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最新の技術系スタートアップを知れば、ビジネスの未来が見える「第5回J-TECH STARTUP SUMMIT」レポート

2021年2月25日、TEPによる「第5回 J-TECH STARTUP SUMMIT」が開催。各業界のフロントランナーとなるだろうJ-TECH STARTUPの認定を受けた10社による事業紹介を含めたプレゼンテーションが行われました。

また今回は一般社団法人日本能率協会が共催に加わったことで、日本能率協会の近田高志氏モデレーターのもと「日本は技術がリードする ―オープンイノベーションの現在と未来―」をテーマとしたパネルディスカッションも実施しています。

未来を拓くディープテックとは何なのか、また国内のスタートアップと大企業による連携について、イベントの内容をご紹介します。

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グローバルな活躍が期待されるディープテックスタートアップを認定するJ-TECH STARTUPについて

技術をビジネスのコアコンピタンスとした事業で、今後グローバルな成長が期待される技術系スタートアップを「J-TECH STARTUP」として認定する取り組みです。認定によって技術系スタートアップに焦点を当て、重要性に注目し、スタートアップのサポート体制の確立を目指しています。認定企業は専門家による、書類審査、プレゼン、面談などの審査を経て選出され、メンターやグローバル展開へのサポートが受けられます。

本年は、医療やAIなど、世界が直面する課題の解決に技術で取り組む10社が選出されました。今後は、共催である日本能率協会との共同企画を予定しており、国内における技術系スタートアップ成長のためのエコシステム構築を目指していきます。

未来を拓くディープテック・スタートアップが集結!
J-TECH STARTUP 認定企業 事業紹介ピッチ 

【シード枠】

COVID-19を含む血管炎を発症する疾患の治療薬
株式会社A-CLIP研究所 (製薬)http://www.a-clip.jp/
登壇者:代表取締役 鈴木 和男氏
「血管炎」にフォーカスした医薬品の開発と販売を行う千葉大学発のスタートアップ。これまで治療薬の大量投与を必要としてきた患者への負担をより小さくする研究・開発に取り組んできました。献血の減少による血液製剤の原料不足を見越して、人工的に抗体をつくり出す技術を開発し、また生成の簡易化に成功しました。2020年から猛威をふるう新型コロナウイルス感染症「COVID-19」には血管炎が合併症の一つとして挙げられ、その治療に注目が集まっています。

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表情解析でオンライン・コミュニケーションの質を向上
株式会社I’mbesideyou (AI)https://www.imbesideyou.com/
登壇者:代表取締役社長 神谷 渉三氏
新型コロナウイルスの影響を受け急速にオンライン化が進んだものの、表情や視線といった細かな動きを読み取るのは困難です。教育現場や職場など、細やかなコミュニケーションが求められる場でのやりとりをAIによって手助けするのが「I’m beside you」。AIによって表情や顔の動き、視線などを解析することで「見える化」を実現し、よりよいコミュニケーションの創出に挑みます。中国やインドといったアジア諸国でのグローバル展開にも積極的に取り組んでいます。

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世界市場を見据えた毛髪分析サービス
株式会社ミルイオン (医療)https://miruion.com/
登壇者:代表取締役 小竹 和樹氏
「質量分析イメージング」と呼ばれる分析手法によって、1本の髪から多種多様な情報を取り出す技術を有する、大阪大学発の「ミルイオン」。髪にはストレスや健康状態、摂取した化学成分など多くの情報が蓄積されます。これらの情報が髪のどこに、どれだけあるかを詳細に分析することで、その人がいつ、どのような状況下にあったかを推測でき、投薬履歴や健康状態をはじめ、将来的には疾病の発見にも役立てられる可能性に期待がなされています。

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様々な衛星データを活用した土地活用解析サービス
株式会社天地人 (宇宙)https://tenchijin.co.jp/
登壇者:代表取締役 櫻庭 康人氏
人工衛星による“宇宙ビッグデータ”を活用して事業を展開する「天地人」。地球では急激な気候変動の局面を迎えており、農業などにも悪影響をもたらす懸念が広がっています。天地人では衛星データと独自開発のAI解析技術によって、複数の条件から農業に最適な土地を探すことができます。キウイの販売で知られる「ゼスプリ」社との協働によって気温や降水量などのデータをかけ合わせ、栽培に適した土地を探すプロジェクトにも取り組んできました。

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独自の中分子高速スクリーニング法の医薬分野への応用
Veneno Technologies株式会社 (製薬)https://veneno.co.jp/jp
登壇者:代表取締役社長 吉川 寿徳氏
多くの疾患に深く関わっている膜タンパク質を標的とする医薬品の開発は困難であるとされていますが、「Veneno Technologies」では独自のスクリーニング技術によってこの膜タンパク質を標的とした新規ペプチド医薬品の創出に取り組んでいます。自然界に存在する有毒生物たちの生理機能をヒントに、イオンチャネルを舞台とした創薬に向けて基盤技術を完成させつつあります。医薬品事業に加え、環境負荷軽減のためのバイオケミカル事業計画も進行しています。

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【アーリー枠】

建設現場の視点から生まれた、課題解決型ロボット
建ロボテック株式会社 (ロボット)https://kenrobo-tech.com/
登壇者:代表取締役 眞部 達也氏

「建ロボテック」は、建設現場の課題に取り組むスタートアップ企業です。人手不足の深刻化が進む建設現場では省力・省人化が喫緊の課題。人が行っている単純作業も多く、マンパワーが割かれている現状を打開するのが「トモロボ」です。鉄筋の結束という、単純でありながら膨大な作業に特化したロボットを導入することで人間がより高度な作業に集中でき、生産性の向上に役立ちます。労働人口が減っていく建設業界をロボットとともに支えていきます。

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物流倉庫に合わせたカスタマイズが可能な実用的搬送用ロボット
株式会社LexxPluss (ロボット)https://lexxpluss.com/
登壇者:代表取締役 阿蘓 将也氏

オンラインショッピングなどの増加によって、倉庫内での輸送力不足が問題化しています。人力での入庫や出庫に限界を迎えている物流倉庫で活躍する自動搬送ロボットの開発を行っている「LexxPluss」が提供するのは「軌道走行」「自律走行」という異なる2つの動きを可能にするハイブリッド制御型の自動搬送ロボットです。試験導入から実運用、管理までを一気通貫で提供できるサブスクリプション型の事業モデルを想定し、ビジネスを展開していきます。

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藻を使った採算性があるパーム廃棄物の再利用事業
MoBiol Holdings Pte Ltd (バイオ)https://www.mobiol.tech/
登壇者:CFO 高田 大地氏

インドネシアなどで生産される「パームオイル」は、食用油や石けんの素材として大量に作られていますが、このパームオイルを作る際に排出される廃液が、環境汚染の原因として問題視されています。「MoBiol」ではこの廃液を藻類の栄養として再利用し、さらに育った藻からサプリメントの成分などとしても知られる「DHA」の原料となるオメガ3脂肪酸を精製する技術を開発しました。既にインドネシアでプラントを建設し、操業を開始しています。

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無害な水を燃料とした衛星用小型推進機の実用化
株式会社Pale Blue (宇宙)https://pale-blue.co.jp/
登壇者:代表取締役 浅川 純氏

小型衛星の開発や産業化を推進する「Pale Blue」。多くの企業が小型衛星を活用した事業を計画するなど、小型衛星は高い市場ポテンシャルを秘めています。一方で小型衛星は大型衛星と比べ機能面で劣り、宇宙で能動的に操作できないのが課題とされてきました。Pale Blueが開発した「水レジストスラスタ」は水を原料とし、安全な推進剤の搭載に成功。2019年に国際宇宙ステーションから放出された小型衛星に搭載され、運用がスタートしています。

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どんな車にも簡単に後付けできる独立型運転支援システム
株式会社Pyrenee (AI)https://www.pyrenee.net/
登壇者:代表取締役 三野 龍太氏

交通事故の70%以上はドライバーの見落としや発見の遅れによって起こっているといわれています。「Pyrenee」が開発したAIアシスタント「Pyrenee Drive(ピレニードライブ)」はドライブレコーダーのように進行方向を撮影し、高い精度で道路状況や歩行者の動きを予測・分析してドライバーへ注意を促し、安全なドライブをサポートするツールです。クラウド学習による予測の精度向上も可能で、より安全な運転の実現に向けて期待が寄せられています。

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パネルディスカッション
日本は技術がリードするーオープンイノベーションの現在と未来ー

モデレーター:一般社団法人日本能率協会 KAIKA研究所 所長 近田 高志氏
パネラー:
元コニカミノルタ 上級技術顧問(CTO) 腰塚 國博氏
株式会社Pyrenee 代表取締役 三野 龍太氏(J-TECH STARTUP2020 認定企業)
株式会社I’mbesideyou 代表取締役 神谷渉三氏(J-TECH STARTUP2020 認定企業)
一般社団法人 TXアントレプレナーパートナーズ 代表理事 國土 晋吾

パネルディスカッションでは、大企業とスタートアップの連携による技術面でのオープンイノベーションに着目。連携のために必要な条件や求められる人材、課題として感じていることなど、両者の視点から議論が交わされました。

スタートアップと大手企業との連携は、フィロソフィーの共有から

最初のテーマは「大手企業とスタートアップの役割、連携について」。実際に事業を進めるうえでの連携の手法や、プロジェクトをスムーズに進めるコツについて経験に基づくコメントが上がりました。

三野氏「スタートアップがつまずきやすいのは、製品の量産フェーズ。それまでと違う知見が必要なため、そこで大企業から支援が受けられるのは魅力的です。反対に、スタートアップに目を向けてくださる企業が増えている一方で技術の提供のみを求められるなど、条件が合致しないことも。多様なスタイルへの理解が進み、もっとフレキシブルに連携できるようになると嬉しいですね」


神谷氏「前職のNTTグループでは複数の新規事業を動かしていて、まさにいろいろな企業との連携を検討して『このスタートアップと組みたい!』と社内を説得する側でした。ですから、セキュリティ上の安心感や企業が築いてきた実績など、決裁者が何をチェックし、どんなところに信頼性を感じるのかを把握できていたのが大きいです。こうした感覚は経験も必要なので、ナレッジとして共有していきたいですね」

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腰塚氏「私の経験からも、お二人のお話は実感としてよくわかります。日本の大企業にありがちなのは、その技術を独占したいという気持ちが強いこと。連携の条件として提示されることも多いですね。アメリカでのスタートアップ連携を見ていると、収益につながるなら技術の独占などには強くこだわらないことも多いです。スタートアップの側も大企業に巻き取られることを“成功”のパターンだととらえる経営者が多いんです。日本だと大企業の傘下に入ることを是としない創業者が多いですよね。そうなってくると企業同士が対等な立場で連携するのは難しくなってしまいます。簡単にいえば、フィロソフィー(哲学)を共有できれば手を取り合うことは可能なのではないかと考えています。日本の企業同士でも、経営者や役員レベルでビジョンを共有できれば手を組めるはずです」

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國土「私はアメリカの大手半導体メーカーに勤めた後にシリコンバレーで起業し、台湾のメーカーを経て現在はTEPの代表理事としてスタートアップ企業の支援をしています。国内外の動向を見ていて、日本もようやくオープンイノベーションへ向けて実際に動きだす“フェーズ2”に入ってきたなと感じます。スタートアップにも大企業側にもオープンイノベーションの重要性やメリットは理解できていて、あとは問題は異なる文化で育ってきた企業同士がどのように花を咲かせるか、ということなんですよね。これはとても難しい問題です。」

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海外経験のあるパネラー陣からは、日本と海外の対比についても言及が。“海外”をキーワードに、ビジネスをどう展開するかという話題になりました。

腰塚氏「ドイツとアメリカの2ヵ国で買収の経験がありますが、ドイツでライバル会社と競合した際には、その判断基準がかなりウェットな人間性にあることを知りました。私がどんな人間かを見られているということです。ディシジョンメイキングに家族が関わることも多い印象で、信頼できるかどうかをしっかりと見られていると感じました。日本では企業の買収に家族が関わることはほぼないでしょう」

國土「海外がウェットだというのは私も感じます。以前海外で、メールも一週間返信がないようなレベルでコミュニケーションがとりにくい取引相手の方がいましたが、一度ご自宅でお子さんと一緒に遊んだことがあって。翌日からメールもその日のうちに返ってくるようになったんですよ(笑)。『この人は大丈夫だな』と思ってもらえるかどうかは、仕事ぶりだけでなく仕事以外の部分でも見られているんですよね」

仕事を楽しめる人がイノベーションを進める

続いてのテーマは「イノベーションに求められる人材像」。各社が考える「イノベーション人材」について様々な意見が上がりました。

三野氏「妥協をしない人です。スタートアップがつくるのは世の中になかったモノです。リソースが少ないなかでも『もっともっと』と追求できる人が大事だと感じます。パートナーとしての大企業に期待したいのは、スタートアップ連携のセクションは経営陣の近くに置いてほしいということでしょうか(笑)。リスキーだからこそ、決断できるトップへ直接プレゼンできればメリットも伝えやすいので、検討していただけたら」

腰塚氏「連携を検討している企業について私が常にチェックしているのは、『企業の中期計画に合致したご提案があるかどうか』。大企業側の計画実現を助けてくれる企業なら、大企業側も関心が強いはずです。それから、大企業に必要なイノベーション人材は“ビジョナリスト”、つまり構想ができる人。新しいものを作って広めたいと考え、それに向かって人を動かし、チームで動ける人は強いでしょうね」

神谷氏「人を動かす、すごくよくわかります。新しいことはリスクでもあるので、一人でやっているとどうしても大企業では評価されにくい面もあって、埋もれてしまったり転職してしまったりで、余計にイノベーション人材として見出されにくくなっているのかもしれませんね。当社には『BE UNIQUE』『STAY BORDERLESS』『START FROM LOVE』の3つのバリューがあります。特に3つめは、ユーザーやメンバーに対する愛を持っていれば組織にもプラスになると考え、大切にしているバリューです。大企業の担当者にお願いしたいのは、まず当社の製品を使ってみてほしいということです。」


TEP代表理事 國土からは、「仕事を楽しんでいるかどうかが大切」という声も。「楽しんで仕事をしている人は、情報をキャッチするアンテナも強い。それにスタートアップ企業の事業は“山”の連続ですし、楽しめるかどうかは大きいなと感じます。それから大企業側のトップにお会いして話したりすると、思った以上に新しいことに意欲的だったり、オープンな考えの方も多いんですよ。ミドルマネジメント層がリスクを恐れてしまっていることが多いのかなと感じますね」

神谷氏「僕自身も前職は大企業のミドルマネジメントだったのですが、一人ひとりにはスタートアップと組んで変えていかなければというマインド自体はすごくあるんですよね。ただ、企業の構造的な問題もあって…。自分一人で最終的な意思決定ができないので、複数人の合意形成に時間と労力がかかる。トップからの権利移譲を進める必要もあると思います」

技術が優れていても、ビジネスモデルで負ける
事業展開の方向性はより探るべき

最後のトピックスは「国内のビジネス成長市場について」。各社が、自社のビジネスをどう成長させていくかという観点から語りました。

神谷氏「僕たちは自分たちを“コロナネイティブカンパニー”と呼んでいるのですが、新型コロナによって生まれたニーズに特化していくスタートアップが伸びるのではと感じています。特に当社が取り組んでいる動画解析については国境がほぼ関係ないので、まずはインドを皮切りに積極的にグローバル展開していきたいです

インドに目を向けた理由は二つあって、一つは人口の多さ。マーケットとしてだけでなく採用面でも日本の10倍のボリュームがあると考えると、グローバルカンパニーを目指すうえでそこに打って出ない手はありません。それからもう一つは、インドにはスタートアップのチャレンジを受け入れる素地のようなものがあると感じたこと。日本の大企業なら慎重になるところを『思い切ってやってみようか!』とチャレンジする姿勢が強いように感じます。海外でPoCしたものを日本へ逆輸入…みたいな流れも作りやすいのではと思いましたね」


三野氏「国内というよりも、むしろ日本の企業もどんどん海外に出るべきだと考えます。国内志向の強いVCやスタートアップは多いのですが、日本には優れた技術があり、チャンスも豊富なはず。多くの企業がグローバル志向になれるようにしたいし、Pyreneeがその前例になれたらいいなと感じています」

腰塚氏「日本の企業は優れた技術があるにもかかわらず、ビジネスモデルで他社に負けることが多い。どの企業でも常に最適なビジネスモデルを考え、そのなかで大手と組むとか、サブスクリプションとか、企業の成長を見込める方向を定めていくのが成長の道だと考えています」

最後に、TEP代表理事 國土からは今回のパネルディスカッションの総括として、スタートアップと大企業が直接言葉を交わせる場の重要性について言及がありました。「支援の場で、スタートアップの方と『大企業ってこうだよね』と話すことはよくあるけど、そうしたスタートアップ側での一方的な議論ではなく、反対に大企業はどう感じているのかを聞いて意見を交換できる場は非常に重要です。すぐに結論が出るようなテーマではありませんが、今回のようなディスカッションの場を増やして処方箋のようなものが見えてくればいいなと感じます」

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