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#3 『地域の声』を聞く技法と作法

本note『たのしい地方創生』では、ローカル・ビジネス・エッセイとして、地域活性化やまちづくりの現場からの考察をお届けしていきたい。

さて、今回は『声を聞く』というテーマを取り上げる。
地域経営の現場では、『声』という言葉を『①住民の声』『②顧客の声』という意味に分けて使用することが多い。

『①住民の声』とは、行政運営の領域の言葉である。行政機関が提供する住民サービスが、住民のニーズに沿ったものになっているかを検討する際に用いられる。

一方、『②顧客の声』とは、地域経営の領域の言葉である。例えば、商店街振興の世界では、大型ショッピングモールとの競争の中で如何に顧客(消費者)を引き込むかが主な論点である。また、県全体の観光振興の世界では、地域の外から如何に顧客(観光客)を呼び込むかが主な論点となる。

整理すると『①住民の声』とは、『行政サービスの根拠となる住民ニーズ』、『②顧客の声』とは、『地域経営の売上向上に向けた消費者ニーズ』と言えるだろう。

『住民』と『消費者』は、本来同一であることは言うまでもないが、概念として切り分けて、議論を進めたい。

声を聞く手段

では、『住民』や『消費者』の声とは、どのように把握するのだろうか。もちろん、直接会ってお話を伺うことや、アンケート調査などを用いて把握を試みることもあるだろう。

ここでは、『住民の声』を把握する手段として、今回は『パブリックコメント』を、『消費者の声』を把握する手段として、今後、『マーケティング・リサーチ』の概念を紹介していく。


パブリックコメント

『パブリックコメント』という言葉は意外と聞きなじみがない。実務の世界では『パブコメ』などの略されたりする。

(前略)行政機関は、政策を実施していくうえで、さまざまな政令や省令などを定めます。これら政令や省令等を決めようとする際に、あらかじめその案を公表し、広く国民の皆様から意見、情報を募集する手続が、パブリック・コメント制度(意見公募手続)です。

出所:電子政府の総合窓口(e-Gov)

つまり、自治体が何か施策を打ちたいと考えた際に、住民に感触を尋ねるという手続きである。具体的には、町に施設を建てたり、新しい条例をつくるに際しては、ユーザー目線から検証するための仕組みとも言えそうだ。

意外とご存知ない方が多いのですが、パブコメは行政のホームページなどで、頻繁に実施されている。逆に言うと、行政のホームページを見ていないと、中々実施に気づけないこともあると思う。

※もちろん、自治体の広報誌などで情報発信されている。ただし、意識していないと気付きづらい。

パブコメは、一定期間募集された後、自治体側で意見の取りまとめが行われる。そして、施策に意見が反映させ、修正がなされる。その後、修正後の施策内容が公表され、施策が実行に移されるという流れとなる。

このしくみ自体は、受益者の声を拾うためのものであり、総論に反対する人は少ないだろう。しかし、『声の把握の正確性』や『声の反映の度合い』には議論の余地があるように思う。

そもそも、普通に市民生活を送っていて、『お、パブコメやってる、意見しなきゃ』とはなりづらい。忙しい日常生活を送る現役世代ほど、プライベートの時間で自治体ホームページを覗く機会は少ないだろう。

この仮説が正しいならば、『パブコメに意見している人』は、特定の属性・志向に偏っていて、収集できる情報は『住民の声』ではなく『パブコメに意見している人の声』でしかない可能性がある。

また、パブコメの意見は、実際に政策にどこまで反映されているだろうか。既に実施が決まっている事業について、微修正を加えるだけであれば、大勢への影響は乏しいわけである。つまり、『大勢』に対する民意の反映は限定的であり、『大枠は決まっていて、一応住民の声は聞きました』という形式的な手続きに留まっている可能性もある。


関わって『面白い』が大切

『パブリックコメント』自体は前向きなしくみであり、施策に住民の声を反映させる数少ない機会であるから、積極活用されてほしいものである。

そのために、既存の『運用』が形骸化することを避けるしかけの検討があっても良いかと思う。具体的には、SNS化したり、WEB3の技術を活用したりしながら、集まっている意見の可視化を促し、優れた意見に対する報酬設計などもあり得るのではないだろうか。

既にこのようなコンセプトの検討や実装が進む自治体は確認される。同時に、その課題についても確認されている。筆者は、特定の技術を礼賛するつもりは一切なく、『住民意見収集プロセスの体験価値向上』を実現するにはどうすればよいか、という議論を検討してはどうかと考えている。その検討そのものに住民意見を活用するというアプローチもあるだろう。

今後、『マーケティング・リサーチ』についても書いてみたい。

ほなら。

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