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運河をめぐりながら「きときと」の風景に出会う〜フットボールの白地図【第11回】富山県

<富山県>
・総面積
 約4247平方km
・総人口 約103万人
・都道府県庁所在地 富山市
・隣接する都道府県 石川県、岐阜県、新潟県、長野県
・主なサッカークラブ カターレ富山、富山新庄クラブ、ヴァリエンテ富山
・主な出身サッカー選手 柳沢敦、楽山孝志、中島裕希、岡本將成

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 昨年11月からスタートした「フットボールの白地図」のプロジェクト。「47都道府県のフットボールのある風景」の写真集を完成させるべく、今年も粛々と続けていくことにしたい。当プロジェクトは、無料公開とOWL Magazineの2本立て。今年も引き続き、お楽しみいただければ幸いである。

 昨年9月から12月にかけて、私は狂ったように国内の旅を続けていた。目的はもちろん、白地図の塗りが淡い土地を、的確に塗りつぶしていくこと。今回フォーカスする富山県も、北信越の中では最も訪れる機会が限られていた県であった。

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 初めて取材で富山を訪れたのは、2008年の秋のこと。この前年、JFLに所属していた、北陸電力サッカー部 アローズ北陸とYKK APサッカー部が合併。新たにカターレ富山となり、Jリーグを目指すこととなった。地元大手企業チームを前身としているだけに、練習環境は抜群。より地域密着に成功すれば、興味深いムーブメントが起こるかもしれない──。当時はそんなことを考えていた。

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 次に富山を訪れたのが、東日本大震災があった2011年の天皇杯取材。J1の横浜F・マリノスとJFLの松本山雅FCが、なぜか富山県総合運動公園陸上競技場(県総)で対戦することとなった。この年の山雅はJ2昇格を果たしたものの、F・マリノスから獲得した松田直樹を失ったばかり。試合前日に積もった雪を、地元の高校生が除去してくれたおかげで、運命の対決にふさわしい舞台が整った。

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 そして2020年10月、9年ぶりに富山県を訪れることになった。JR富山駅とその周辺は、すっかり綺麗になったと聞いていたのだが、改札を出たところで床面の美しさにまず驚く。このフロア・シャンデリアは「ガラスの街とやま」をアピールするために 5年前に設置。22基のLEDライトに照らされて、シャンデリアのように多彩な輝きを見せる。

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 久々の富山で、もうひとつ楽しみにしていたのが、ポートラムと呼ばれる路面電車。前回訪れた時から存在していたが、改修工事を終えた駅前を行き来する光景は、さながらヨーロッパの小都市を訪れたような気分になる。今回は、富岩水上ラインの運河クルーズで訪れた岩瀬浜から、富山駅に戻るときに利用。非常に静かで、心地よい走りだった。

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 富岩水上ラインの運河クルーズは、今回の富山観光のハイライト。富山駅から徒歩10分、富岩運河環水公園からソーラー船に乗って中島閘門を経由し、富山湾を眺めながら岩瀬エリアまでの船旅を愉しむことができる。富岩運河は昭和初期に整備され、戦前は富山の工業化に寄与し、戦後は復興のための物流に貢献した。こうした運河のある風景も、オランダやデンマークの都市を想起させる。

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 ソーラー船が富山湾まで到達した時、ふと「きときと」という不思議な響きの言葉を思い出す。富山弁で「新鮮な」という意味で、海産物などを表現する時によく用いられる。私は富山湾の空と海の青さ、そして古めかしい外国船(ロシアから来航したのだろう)とのコントラストに「きときと」した美しさを感じた。富山に遠征した際はぜひ、試合前の運河クルーズをお試しあれ。

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 富山に来たからには、立山連峰も拝んでおきたい。しかし見る見る雲行きが怪しくなり、カターレのホームゲームは冷たい雨が降りしきる、あいにくの空模様。試合後、奇跡のように雲間から光が差し、山々のシルエットが浮かび上がった。お世辞にも、サッカーが見やすいわけではない県総。それでも、立山連峰が遠景に見えるロケーションは実に羨ましい。

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 最後に、富山の食について。白エビ、ホタルイカ、ブリ、そしてます寿司など、海産物はどれも美味しい。そんな中、ここは当地が誇る富山ブラックを挙げておきたい。終戦後、復興事業に従事する労働者のために「塩分補給ができるラーメン」として考案され、やがてご当地B級グルメとしての地位を確立していく。ビジュアルどおり、かなり塩辛いので好みがはっきり分かれるかもしれない。

<第12回につづく>

宇都宮徹壱(うつのみや・てついち)
写真家・ノンフィクションライター。
1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年に「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」を追い続ける取材活動を展開中。FIFAワールドカップ取材は98年フランス大会から、全国地域リーグ決勝大会(現地域CL)取材は2005年大会から継続中。
2016年7月より『宇都宮徹壱ウェブマガジン』の配信を開始。
著書多数。『フットボールの犬 欧羅巴1999‐2009』で第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、『サッカーおくのほそ道 Jリーグを目指すクラブ 目指さないクラブ』でサッカー本大賞2017を受賞。近著『フットボール風土記 Jクラブが「ある土地」と「ない土地」の物語』。


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