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植木天洋
2020年9月25日 11:08
久しぶりに日比谷線に乗った。乗った途端に異臭が鼻をつく。温泉でよくあるような、硫黄の臭いだ。何故電車の中で硫黄の臭いがするのかわからない。それもかなり強い。 臭いの元をなんとなく探しながら周囲を見回すと、空席があった。疲れてはいなかったが、腰を下ろす。そうして、乗客たちの観察を始めた。いつもの暇つぶしで、スマホばかり眺めているのより随分面白い。 口元を隠して熱心に話し込む年配の女性や、じっと
2020年9月24日 07:23
ある庭で、少女が鞠付きをして遊んでいました。 金色の糸が縫い込まれたきれいな紅い鞠でした。 少女は金色の糸で刺繍されたきれいな紅い振り袖を着ていました。 少女はころころと歌いながら機嫌良く鞠をついていましたが、なにかの拍子に鞠は少女の手から離れ、ほろほろと転がっていってしまいました。 少女は鞠をおいかけます。 とてもお気に入りの鞠なのですから。 やがて鞠は転がるのをやめて、翡翠色をし
2020年9月19日 08:25
寒い夜だった。 秋になりはじめて、夜中から明け方にかけて足下が冷えた。 そんな夜にふと目が覚めて、自分の足の冷たさに震えた。電気毛布を出していたので、尚早かとは思いつつもスイッチをいれ、ごくわずかに温めた。 それでなんとか足を温めて、無理矢理寝返りをうつ。狭いベッドの中で、毛布が巻き付いてくる。 それから部屋がしんとしているのを感じて、なんとなく落ち着かなくなった。 静かすぎるのは苦手
2020年9月15日 08:23
もうすぐ夕方になる。完全に暗くなる前に、のんびりと夕飯をたべることにしよう。 缶詰の大ぶりのツナ、それからホワイトアスパラ。火を熾して、スキレットにオリーブオイルを敷いてそれらを炒める。香ばしいかおりがしてきたところで、塩胡椒をふる。 カップに湯を沸かして、その間にコーヒー豆を手挽きする。いい香りが漂う。 葉の香り、枝の香り、土の香り。 様々な香りが、風に乗って僕を包み込んでくる。 そ
2020年9月11日 04:13
産まれたばかりの赤子は、母親ばかりか村中を驚かせました。 男の赤子の首には目立つ丸い痣があり、まるで誰かが親指で墨を付けたかのようでした。 脱げば体には斑の模様がいくつもあり、痣のないのは手と顔だけでした。特に背中にたくさん斑痣はあり、南蛮からやってきた獣のような具合でした。 村人たちははじめは気味悪がりましたが、赤子がまじめな少年に成長するのをみて、そのうちみな慣れていきました。 男の