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「弔辞」

eulogy
Charles Bukowski

古い車、特に中古で買って何十年も乗り続けると
嫌でも愛着が湧くものだ:
そいつが引き起こす厄介事も受け入れられるようになる:
送水ポンプの水漏れ
プラグの故障
絞り弁のサビ
気化器の不調
油まみれのエンジン
時計の故障
スピードメーターの凍結
その他もろもろの欠損

そいつとの情事を続けるためのあらゆる術を学ぶ:
ダッシュボードの小物入れをどれくらいの力で閉めればきちんと閉まったままになるのか、
手のひらでヘッドライトを叩き明かりをつける方法
アクセルを何回踏みスターターに触れるまでどれくらい待てばいいのか
布地に開いたタバコの焼け穴には気づかないふりをし
座席のバネは布を突き破り飛び出ている
そいつはたびたび警察に押収され
あらゆる故障で切符を切られている
ワイパーの故障、
ウィンカーの故障、
ブレーキライトの故障、
テールライトの故障、
ブレーキの効きの悪さ、
過度な排気にその他あらゆること
それらのことにもかかわらず、
不安を感じたことはなく、
事故を起こした事は1度もない
その古い車は忠実に、
オレをある場所から別の場所へと連れて行った

---ロクデモナイ車が起こした奇跡
最後の故障が起きたとき、バルブの作動が止まったとき、使い古されたピストンにヒビが入ったとき、あるいはクランクシャフトが使い物にならなくなったとき、そいつを廃棄するために売りに出した
---そいつが運び出されていく姿を目にしなければならなかった
まるで魂を失ったかのようにそいつはレッカー車の荷台に吊るされたまま運び出されていった
目に飛び込んできたそいつの最後の姿は
すり減った後輪に
ヒビ割れた後ろの窓
捻じ曲がったナンバープレートだった
まるで長年に渡って暮らしてきた最愛の女が死んだかのように悲しかった

そして今
そいつの奏でる音楽を
そいつの魔法を
信じられないほどの誠実さを
知ることは2度とないだろう

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