タバコ【蜃気楼】
彼は昼休憩になると、いつも屋上で煙草を吸っている。
手摺柵に肘をつき、虚ろな目でぼんやり遠くの方を見ながら煙を吐き出している。
くたびれたスーツが仕事の疲れを物語っている。
幸の薄いやつれた顔、解けてしまったネクタイ、セットの乱れた黒髪。
それでも、どこか満足げな瞳で空を見上げていた。
吐き捨てた煙の先に、どこか遠く未来のイメージを膨らませ、彼はこの場所でぼんやり風に吹かれているのだろう。
空の缶コーヒーに吸い終わった煙草を入れると、彼は溜息を一つ吐いてから屋上を後にする。
白い煙が風にユラユラ揺れて、夏の空に溶けて消えた。
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