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Spice Journal Top Page

スパイスジャーナルという本


 『スパイスジャーナル』とは僕カワムラケンジが2010年3月に創刊した(~2015年1月。全十八巻刊行。愛称スパジャー)、当時日本初、いや世界初とも言われたスパイス専門ミニマガジンです。

 本当に大冒険、そしてとてつもなく斬新が詰まった本だと有難いことにインドやアジアファンのみならず、多くの編集業界者たちからもお褒めの言葉をいただきました。既存の出版社からではなく、すべていちから個人で立ち上げたことも斬新だったようです。これについての詳細は「スパジャー誕生物語」をご覧ください。

 コンテンツはスパイスをテーマとしつつ末広がりなのが特徴です。まずは人(特にインド料理人)、旅、各国文化と続き、その後に通常のレシピ、イラストによるレシピ、栄養評価、スパイスの実用データ各種、スパイス料理やその周辺の飲食物のトリセツ。また、精神の調律もスパイス的であるという解釈からヨーガもレギュラーコーナーに。

 ヨーガコーナーのタイトル文字、カタカナやローマ字をヒンズー語にデザインしたのはもしかしたらこれが走りだったのではないでしょうか。デザイナーNくんのナイスアイデアと超力作です!号を重ねるうち、マンガも加えました。

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ヨーガコーナー
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2010年3月創刊準備号のコンテンツページ

 ですが、斬新だったからこそ、想像もつかないような不便さがあり、想定外のパクリ被害にも遭い続けました。

 パクリ被害については語り尽くせません。スパジャーのコンテンツの一部をそのまま引っ張り出した本。そっくりなロゴ。「スパイスジャーナル(SpiceJournal)」とした冊子や本など模造品の登場。その後はカワムラケンジ、デザイナーNくんまでも同姓同名が現れ、紛らわしくもスパイス系の印刷物やSNS上で暗躍。

 そして様々なパクリ被害の根元をみんなで調べていくと、直接間接かかわらずある共通の人物につながっていくことが判明!でもしかしその本人が直接手を汚しているのではないことから実証することが困難なのです。こんなに悪賢い奴が世の中にいるんだ、と本当びっくりこきました。僕にはパクるという発想自体がないのでそれこそ斬新に思いました。

(「スパイスジャーナル」は2021年に㈱アーキタイプが商標登録)

 でも、なんであれスパジャーの最大の難関はお金でした。資金が足らないのです。

 創刊して2年が経った頃、印刷総数2000部を完売しても赤字であることがわかってしまったのです。そう、それまで正確な計上ができていなかったのです。だってやってみなけりゃわからないことばかりだったから。

 このままではあかんと、ちゃんと本体価格と税を設定し、限定的ですが広告も入れるようにし、9号からページ数を32ページから64ページに、本体も300円から600円と倍増。が、それでも徐々に想定外の支出が増えていくのでした。

 例えば倉庫代。号を重ねるほど、しっかりとした倉庫が必要であることがわかってくるのです。印刷物に対し相応の空調管理は不可欠であり、できれば火災や盗難などの保険がかかっていることが望ましい。さらに搬入や搬出作業は自分個人でやるほかないので、倉庫の前か近くに車が停められるスペースがあったほうがいいし、それが自分のいる場所から通いやすい場所でないと何かと問題が出る。そこで家から車で20分ほどの場所にいい倉庫を探し出せたわけですが、今度はこの作業をするのが想像以上に手間暇がかかることがわかってくる。

 手分けしながら、と思いスタッフにも相談するのですが、最も近しい編集スタッフの家は京都の左京区で、当倉庫まで片道どうしても2時間近くかかってしまう。ギャラさえも破格でやってくれているのに、これ以上の負担をかけるわけにもいかない。僕と同市内に住む管理栄養士の女性がいましたが、彼女は車の免許がないし新婚でそれどころじゃない。結局、僕は一人で切り盛りし続けたわけですが、この倉庫代だけで年間30万円ほどかかりました。

 で、最初の1年半は家賃月額52500円、階段で5階の事務所に本を在庫し、その後はおんぼろエレベーター付きの家賃40000円のビルへ移転。しかし、そのビル付近は駐車禁止が異様なまでに厳しいエリアで、営業や配達のために15万円で買った110㏄のスクーターが7回も続けて駐車禁止の切符を切られてしまう。なんぼやねん?!

 打開策を講じているうちに、この空調管理や保険がついた倉庫を探し当てます。が、この倉庫は賃貸期間が長くなるほど賃料が少しずつ上がっていくシステムで、初期に25000円だったものが徐々に値上がりして最終的には30000円超え。

 こうして、いつからか僕は生活費ではなくスパジャーのために雑誌やウェブなどの仕事に奔走することになり、カミさんがさらに鬼へと変貌していったわけです。

 僕の貯金はあっという間に底をつき、無情にも終焉を余儀なくされました。

 たくさんの書店、読者、本好きの編集業界者たちから熱い応援をいただいていましたが、2015年1月、17号をもって休刊を決断。

 容赦のない現実に打ちのめされたわけですが、ただ、普通のクリエイターではなかなか知りえそうにないことが山ほど経験できたことは幸せです。おかげで編集者のみならず、出版社の営業や企画、書店員、大書店の裏の倉庫で働く人、トラックの運転手まで、みんなすごい人なのだと思うようになりました。

 こんな屋台のようなスパジャーでしたが、今なお応援していただいている書店や飲食店、輸入雑貨商などで、こつこつと売れ続けているというのは感無量です。こんなに嬉しいことはありません。スパジャーを愛してくださっているすべての皆様にお礼を申しあげます。本当にありがとうございます!

 というわけで、今度は資金も空調の利いた倉庫もいらないnoteでこつこつと展開、あるいは紙面で出せなかった話を蔵出ししていこうと思います(あっという間に時代は変わった!)。

あらためましてお付き合いのほどよろしくお願いします!

2022年12月
カワムラケンジ

↑創刊準備号vol.00(2010年3月完売)のアドベンとびらページ
15号までのチラシ。

スパジャー誕生物語

日本のコリアンダーの玄関口


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