鮮人だぞと言われた。
それで親にはそんな事、俺達には関係ないと言ったんだ』
そう話すのを悦夫はじっと黙って聴いていた
福山町には外国人は一人も居ないし、道路も凸凹、もちろん信号機なども有りはしない。

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