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館の女【轆轤首】

ーーーはっくしょん

くしゃみと一緒に、西條寺あやめの頭が首からゴロンともげ落ち、絨毯の上を転がってゆく。
それは丁度、西條寺あやめが父の海外出張の土産物であるドイツコークを嗜んでいる最中だった。

ゴロゴロと転がって行く首は、やがてベット下に置かれたキャリーケースにぶつかり止まった。

赤いドレープの隙間からは白い月明かりが差し込んでいる。垂れ流しのレコードがかかった部屋の中で、首のない館の女が自らの部屋であたふたと立ち尽くしている。

西條寺あやめには生理が来ないかわりに、1〜2ヶ月に一度こうして頭がゴロンともげ落ちて、一晩経つ頃には頭が生え変わる様になった。

首の処理はあやめの父、西條寺康とその側近と一部のメイドの者が執り行っている。
喋り続ける首を館の陶芸窯で火葬をした後、庭の土へと散骨。
西條寺家にはもう百は下らぬであろう同じ顔の首が庭に埋められている。
しかも首は離れてもそれぞれが意思を持っており、窯で焼かれる際に決まって西條寺康達へ憎悪の念をぶつけ絶叫しながら焼かれていく。
だからして、この館には西條寺あやめの怨念が渦巻いているに違いない。

やがて庭中が西條寺あやめの首で埋め尽くされ、この館はいずれ呪われてしまうのだろうと、西條寺康は思った。



s市の小学校生徒の間では、山の洋館には首だけが宙を舞い人を誑かすろくろ首が住んでいるという学校の七不思議が細々と語り継がれているらしい。

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