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人生のオープニングテーマ


分娩室でオープニングテーマを流してほしかった。

奥田民生が自分のお葬式で流してほしい曲の一つに、ルイ・アームストロングの「What a Wonderful World」を選んだ記事をよく覚えている。ユニコーンの「すばらしい日々」も入っていた覚えがあるが、あとは忘れてしまった。

お葬式という人生のエンディングでかけられる曲はあるのに、この世に生まれてきたときのオープニングに曲がないのはどうしてだろう。
いや、もしかしたら流されていたのかもしれないが、記憶にない。
生まれたときの体重や顔つきを母親に聞くように、「オープニングテーマなんだった?」と聞けばいいのか。
「あぁ、チャゲアスよ」とさらっと言われるのも、それはそれで怖い。

TVで見る出産シーンでは、まさに産みの苦悩をまざまざと映し出す。
苦しみで歪んだ顔が笑顔に変わる瞬間は、ハッピーな音楽が似合うに違いない。
はじまりや奇跡をテーマにしたような、希望に満ちた音楽を。

妊娠中にモーツァルトの曲を聴かせると、胎児に良いと言われる。
生まれる前と、生まれてから、僕はどんな曲を聴いてきたんだろうと想像する。
いろいろと捻くれてる思考に、音楽は関係あるのだろうか。
最初の出産予定日がクリスマスで、次が元旦で、結果、三が日の最終日に生まれた僕。
さまざまな祝日やめでたい日をスルーし、微妙な日に生まれた僕。

消極的な性格だから、きっと、生まれるかどうかすら悩んだのだろう。

B'zの「ultra soul」とか流してくれたら、あのタイミングで勢いで生まれてきたに違いない。タイミングって大事だ。

そんなことはさておき、人生にオープニングテーマがあれば良かった。
一生を描いた物語の、大事な始まりの場面で、音楽がないのは寂しい。
僕は音楽が好きだから尚更だ。エンディングテーマを何にしようか一生をかけて厳選していく上で、オープニングも決めたかった。


明るいJ-POPか、激しめのロックか、穏やかなクラシックか。
はたまたレゲエか、テクノか、ジャズか、メタルか、ブラックミュージックか。
ここまでくるとよくわからない…と思いつつ、ふと気付く。





もしかしたら、流れていたのかもしれない。






苦しみが安堵に変わる母親の息。
喜びと「がんばったね」を全力で伝える父親の声。
よくわかってはいないが、とにかく皆が喜ぶのを見上げる三つ上の兄の足踏み。
祖母はソプラノ。祖父はバス。
数々の出産に立ち会ってきたプロ達の、心からの「おめでとうございます」のハーモニー。

そして、この世に生を授かった僕の、皆への感謝を伝えるサビ。
それは、ただの泣き声でしかない。
ぐっしゃぐしゃの、ぴーぴーの、おえんおえんの、うわーんうわんの。

音程が合っていたかはわからない。しっかりと歌えてたかはわからない。
でも、感情は込めたつもりだ。これまでの合唱やカラオケで歌ったときよりも、誰よりも喜びを伝える讃歌になっていたら、それでいい。


録音ができなくたって、CDにできなくたって、サブスクになくたって。


そこにいた全ての声や音や息や空気が、僕の人生のオープニングテーマだったに違いない。


とかいいつつ、僕は出産に立ち会ったことが一度もないので、綺麗事かもしれない。
実はめっちゃ静かだったらどうしよう、とか心配になる。
そのときのために、自分の子供が生まれるときはスピーカーを用意しよう。

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