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『ギター』

guitar
Charles Bukowski

幸運なことに
オレたちには多くの訪問客がいるわけではない
だがオレたちが客をもてなすとき
客の誰かが女のギターが壁に立て掛けてあることに気づく
それがその夜を台無しにしてしまう

「あぁ、ギターがあるじゃないか!」

「そうよ!」女は言う

「少し拝見してもいいかい?」

「もちろんよ!」女は言う

訪問客はギターを手にし
戻ってきて
腰を下ろし
弦をかき鳴らし始める

「弾けるのね?」女は聞く

「少しだけだがね」

そして訪問客は演奏を始める

訪問客の歌声とギターの音が
オレのすぐそばにほぼ鼻の下にまで近づいている

オリジナルの演奏だ
歌詞も旋律も独自のものだ

オレたちは最高の演奏を聞いた

訪問客は演奏を終えた

「素晴らしかったわ!」女はそう言う

訪問客はすぐに別のオリジナル曲の演奏を始める

なぜだかわからないが
その音はオレには不愉快だった

そうだな、まずそもそも歌が気に食わないし
それにギターの音も耳障りだ

今では
次から次と曲を演奏し
曲が止む事はない
その訪問客の客のレパートリーは豊富だった

最初にめまいがし
それから少しずつ吐き気が襲ってくる

その音楽は永遠に続くかのように思えてくる

やっとの思いでオレは言う
「やめてくれ!」

訪問客は静かにギターをコーヒーテーブルに置く

「ハンク!」女は言う
「いったいどうしたのよ?」

「我慢できないんだ」オレは答える

訪問客は戸口立っている
じきに立ち去るだろう

「ごめんなさいね」女は言う

「たいしたことじゃないさ」訪問客は微笑浮かべ答える

彼らは立ち去った

「ねえ、アナタ」女は言う
「アナタは彼らの心を傷つけたのよ!」

「ギターの音は気を滅入らせるんだ」オレは言う
「ギターを弾くのはロクデモナイ連中ばかりだ」

「私たちは友達をなくしたわ!」

「だからどうなんだ?」オレはそう言い喜んで2階へと上がった


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