見出し画像

"悠久戀"其乃伍


 初めて会ったのは、高校二年の春だった。彼女にとっては入学当初の春。
 全然別の中学から、其の高校に進学してきたただ一人の女生徒で、部活説明会後の勧誘期間初日に文芸部の説明をしていただけだった。
 とても利口で、頭のいい子なのだろうという印象だった。
 説明をあたし一人で担当したこと、其の説明で入部を即日に決定してくれたこともあって懐いてくれたのが結戀紗々音だった。
 それから部誌を作るにも、文化祭の展示やらも、やけに前のめりにやってくれた。わからないことは部長でもないのにあたしに聞いてくれたりして、ああ、多少は先輩として慕ってくれているのかな、と思った。同級の部長はほとんど幽霊みたいなものだったからかもしれないけれど。結果去年題した第一弾の部誌はあたしと彼女の原稿が9割だったりした。
 そんななか、彼女が時期外れのインフルエンザにかかって一週間の出校禁止となってしまったことがある。たった一週間だ。其の一週間で、あたしはとあることに思い至る。

 "この感じは、なんだろう"

 その出校停止を聞かされて1日目、教室の自席でちょっと呆然としていたところを友達に突っ込まれた。なんでそんなに突っ込まれるほどボーッとしていたんだろう。そんなこと、過去にはなかった記憶だ。そうして、その友達とも別れて、自宅に帰って、制服から私服に着替えて、思い込んだ。
 うーん。わからない。この感じ、どこかで気づいたことのあるやつなのに、絶対人生で最低一回は体験している状態のはずだ。なのにその正体に思い至らない。
 二日目で、そんな拗らせがより拗れていく。学校なんて3割は上の空。部活の時間帯、ほとんど二人しかいなかった日常が崩壊したという現実が訴えてくる。貴様はいい加減自分の**に気づけ。まるで地獄の淵の鬼が耳元で囁いてるみたい。
 三日目で、少し持ち直した。慣れたのかもしれないなぁ、とその日を思い返しながら机で課題に向かっていたあたしを突然、それまでに感じたことのない爆発的な寂しさが襲う。気づいたら泣いてたなんて初めてだった。これはまずい。けれど、症状は出るけれどその原因に全く思い当たらない。結局そのまま眠りこけてしまった。
 四日目。この日はただただぼーっとしていた。土曜日だった気がする。もう書こうにも何も浮かばないし、無理矢理小説を書いても支離滅裂で話にならない。嫌になっていじけていた記憶がある。
 五日目。この日の記憶があまりない。もしかしたら現実が嫌すぎて眠りこけていたのかもしれない。ある記憶といえば、結戀にラインを送ろうとしてはやめ、送ろうとしてはやめ、を繰り返していた気がする。そしてお母さんに怒られた。
 六日目の月曜日。部活をサボったような気がする。そして帰って制服のままでベッドに体をぶん投げて、今の状態を携帯で書き留めていた。今見るとはっきり言って誰にも見せられたものではない。とにかく自分がわからない、このまま何もできずに死ぬのか、苦しくて仕方がない、みたいな、想像するに末期ガンを抱えた患者の手記のような内容だった。どれだけ自暴自棄だったのかが、手に取るような内容。
 そして、七日目である。
「奈森先輩!」
 少しふらついた通学路。朝の登校時に、背後から誰かが声をかけてきた。
「ん?」
 振り返ると小走りにこちらに向かってくる結戀の姿があった。
 そしてその瞬間、1日目、過去に経験したことがあるような気がしていた異質な感覚の正体に一発で思い当たる。
「……結戀、おはよ。治ったんだ」
「はい!元気になりました!今日からまた部活よろしくお願いします!」
 普段はそんなにテンションの高い子ではないけれど、久しぶりの学校と、回復により有り余った体力のせいなのか満面の笑みで結戀が告げてくる。
「うん。こちらこそ」
 平気なふりして告げるあたし。けれど内心は気づいてしまった自分の本心に怯えている。

 結戀の声に反応して振り返った瞬間に感じた、自分の違和感の正体と本心。
 あたしは、結戀に対して、恋心と殺意を同時に抱えてしまっていたのだ。

この記事が参加している募集

基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw