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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (38) Newens, Richmond

春になったら、ぜひ訪れたいと思っていたティールームがあった。
“Maids of Honour” というユニークな名のついたチーズのパイで評判のお店。 そのティールーム、Newens は、ロンドン南西部 Richmond にある。
普段に加え、さらに天候不順の多い春、今日は珍しく朝からお天気も良いので、Newens を訪ねて Richmond へ出かけることにした。

“Maids of Honour” は、直径6cmほどのチーズとアーモンド・パウダーのパイ。
Anne Boleyn が Henry VIII の最初の妻 Catherine of Aragon の侍女をしていた Richmond Palace で作られたのが始まりとされる。
アンと侍女たちが食べていたこのお菓子をたいそう気に入った Henry VIII は、これを “Maids of Honour” と名付け、レシピを門外不出とし、さらには、このお菓子を作ったメイドを宮殿に閉じ込めて、王家の者たちだけのために作らせた。

それから時が流れて18世紀初頭、レシピはリッチモンドのベーカリーに開示され、それ以降、リッチモンドの名物ともなる人気のお菓子となった。
最初に "Maids of Honour" のお店を開いたのは、Robert Newens。
1850年の創業以来現在までずっと、彼の子孫たちがオリジナルのレシピを守り続けている。

ロンドン南西の郊外自治区、Richmond upon Thames は、古くから別荘地として知られている。 かつては王室の狩猟場もあり、何百年もの間、王族をはじめ、各時代の著名人や上流階級の人々がここに優雅な別宅を構えた。
北に Royal Botanical Gardens、通称 Kew Gardens、南に Richmond Park が広がる。 南西には英国最古の Tudor Style の宮殿 Hampton Court Palace があり、テムズ川は、リッチモンドとロンドンの中心地を結ぶルートとなっている。

Richmond は、かつて “Shene” とよばれる土地だった。
“Shene” が “Richmond” と改称されたのは、15世紀末のテューダー王朝の時代である。
即位する以前 リッチモンド伯爵だった Henry VII が、建造した宮殿に Yorkshire の Richmond Castle にちなんで "Richmond Palace" と名付けたことから、その土地も宮殿の名をとって改称された。

Newens の最寄りの地下鉄の駅 Kew Gardens は、地下鉄 District Line の終点Richmond の一つ手前の駅。
ロンドンの北西部、West Hampstead から地下鉄を乗り継いで約1時間、地上を走る地下鉄が、テムズ川を越えてリッチモンドに近づくと緑もだんだん深くなってくる。 Kew Gardens で地下鉄を下車。
「London A-Z」で確認した通りに住所をたどっていくと、Kew Gardens の石塀に沿う Kew Road に Newens が見えてきた。

昔から続く古いティールームといった風情の赤煉瓦屋根のお店の扉を開けて中に入ると、お店の中はおいしそうな甘い匂いでいっぱい。
ショーケースには、名物の Maids of Honour が真ん中に、他にもフルーツ・ケーキやタルトなどの焼き菓子も並んでいる。
さっそく、ティールームに入って、お目当ての Maids of Honour とお茶を注文。 
メニューには、他にもパイやキッシュ、イングリッシュ・ブレックファストなど英国伝統の食事のメニューもある。

ティールームには、Spode の Blue and White のプレートが飾られてあり、アンティークのテーブルに Old Roses パターンのカーテンも良く合って、落ち着いた、"Cosy" 居心地の良い雰囲気。
暫くして、シルバープレートのティーポットとお菓子が運ばれてきた。
"Spode Copeland Blue Camilla" の Trio が、お菓子をいっそう引き立てている。

トリオは、ティーカップ、ソーサー、プレートが同じパターンで揃えられているものをいう。

ずっと楽しみにしていた Maids of Honour は、さっくりと香ばしくて美味!
帰りには、ミセス・マーティンとジュヌヴィエーヴへのお土産にと、いくつか買い求めた。


Newens で使用されていたテーブルウェアは、今は "Spode Blue Italian" に変わっているが、クラシックな雰囲気のティールームに Blue and White は良く合う。
後に少しづつ集めた "Spode copeland Blue Camilla" の茶器は、今では私のお気に入りのコレクションの一つになっている。

Maids of Honour が登場した Richmond Palace は、ピューリタン革命の動乱時にほとんど取り壊された。
現在残る宮殿の名残は、唯一、赤煉瓦造りの楼門だけである。
このアーチの上部には、Wales と Lancashire に祖先をもつ Tudor dynasty を表す red dragon と white greyhound が the shield of the Arms を支える Henry VII の紋章を見ることができる。

Richmond へは、夏には Westminster Pier からボートが出てるのよ、とミセス・マーチンが教えてくれた。
ボートに乗って、ゆっくりテムズ川を下るのもいいな。
また一つ楽しみが増えた。




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