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火葬島の決闘


大男が一人、囚人護送車の奥で鎮座していた。手足は拘束され、視界は閉ざされ、どこへ往くかも伺い知れるはずもなかった。
「よかったな、今日が死刑執行日だ」看守が言う。
「教誨師はいないのか」
看守がハッと笑った。
「あのキング・ブランドンが神頼みとは傑作だ!だが生憎、お前にゃ祈る神様なんていねえよ」
「チッ」
キング・ブランドン。アメリカ史上最凶最悪のギャングの大ボス。最初で最後のギャングボスの死刑囚といわれたルイス・バカルターの名をかき消すほどの大罪人。手下たちに民間人400人を殺させ、自らも80人手を掛けた超が付くほどの悪漢。
「なにしろお前は火葬されることになる。それも特別のな」
だから神に祈ったところで救いはありやしない、ということだ。
「俺をローストチキンにするっていうのか?」
「それは遠慮願うぜ。食べた瞬間、腹を食い破られそうだ。それに何しろお前は」
「消し炭残さず消える、だろ?」
ブランドンは看守の言葉にかぶせるように言った。
「火葬島。ろくでなしどもをマネキン代わりに核でぶっ飛ばす、バミューダ・トライアングルに隠された核実験場」
「なぜそれを……?」
ブランドンは不敵な笑みを浮かべた。すると、拘束具をベキベキと引き剥がして動き出した!
看守はジェイソン・ボーヒーズを目の当たりにしたような顔で失禁していた。
ブランドンは看守を意に介さずサイの頭突きの如き裏拳で男を振り払った。壁に激突した男の頭はスイカのように割れ、だらりともたれ掛かった。
ブランドンが護送車の扉を開けると、鉄の大部屋が広がっていた。そこは軍用輸送機の中だった。
彼はコックピットの方向へのしのしと歩いていく。扉を蹴破り、パイロットの顔を間近で睨みつける。
「命が欲しけりゃ…分かるな?」
ブランドンの凄みに圧倒されたパイロットは首を二回縦に振った。
大西洋を羽ばたくグローブマスターの翼が右に傾いた。

【つづく】

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