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サッカーファンやサポーターはなぜ旅に出るのか〜移動を制限された今だから考えたい「旅の効能」

「フットボールのない日々が続いている」──。最近、そんな原稿ばかり書いている。
 新型コロナウイルスの感染拡大により、サッカーをはじめとするあらゆるスポーツが、日本のみならず世界中で中止もしくは延期となっているのは周知のとおり。その件については、すでに宇都宮徹壱WMをはじめとするメディアで言及し続けてきた。本稿では「旅とサッカーを紡ぐ」このOWL Magazineの主旨に沿って、特に「旅」にフォーカスすることにしたい。

 多くのサッカーファンは「試合のない週末」の寂しさに苦しんでいる。それを生業にしているわれわれもまた、当然ながらその思いは強い。加えてもうひとつ、最近は「旅に出られない」苦しさも強く実感している。最後に新幹線で移動したのは、2月中旬の岡山取材。最後に飛行機に搭乗したのは、昨年12月のE-1観戦で韓国の釜山まで往復した時だ。今月は取材で鹿島に2度行った以外、ずっと自宅のある都内でくすぶり続けている。

 このほどJリーグでは、公式戦再開後の2カ月ほどは「(長距離移動による)アウェー観戦自粛」を要請することを明らかにした。するとSNS上では、Jリーグファンによる「なんで〜?」という声が続出。確かに、J2再開予定日が5月2日ということで「GWの予定が〜!」という人も少なくないだろう。そうでなくとも、もともとサッカーファンは遠征が大好き。サッカー観戦と旅は不可分なのである。

 旅のない欠乏感。それを最も痛切に感じているのは、実のところサッカーファンやサポーターであるように感じる。なぜなら彼ら・彼女らにとり、サッカー観戦と旅は不可分だからだ。ではなぜ、不可分なのか? これはOWL Magazineの根幹にも関わる命題である。もちろん、サッカーファンには言わずもがなであろう。が、そうでない方が理解しやすいように、旅にまつわるネガティブ要因を提示した上で、私なりに「旅の効能」を言語化を試みてみたい。

【その壱:旅はカネがかかる】

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 まず、最初に立ちはだかるハードルが、これ。私の交友関係には、旅先での豪遊を楽しみにしている人が何人かいるが、これは極めて例外的な部類。大半は、移動と宿泊のコストパフォーマンスを熟慮しながら、旅のプランを立てている。とはいえ、旅に出なければ出費は抑えられるわけで、旅という行為は非効率的でコスパが悪い、という話になりかねない。

 ならば、旅に投資することで得られるものとは何か? 多くの人は「体験」や「思い出」と答えるだろう。旅することによって、新たなお金が生み出されることは(よほどの大作家先生でもないければ)基本的にはあり得ない。ゆえに、お金が出ていくばかり。われわれライターであれば、そこで「何とか赤字にならないように」と回収を試みるわけだが、サポーターは旅そのものに価値を見出そうとする。

 周知のとおりフットボールの試合は、再現性が極めて難しいスポーツだ。同じゲームは、ひとつとしてない。そこに旅を掛け合わせることで、得られる体験と思い出のバリエーションは無限大。平日のルーティーンに追われている人ほど、このバリエーションの魅力に取り憑かれるのも当然だろう。「フットボール✕旅」で得られる価値を認め、自身の収入と余暇をそこに投資することで喜びを感じる。そんな人たちに「カネがかかる」と指摘するのは、ナンセンス極まりない話である。

【その弐:旅は面倒くさい】

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 旅に出る時、特に海外の場合は面倒なことの連続である。まず、航空券とホテルの手配。ただ予約するだけでなく、さまざまな条件の中から旅の目的に見合った最適解を探さなけばならない。続いて試合チケットの確保、国によってはビザや外貨も事前に用意しなければならない。重たいトランクを引きずって空港に向かい、狭い機内に10時間以上も閉じ込められ、ドキドキしながら入国審査を終えると現地のタクシーとのタフな交渉が待っている。

 お金に余裕があれば、すべての作業をコーディネーターに委ねることができよう。だが、大半のサポーターは「もったいない」と思って、それを決して良しとしない。お金がではなく、面倒くさい体験ができなくなることが「もったいない」のである。先ほど私は、旅で得られるものとして「体験」や「思い出」を挙げた。自身の体験から鑑みるに、それらは快適さよりも、むしろ失敗や不便さと強く結び付いている。

 タクシーにボラれた、ホテルのお湯が出なかった、期待していたレストランの味がイマイチだった、肝心の試合は大雨の上に負けてしまった、などなど。そんな旅の帰路で味わうほろ苦さは、また格別だ。それでもなお、懲りずに次の旅を計画している自分がいる。なぜ、サポーターは旅を続けるのか。面倒くさい体験の積み重ねで得られる「ささやかな達成感」に、その答えがあるように私には感じられる。

【その参:旅は常識が通用しない】

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