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嗚呼、恐い怖い 2020

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怖いはなし、恐いはなし 嗚呼、恐い怖い コワイはなし、読んでいかんか 嗚呼、恐い怖い コワイはなし、見ていかんか 嗚呼、恐い怖い コワイはなし、やっていかんか
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2020年9月の記事一覧

虚ろ眼

虚ろ眼

 久しぶりに日比谷線に乗った。乗った途端に異臭が鼻をつく。温泉でよくあるような、硫黄の臭いだ。何故電車の中で硫黄の臭いがするのかわからない。それもかなり強い。
 臭いの元をなんとなく探しながら周囲を見回すと、空席があった。疲れてはいなかったが、腰を下ろす。そうして、乗客たちの観察を始めた。いつもの暇つぶしで、スマホばかり眺めているのより随分面白い。
 口元を隠して熱心に話し込む年配の女性や、じっと

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かえるのだんなさま

かえるのだんなさま

 ある庭で、少女が鞠付きをして遊んでいました。
 金色の糸が縫い込まれたきれいな紅い鞠でした。
 少女は金色の糸で刺繍されたきれいな紅い振り袖を着ていました。
 少女はころころと歌いながら機嫌良く鞠をついていましたが、なにかの拍子に鞠は少女の手から離れ、ほろほろと転がっていってしまいました。
 少女は鞠をおいかけます。
 とてもお気に入りの鞠なのですから。
 やがて鞠は転がるのをやめて、翡翠色をし

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シャワー

シャワー

 寒い夜だった。
 秋になりはじめて、夜中から明け方にかけて足下が冷えた。
 そんな夜にふと目が覚めて、自分の足の冷たさに震えた。電気毛布を出していたので、尚早かとは思いつつもスイッチをいれ、ごくわずかに温めた。
 それでなんとか足を温めて、無理矢理寝返りをうつ。狭いベッドの中で、毛布が巻き付いてくる。
 それから部屋がしんとしているのを感じて、なんとなく落ち着かなくなった。
 静かすぎるのは苦手

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週末、一人キャンプ

週末、一人キャンプ

 もうすぐ夕方になる。完全に暗くなる前に、のんびりと夕飯をたべることにしよう。
 缶詰の大ぶりのツナ、それからホワイトアスパラ。火を熾して、スキレットにオリーブオイルを敷いてそれらを炒める。香ばしいかおりがしてきたところで、塩胡椒をふる。
 カップに湯を沸かして、その間にコーヒー豆を手挽きする。いい香りが漂う。
 葉の香り、枝の香り、土の香り。
 様々な香りが、風に乗って僕を包み込んでくる。
 そ

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斑狂ひ

斑狂ひ

 産まれたばかりの赤子は、母親ばかりか村中を驚かせました。
 男の赤子の首には目立つ丸い痣があり、まるで誰かが親指で墨を付けたかのようでした。
 脱げば体には斑の模様がいくつもあり、痣のないのは手と顔だけでした。特に背中にたくさん斑痣はあり、南蛮からやってきた獣のような具合でした。
 村人たちははじめは気味悪がりましたが、赤子がまじめな少年に成長するのをみて、そのうちみな慣れていきました。
 男の

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