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マフィンを作るには

「全粒粉の呼吸!」

を唱える夫は今日もキッチンで忙しい。


アニメも見ずマンガも読まなかった人が、一旦はまるとこうなるのかと
隣で見ているとちょっと笑ってしまう。

今日はマフィンを作っているようだ。

仕事をしていたら、にっこにこ顔の夫がやってきた。そして、一言。

「今日、僕はマフィンを作っているでしょ?」

ものすごい笑顔だし、『今から面白いことを言うから、心の準備をしておいてね』感があふれ出ている。

ここで、あぁまた変なこと言うのね、と言うと相手はすねる。それに、きっと今から冗談を言うのだろうなとわかっていても、知らないふりをしてあげるぐらいの度量は私も持ち合わせている。

手を後ろに隠しているけど、何か持っているのがみえみえだ。

「そうです、マフィンを作っています。じゃあね、これは何ですか?」

得意げに出してきたのはマフィンの型。

「型?」

「そうです、正解!! マフィンには型が必要です!」

続けて、鼻の穴をふくらませながら夫が言う。


「全粒粉の呼吸! マフィンの型!!!!!」


『鬼滅の刃』ファンの方に申し訳ないけれど、夫は
「全集中の呼吸、壱の型!」のテンションで、これを言う。

あぁ、どうしたらいいんだろう。
どうリアクションをとっていいかわからず、とりあえず

「そうか、なるほど!!!」

と言ってみた。


「すごいね、僕ってすごい!!」

自分の考えたジョークが通じたことで大満足の夫は、スキップでキッチンへ戻っていった。

誇らしげな顔を見ていたら、まぁ確かに「型だけに」と納得している自分がいる。でも、正直面白いのかどうかわからない。

そして、すっかり置いてけぼりをくらった私の頭の中は、「マフィンの型!!!!!」でいっぱいだ。
仕事どころではなくなった。


そうこうしているうちに、マフィンが焼きあがった。

『鬼滅の刃』を知って世界が広がった夫は、今日も新しい言い回しを考えるのに忙しい。そういうマンガではないような気がするが、本人が楽しそうにしているので、まぁいいかと思っている。

最近、夫は次に見るべきアニメについての情報を私の友人から入手したようだ。これからどうなるのか楽しみ半分、不安半分で様子をうかがっている。


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