【ショートショート】女の会話
AとB「乾杯!」
A「お昼から飲んでるなんて、私たちってどうしようもないわよね」
B「"鬼の居ぬ間に"ってね」
A「その鬼も黙認してるようなものだけど」
B「男って本当、寛容よね。細かいことが見えてないっていうか」
A「そうそう、手懐ければこっちのやりたい放題」
B「女って欲深いわよね」
A「そうね、親の財産の管理なんて、大体娘がやってるしね」
B「遺産で揉めるのも、大抵女同士」
A「でも、女の欲がまかり通る世って、平和ってことよね」
B「戦争になったらこんなことしていられないものね」
A「女の自分が言うのも変だけど、女の価値観が支配する世界って、くだらないわ」
B「確かに、小さくまとまっちゃう感じがするわね」
A「男の眼差しは外へ向いているから争い事がおこるのかしら」
B「そうかもしれないわ。戦うイコール強い男みたいな」
A「戦争がなくならないわけだわ」
B「女がのさばることに危機を感じる男たちが戦争を起こすのよ。男の威厳を守るために」
A「そうそう、何十年か前に見たアジアのどこかの国の映画なんだけどね、久しぶりに再会した男に女が『気持ちよくしてあげましょうか?』って言ってアレをしゃぶるのよ。男が果ててそれで終わり。女の欲望はどこ? って思って。究極の男尊女卑。その国は兵役があるわ」
B「お国のために尽くしてくれてるんだから、私たちがあなたたちに尽くしますっていう女の申し訳なさの表れなのかしらね」
A「戦争といえば、海外で始まったじゃない。ニュース見てたら、出征する息子を、ただ涙を流して送り出してた母親の映像が流れたのよね。もしうちの息子が同じ立場になったら、私はどうやって送り出すんだろうかって考えちゃって……」
B「本人を前にして"君死にたまふことなかれ"とは言えないわよね」
A「そうなのよ。自分がやらなければっていう正義感の強い子は、その心意気だけで英雄だと思うけど、おそらく大体は消極的じゃない。代わってあげられるわけではないし、行かないでって本心を言ったところで、里心を刺激するだけで、本人のためにならないのよね」
B「そうね……どんなにつらい状況にあっても心は自由よ、肉体を失うことがあっても、命の過程のひとつなんだから、たとえそうなったとしても、心は繋がっているわ……とか」
A「そう言ってみたいけど、実際にその状況になったら、はたして言葉が出てくるのかしら……あら? 車の音がしない? あの人たち、帰って来たんだわ」
B「いつもよりずいぶんと早いわね」
A「ワインだけは片付けておきましょう」
Aの夫「帰ったぞー」
Bの夫「お邪魔します」
A「お帰りなさい。今日は早いのね……あら? あなた、なんかお酒の匂いがするわ。こんな昼間から飲んでたの?」
B「ちょっと、あなたのポケットから落ちたこれ何? 高級クラブの会員証!? 一体何やってんのよ!」
A「信じられない、真っ昼間からふたりでこんな遊びをしていたなんて……!」
B「あんたたちみたいに、己れの欲望を満たすためだけに生きているような人間どもは、この国のガン細胞よ!」
A「そうよ、国賊よ!」
Aの夫「国賊? 心外だな。戦争になったら進んで協力しようと思っているのに」
B「こんな好色ジジイどもに何ができるっていうのよー!」
Bの夫「兵士に快楽を提供する側としての協力さ」
Aの夫「俗に言うピー屋ってヤツだね」
AとB「ゲスの極みじゃん」
(了)
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