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『デリバリー・テレポーテーション』 本編|【#ジャンププラス原作大賞】【#読切部門】

〇:場所
▼:モノローグ
『』:過去

〇渋谷のスクランブル交差点
「次のニュース………手配……違法……集団が……ました」
「ザザザザッ…」看板広告が切り替わる
「人類最速の男になれるビックチャンス!」
「瞬間配達サービス“フォレスト”中途採用募集中!」
朝の通勤で信号を待ちながら、目の前にある巨大な看板広告を見つめる渉

▼全世界で瞬間配送サービスを展開する大企業フォレスト社
▼フォレスト社は、各国の電話ボックスを移動装置に改良し、世界中で待つ顧客へ配達サービスを行う天下の物流企業だ

そして、スーツの胸ポケットから退職届を取り出す渉

▼この会社ならそこまで人と関わらなくて済むかも…

―――回想
〇職場
上司『おい、鳩山!お前まだ資料できてないのか!』
渉『すみません!』焦る顔

同僚1『アイツ、また怒られてやんの』嘲笑う顔
同僚2『社内一の鬼上司に当たるなんてほんと運ないよな…』
同僚同士で笑いあう

上司『鳩山くん、もういいよ。別の人に頼むから…』呆れた顔

▼結局、誰からも必要とされないのか
▼言われたことは必死にやってるのに
▼それならいっそ…

そうして、僕は配達員として第二の人生を歩むべく、フォレスト社を選んだ

―――
〇フォレスト社の待合室
ソファに座り、誰かが来るのをじっと待つ渉

茜「渉くんーーーー!」笑顔で手を振る

▼正直苦手なタイプだ…
可愛い見た目だが、素振りを見るなり性格が合わなさそうだと判断した渉

茜「君が今日から働く渉くんだね。烏森茜です!よろしくっ!!」顔を覗き込むように挨拶する
渉「…」反応に困る
茜「じゃあまずこれに着替えてきて!」
いきなり配達員の白シャツを渡される渉
渉「……」白シャツを見つめながら黙り込む
茜「ん?どうかした?」
渉「いえ、なんでもありません…」苦笑い


〇試着室
▼なんで配達員なのに上司がいるんだよ…
気だるそうに着替える渉

茜「そろそろ着替え終わったかーい?」
渉「…いま行きます!」
急いでズボンを履く渉


〇フォレスト社の廊下
茜「案外広いでしょ…!」

(フロア中に電話ボックスが並び、郵便物を持った配達員が電話ボックスに出入りしている)

▼本当に瞬間移動なんて出来るんだ…
最先端の電話ボックスに関心を抱く渉

茜「あっ、渉くんのはこれじゃなくて、こっちね」渉の視線とは真逆を指差す

(その先には薄汚れた1台の電話ボックス)

茜「見た目は古いけど気にしないで!それじゃあ、早速初仕事でも任せちゃおっかな」
渉「え、もうですか…?」
茜「あと、これも…!これ忘れると電話ボックス使えないから気をつけてね」
話を聞かずに社員証を渡す茜

茜「電話ボックスにも行き先のデータは入力済みだし、社員証も渡したし…」
茜「まぁ、あとは流れに身を任せれば…なんとかなるか!」

▼本当にこんなので大丈夫か…
怪しげに電話ボックスの中に入り、そっと扉を閉める渉

アナウンス「転送まで10秒前!9!8!・・・」
カウントダウンが始まり、ソワソワし始める渉

茜「あ、そういえば、もう一つ言い忘れていた!」何かを思い出した顔
茜「私達が運ぶのは物だけとは限らない。誰かの想いを運ぶことも大切だからね」注意深く言う
茜「それじゃ頑張って!」

▼物だけとは限らない…?
言われた言葉に引っかかるが、考える暇もなく飛ばされる渉


〇広くて白い密室
渉「…どこだ、ここは」ぼやけた視界が徐々に開ける

(中央にポツンと段ボールが置かれている)
(見た事ない場所に飛ばされ、戸惑う渉の耳元でささやく声が聞こえる)

天の声「君が新しく入ってきた新入社員かい?」
声の主を探して、きょろきょろと辺りを見渡す渉

天の声「ここだよ、ここ。おいらはここだよー!」
目線を少し下げる渉

(そこには赤い郵便ポスト形の小さな動くマスコットがいる)

天の声「君が新しい新入社員かい?」

▼「なんだ…こいつは?」
返事に困りつつも顔を立てに振る渉

ポ「僕は新人教育を任されたフォレスト社公認のゆるふわマスコット、ポストくんだよ!」
意気揚々と自己紹介を始めるポストくん

▼元気な上司の次は、意味不明なマスコットかよ…
こちらの冷めた態度には一切触れず、ポストくんはそのまま会話を続ける

ポ「いきなりだけど、君にはこれからこの段ボールを指定の場所まで届けてもらうよ」
ポ「その行先は~~~」

(頭の上にボードが表示され、ランダムで行先が表示されていく)

ポ「ジャン!こちら!香港の九龍です!」花火が出てくる演出
渉「…ホン…コン」リアクションに困った顔

ポ「では、早速いってらっしゃい~!」
仕方なく段ボールを手に取って、電話ボックスへと向かう渉

アナウンス「転送まで3秒前!2!1!・・・」
(慣れないテレポートで再び九龍へと向かう)


〇香港・九龍
(ネオン看板と屋台がずらりと並ぶ大通りに到着)

▼これ毎回酔うんだよな…

渉「…」辺りをキョロキョロ見渡す
渉「ふぅ…」安堵して溜息をつく
渉「すげーな、これ」電話ボックスを見つめる

(テレポートで自由に世界各国に行き来ができるようになったが、未だに一般人の使用はかなり制限されている)

瞬間移動で海外に来られたことに束の間の興奮を覚える渉
渉「よし、サクッと仕事終わらせるか」気合が入る


〇香港・路地裏の雑居ビル前
渉「多分こっちかな…」
支給されたスマホのマップを見る渉

▼どうやらこの辺りが目的地っぽいけど…
周りを見渡す渉

マフィア「おい、さっさとしろよ!!」焦りながらキレる
謎の男「そう焦んな…こんなとこまで来る物好きなんて誰もいない」フードで顔が見えない
男2人が話している姿を見かけ、再度マップを確認する渉

▼やっぱり、初仕事の届け先はここだよな…
男たちを物陰からずっと見守る渉

謎の男「早く引き取りな」
少女「…」手足に錠が繋がれている
マフィア「こりゃあっちの国では高く売れそうだな…」少女の顔を覗き込む

▼あれは、国際指名手配されている違法密輸集団じゃないのか…

「プルルルルッ――!」突如としてスマホが鳴る

謎の男「おい、だれかそこにいるぞ!!」

▼ヤバイ…!
急いで電話ボックスまで逃げる渉

渉「はぁっ…はぁ」
マフィア「待て…こらぁ!!!!」

渉「…ッ!」
曲がり角を上手く使ってなんとか逃げ切ることに成功した渉

「バタン!」電話ボックスの扉を強く閉める


〇広くて白い密室
渉「うぅ…」目を細めている
ポ「なんで戻ってきちゃうかなー」
目の前には見覚えのある赤い物体が宙に浮いている

ポ「荷物を送り届けない限りは元の世界には戻れないよ」ため息をつく
渉「そんなの聞いてない!こんな状況で届けられるわけない!」珍しく声を張る
ポ「ようやく相手に向かって本音を口にしたね」

▼どういうことだ…
言われた意味を理解ができない渉

ポ「渉はさ、自分が誰からも必要とされてない人間だって思い込んでるでしょ」
ポ「たまにはさ、自分はこの世界に必要なんだって主張してみたら…?」

渉「なんでそんなことを……」



渉「……ッ!!」ハッとした顔
転送直前に言われた言葉の意味を理解した渉


ポ「やるべき事にようやく気がついたみたいだね」微笑む

ポ「渉が今やれることはただ一つ。依頼主のところまで“送り届ける”ことだよ」
渉「わかった、その代わり届けたら必ず元の場所に戻してくれるよね?」
ポ「そりゃもちろん!その意気だよ!」
振り返って再び電話ボックスに入る渉


〇香港・路地裏
上司の言葉を思い出し、雑居ビルの玄関前で大きく息を吸って決意を固めた渉
渉「お届け物でーーーっす!!!!」甲高く叫ぶ

マフィア「届くのが遅ぇぞ!!」
辺りは暗くて帽子を深く被っているためか、さっき追いかけていた男とはバレていない様子

渉「こちらにサインを…」小声で言う
マフィア「んなもんいらねーだろ!早くよこせ!」
強引に荷物を奪って別の部屋に移動するマフィア

▼よし…ここまでは順調だ
帽子の中から横目に少女と目が合って近づく渉

渉「君は…どうしてここにいるんだい?」そっと話しかける
少女「わからない…。でもきっと私は誰からも必要とされてないから…」震えた声で話す

今を受け入れるしかない少女と過去の自分を照らし合わせる渉
渉「…こんなところにいちゃダメだ!ここから逃げよう…!」少女の手をつなぐ

▼ずっと自分は周りから必要とされてない人間だと思ってた…
▼でも、今思えばちゃんと相手と向き合おうとしなかった自分の責任でもあるんだ…


渉「はぁ…はぁ…」おんぶしながら走る


電話ボックスの前に辿りつき、もう一度手を繋ぐ渉
渉「一緒に帰ろう」

そして、急いで電話ボックスの中へ消えていった…


〇広くて白い密室
ポ「任務達成おめでとうーー!!」
陽気なテンションでクラッカーを割るポストくん

渉「どうだ、やればできるだろ…」どこか誇らしげな顔
渉「うぅ……バタンッ!」
疲労でめまいが起きて倒れてしまう渉


〇香港・路地裏
一方その頃、別の部屋に移動し、急いで中身を確認するマフィア
箱「ガサッゴソッ」

(中に入っていたのは、フォレスト社の社員証)

マフィア「これがあれば密輸し放題、ボスもきっとご満悦だぜ」ニヤリと笑う

(フォレストの社員証があれば電話ボックスを自由に使えるため、手に入れようと目論む者が後を絶たない)

マフィア「ガチャ…」元の部屋に戻る
マフィア「おいおい、なんでガキがいねーんだよ!」
窓から渉と一緒に逃げている少女の姿を見つける

マフィア「クソっ、あの配達員め…待て!ゴラァ!!」
渉の後を追いかけ、電話ボックスに駆け込む


〇広くて白い密室
マフィア「うぅ、どこだよ…ここは」
ぼやけた視界が見え始め、辺りを見渡して困惑する

(そこには誰もいない)

マフィア「あいつ、どこに消えたんだ…?」焦っている顔
マフィア「クソっ、どこにも出口ないじゃねーかよ!」
マフィア「畜生っ、もう一回電話ボックス使うか」

電話ボックス「…こちらは現在ご利用できません」

(社員証はあれば白い密室には行けるが、郵送の任務を終えない限り、元の世界には戻れない)
(会社と香港を繋いだ白い密室は、電話ボックスを悪用する奴らを一網打尽にするために仕掛けられた罠だった)

マフィア「なんで帰れねぇんだよー!!」何もできずに叫ぶ


〇香港・路地裏
謎の男「チッ…香港マフィアは使えねーな」
渉の履歴書をホログラムで確認する
謎の男「茜のやつ、また面白い仲間を増やしやがったな…」

電話ボックスを使い、謎の男はどこかへ消えていった…


〇フォレスト社の一室
茜「おかえり!渉くん」
渉「…んっ」ゆっくりと目を開く
ポストくんも茜の右肩あたりでふわりと泳いでいる

茜「渉くんの活躍、全部見させてもらったよ!」
渉「どこにもいなかったじゃないですか…」
茜「ポストくんはね、我が社の監視用AIホログラムロボットなの」
手のひらに乗ってくるポストくん

茜「だから、渉くんのスマホにポストくんの一部を導入して一部始終を見させてもらったの」
渉「だったら助けてくれよ…」溜息をつく
茜「助けるも何も…全部一人で解決できたじゃないか!」

(渉の背中の裏に怯えた少女が隠れている)

茜「もう大丈夫だよ」笑顔で少女の頭をなでる

茜「私達の本当の目的はこの子を保護して無事依頼主の元に送り届けることだったの」
茜「今回のケースみたいに私達が作った電話ボックスを誘拐や国外逃亡で悪用する人が最近現れてきてね…」

渉「そういうことだったのかよ…」すべてを悟った顔

茜「初仕事、お疲れ様っ!渉くん配達員の才能あるよ!」手を取り嬉しそうに話す


▼俺に…才能が…?
今まで人に認められて来なかったため動揺する渉


茜「渉くんは厄介ごとに巻き込まれがちだよね」呆れて笑う
茜「本来、仕事に厄介ごとはご免だけど、厄介ありきの私達の部署では渉くんみたいな存在が必要なのよ」
茜「よって、今日からここで働いてもらいます!いいよね?」
特注のスーツと名刺を渡され、ようやく自分が必要とされた気がして微笑む渉


「また新入り拾ってきたんすか、茜さん」
煙草を吸いながら近寄ってきたロングな赤髪で長身のスーツ男

「まぁカワイイ顔した男の子ッ♡」
ずっとこちらを見つめてくるロリータファッションの小さな女の子

「ふぉっ、ふぉっ。ますます賑やかになりそうな雰囲気ですな」
気高く笑っている白髪の眼鏡をかけた紳士伯夫


▼ちょっと個性的すぎやしないか?
現状に慣れない様子だが、少しワクワクしている渉


茜「ようこそ、フォレスト社特殊配達捜査課へ」


明日から表向きには『フォレスト』の配達員
今日も世界中で待つ顧客へ配達サービスを行ないながら、広大なネットワークを監視している


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