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「大豆田とわ子と三人の元夫」が最高である理由。(前編)


とんでもない傑作を観た。
すべての人におすすめしたい、最高のドラマである。

■”坂元節”の到達点

脚本・坂元裕二、主演・松たか子&松田龍平という「カルテット」以来の組み合わせによる今作は、「カルテット」同様”坂元節”とも言うべき秀逸な会話劇としての側面を持っているのだが、その濃密さにおいて今作は「カルテット」を凌駕している。

「カルテット」がストーリーの核にサスペンス要素を含んでいたのに対し、今作はコメディー的な色合いが濃いことも一因かと思われるが、何にしてもこの圧倒的な密度を持った言葉の応酬は今作の大きな特徴であり、坂元作品のひとつの到達点と言って良いだろう。

それを踏まえた上で、この大傑作の魅力について読み解いていきたい。

■痛々しくも可笑しい、元夫たち

主人公・大豆田とわ子(松たか子)は、住宅建設会社「しろくまハウジング」で社長を務めており、現在は15歳の娘・唄(豊嶋花)との二人暮らしである。

彼女には三度の離婚歴がある。

一人目の元夫・田中八作(松田龍平)はレストランのオーナー兼ギャルソンで、唄の実父。

二人目の元夫・佐藤鹿太郎(角田晃広)はファッションカメラマン。

三人目の元夫・中村慎森(岡田将生)は「しろくまハウジング」の顧問弁護士。

年齢も性格もバラバラな彼らだが、三人とも、とわ子のことを今も想っている点では共通しており、事あるごとに彼女の前に現れては、何かと世話を焼きたがる。

彼らの振る舞いは時にストーカーまがいでもあるし、お互いにけん制したり張り合ったりしてはとわ子に諫められる様子が大人げなくもあるのだが、”坂元節”は凄まじい情報量かつ絶妙なテンポの会話によって、その痛々しさをむしろユーモラスで吹き出してしまうような楽しいやりとりへと昇華させている。

互いに張り合いながらも、やがて話が進むにつれ、とわ子を想う同志である彼らの中には、しだいに友情のようなものが芽生えてくる。
この様も、観ていて何とも微笑ましい。

彼らは、とわ子とどのようにして出会い、結婚したのか。
そして何故、離婚しなければならなかったのか。
劇中、それらはさほど詳しく語られない。

が、彼らそれぞれの前にとわ子とは別の女性達が現れ、その女性達との関わりの中で、彼らは過去の自分を振り返る。そこに生まれる反省や後悔が、彼らのパーソナリティを、そして彼らがとわ子との離婚に至った理由を、くっきりと浮き彫りにする。

そして彼らは言う。「僕たちは大豆田とわ子に甘えていた」と。
別れてもなお、彼らがそこまで想いを寄せる大豆田とわ子。

彼女はいったいどのような女性なのだろうか。

(後編へ続く)

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