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充実した人生は夢がなくても送ることが出来る【大阪 松原市 "JINKEY" 代表 徳田健司さんの半生 後編】

2021年9月からインタビュアーというものを志し、数名の方に半生をインタビューさせていただいているが、ヒトの半生を聞けば聞くほど、自分の価値観が凝り固まっていることに気付く。

なんでそんな選択をしたのか?
もっとこういう風に動けばいいのに・・・

あくまでもその疑問や意見は、私が今まで生きてきた経験によって形成された価値観に基づいているだけであって、それが正解か不正解かは本人が決めることだ。

ぼんやりとした高校生活から一転、徳田さんの半生は高校卒業を機に"これでもか!"というぐらい一気にギアが入る。そのギアの入り方は、当時徳田さんの周りにいた家族や友人の皆さんも驚いたことだろう。

ヒトは自分以外のヒトが心の奥底で何をどう考えているのか、到底理解することは出来ない。

過去から現在、未来への想いまで聞いて初めて、対峙するヒトの価値観の外枠に触れられる程度だと思う。

徳田さんというヒトは、インタビューをしなければ今の僕ではきっと理解することは出来なかったであろう。

後編のインタビューではさらにギアが入り、加速度が増した半生を展開していく。

(取材・文・編集・写真/奥行太郎)

【プロフィール】徳田健司さん

1990年滋賀県大津市生まれ。高校卒業後、堺市で3店舗展開している床屋に入社、約3年間理容師としての基礎を学ぶ。退職後は、母親が経営していた美容室で約1年間カットの技術を学んだ後、倉庫作業やカラオケ店、スペインバルを始めとする飲食店で理容師以外の仕事に従事。2016年には"JINKEY BARBERSHOP"をオープンさせる。お客様がくつろぎやすい空間を提供するとともに、クラシカルなスタイルからトレンドなスタイルまで、幅広い髪形をマンツーマンで提案している。趣味は一眼レフとゲーム。プライベートでは2019年に結婚。


念願のカットデビュー

退職後、おかんの美容室でヘルプとしてサポートしながら、念願のカットデビューを果たす。

8月頃に辞めて、それから母親のところでヘルプとして働き始めました。とりあえずカットをやろうと思って、人形で練習も始めました。パターンもおかんに色々教えてもらいながら、そっからは「人間でやらなあかん、後は数や」と言われて。お客さんでモデルになってくれる人が何人かいたので、色々とやらせてもらって、秋ぐらいにはカットをやり始めてましたね。
スピードが全然違うやんって。カットやってるやん俺、みたいな。やっぱり1人でカットをしたら自分で考えるし、リアル感が全然練習と違うし、心臓も飛び出そうになります。常連さんなんかは、文句一つも言わずにやらせてくれるので、こっちも応えるために、真剣にやるし反省もするし、濃さが全然違うなと思いました。
初めてシャンプーから最後のセットまで全部自分で1人でやるようになって、やっぱよかったなって。この仕事でお金稼いだって実感あって嬉しかったですね。

カットデビューを果たしたのは、高校を卒業してから4年後のことだった。4年目でのカットは、徳田さんにとって絶対に達成したかったことだったそうだ。

おかんに言われたことがあって。「あんたは一般的な大学生より4年前に働いてるんやから、その子らが卒業する頃にはあんたある程度出来とかなあかんで」と。"ある程度"の定義が難しかったんですけど、僕の中ではやっぱりカットだったんですよね。それがあったから辞めませんでしたし、正直焦っていました。結果は4年目でカットできるようになったんでよかったです。
実際友達呼んでカットとかしてました。「徳田んとこでこんなに出来るんやったら、これから徳田んとこで切ってもらうわ」と言ってくれた友達は今でも来てくれています。最高ですね、地元の友達にも感謝です。それも自信になりました。

3年間の苦労が報われ、このままおかんから店を譲り受け、今の"JINKEY"につながっていったのかと思いきや、そこはスムーズにいかなかったのだそう。ただ、スムーズにいかなかった経験が徳田さんを一回りも二回りも大きくさせたのは間違いない。

通信制の学校に通い始めて3年たったんで、国家試験を受けて免許をとりました。ただその反動で腑抜けてもうて。3年間が厳しすぎたのか、なんか甘えが出てきてました。朝も起きれないですし、仕事はちょこちょこやってたんですけど、言うても手伝ってるだけなんで。技術は出来るようにはなったんですけど、なんか思ってたんと違うとなりました。1年ぐらいやったんですけど、これではあかんなと。母親に「腑抜けすぎや」と言われましたし、父親からは「お前1回外の世界見てこい」とも言われました。でももう1回違う床屋でやるのもしんどいなと思ったので、そうなったらこの際、全然違う畑違いの仕事で働いてみようと思いました。


畑違いの仕事で自分を見つめ直す

徳田さんのすごいところは、腑抜けた後に必ずその腑抜けから脱出するための行動をとるところだ。高校を卒業してから床屋で働いた時もそう。"このままだったらダメになる"ということを、他者の意見も取り入れながら、自分自身に腹落ちさせていく。

実家を出て阿倍野で一人暮らしを始めました。最初に選んだのがなか卯。なか卯は仕事の内容が結構よくて、1年ぐらい働きました。次は、バイトでもいいからなんでもやろうと思って、千日前のシダックスで働き始めました。そこは1年経たないぐらいで辞めました。
次はあべのハルカスにあるマリオットのバーに入りました。それはなんかめっちゃ大変そうで。注文で受けるジントニックとか「伝票には全部筆記体の英語で書いて」と言われて、その時点で大分ストレスになりました。マネージャーさんも目バキバキで。なんかちょっと違うなと思って。カチッとしすぎてるところは合わないんだなと、自分の好みと違うんだなと思いました。
その次は派遣のバイトで、倉庫内作業みたいな仕事を始めたんですけど、これはこれで人と喋れないんですよ。仕事はしてるんですけど暇で。面白くないなと思いました。向き不向きがあるんだなと。これも違うなと。
最後に入ったのがスペインバルです。今でも付き合いがあります。バイト同士も仲よかったですし、お客さんとも喋るし、お酒も好きやし、全部楽しい空間やって。こんな感じの仕事がええなと思って。身分はバイトやし、これはずっとやるのは難しいなと思ってたんですけど、スペインバルの仕事は続けてました。

年齢で判断するつもりはないが、20代前半の男の子が、畑違いの仕事をすると決意したとは言え、理容師と全く関係のないところで働く度胸がすごい。その度胸に加えて、あらゆる仕事を自分で体験し、自分の視点で自分を客観的に分析していった姿は、"徳田少年"が元々持ち合わせていたものだったのだろうか。ここでも"おかん"がキーポイントとなる。

そしたらそのタイミングで、おかんが美容室を辞めようかなと言ってきました。それが2014年か15年やって。当時24~25歳。

「それやったら場所もったいないし、僕やるわ」

って、それは直感で"何か出来るかも"と思ってすっと口から出てきたんですよ。

3年前におかんのヘルプとして働いていた時に、同じことが言えたかどうか聞いてみた。

多分無理かもしれないです。辞めてから色んな人と会いました。色んなところで色んな仕事があるじゃないですか。皆それぞれ一生懸命働いているわけで。そういう光景を見ていると、その時の自分は一生懸命じゃなかったと思うんですよ。ほんまに腑抜けてた。外出て色んなモノ見たら、初めの3年みたいに、もう一回一生懸命やってみようと、がむしゃらにやったら出来そうやなと、本気で思ったんです。


JINKEYと徳田さんの未来

18歳から4年間、何不自由なくのほほんと大学に行っていた自分と比べると、18歳からの徳田さんの半生は濃い。苦労して自分の居場所を見つけた徳田さんは、ヒトに対する想いが強くなっていった。それは"JINKEY"というお店の名前にも表れている。

仁って言う言葉が好きなんです。三国志が好きで、三国無双というゲームをよくやっていました。蜀という国のリーダー、劉備という人が好きで、仁の道をいくという感じの人だったんです。"他人を重んじる愛情"という意味らしくて、他人のために行動すると、それが自分に徳となって返ってくるっていうのがなんかええなと思いました。
僕の名前が"けんじ"なので、アナグラムで並び替えたら"ジンキー"ってなるんですよ。Yは呼びやすいようにつけただけなんですけど。仁という言葉を大事にしたら良い扉が開けます、仁の心が鍵になっていい道が開けますよ、という意味を店名に込めました。

一度おかんのもとを離れてから、色々な場所で働いていた経験は店舗の内装にも生きている。

スペインバルは赤を基調にしていてええなと思って。飲み屋とかもよく飲み歩いてたんで、こういう雰囲気にDIYで仕上げていきました。ラフな感じのスタイルがええなと思ってたら、テレビや漫画置いたり、バーカウンター作ってみたり知らん間に今の形になってましたね。

徳田さんからは、いい意味でビジネスの臭いがしない。肩肘張らずに生きていて、自分の生きたいように、でもお客さんのことを第一に考えながら営業しているように感じる。

いい意味で遊びの延長でやってますね。まぁお客さんも他のお店に流れるもんやと思ってますし。どっかいきはったんやろうなと。お客さんにあんまり執着していないかもしれません。マイペースに生きてます。小さい時からよく言われますね、「けんちゃんワールドがあるね」と。
初めに働いた床屋のオーナーからはスロースターターやなとか、不器用やなとか、よく言われてました。でもちゃう人に聞いたら器用やなと言われる。ヒトの意見ってヒトによって違うなと思って。あんまり人の意見気にせんとこうと思ったのもありますね。自分の好きなこと、やりたいことを、お客さんに迷惑がかからないように、好きな感じでやっていく、というのを意識し始めたのはこのお店からです。

徳田さん自身のことと、お店の今後の展望を聞いてみた。

仕事はこのままやっていこうと思ってるんですけど、この建物が古くなってきてるんでそこが問題ですね。出来るうちはここで床屋をやって、将来は離島に住んで古民家買って奥さんとDIYしてそこで床屋をやろうかなという話もしてます。妄想でしかないですけど。
なんかスタンスはあまり変えたくないなと思ってます。今のところ店舗を増やそうとか思わないですし、こうなりたいっていうのはあんまりないですね。当分は1人やなって感じです。自分が信じれるヒトが出てきたら変わるかもしれないですけど、後を継いでくれるようなヒトを見つけるのも大変ですしね。

おかんに導かれて始まった理容師の道。名実ともに手に職をつけている状態ではあるが、徳田さんは生き方やスタンスを大事にしている気がしたので、このスタンスが継続できるのなら、床屋じゃなくてもいいのではないかと聞いてみた。

いや、やっぱり床屋です。気楽に出来て、お客さんと喋れて、完全に1人で出来る仕事ってあんまりないと思うんですよね。そこそこ稼げてというところに絞ると、さらにないかもです。床屋が自分にとって最適かなと思ってます。単純ではありますが、この仕事をやっててええなと思うのは、カットした後に「この髪型めっちゃいいですね」とお客さんから直接言ってもらえることですね。めちゃくちゃ嬉しいです。


モヤモヤしている人に向けて


前編でも書いたが、中高時代の徳田少年はどこへ行ってしまったのか。実はどこにも行っていない。徳田少年をベースにただただ努力を重ねただけなのだ。本当に人生はどう転ぶかわからない。この徳田さんの生き方は、今の自分にモヤモヤしているヒトにとって、一歩踏み出してみようと決断する生き方ではないかと感じたので、最後に"今の自分にモヤモヤしているヒト"に向けてメッセージをいただいた。

とりあえずやりたいことをやってみるべきですよね。しのごの考えずに。何かヒントがあると思います。とりあえず考えてる暇があるならやってみて、あかんかったら違うことやって。僕がやってきたことなんですけど、その方が早いですしね。失敗もするんですけど、それも経験やと思います。
色々やっていったら色んな人が見れます。こういう人にはなりたくないなとか、この人すごいなとか、中には目標にする人も出てくると思います。そういうヒントになるような出会いもあるし、自分のやりたいことが見つかるし、合う仕事、合わない仕事もわかってきます。
実際やってみることでその辺はわかると思います。やってみてあかんかったらやらん方がいいん
ですよ。向いてない。どうせやるなら得意なことを仕事にするのがいいと思います。好きを仕事にするのは難しいと思うんですけど、得意なこととか、合ってるな、っていう仕事は絶対にあると思うんで。
やってみたことを、友達とか近しい人に喋ってみると、反対もされるし賛成もされるんですけど、その辺は上手に人の意見を聞きながらやっていったらええなと思います。年歳は関係ないです。
僕自身は今振り返ってみると、自分軸を明確にするために外に出て色々と経験したのかもしれません。自分は自分の人生の主人公、というか自分軸で動かないといけないと思います。他人軸だとずっと人に振り回される。1本の柱をしっかり立てるために、色々経験して太くする、みたいなイメージ。そしたら他人に影響されにくい人生になると思うんですよね。



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編集後記

インタビュー時間は約2時間。

目から鱗の半生で、自分自身の価値観が思いきり揺さぶられた。

徳田さんは元々理容師になることが夢だったわけではない

それなのに、たったの6~7年で"理容師以外の道は考えられない"というレベルにまで達した。その道から一度外れたにもかかわらずだ。

"ヒトは夢を叶えることでしか充実した人生を送れない"というような風潮があるように思う。個人が発信できるこの世の中、多分に漏れず僕もそうだが、その風潮や考え方はこれからも続いていくのだろう。

根性から始まった社会人人生。

現在徳田さんは、羨ましいほどに充実した人生を送っているように見える。

文才がなくて非常に申し訳ないのだが、なんというか、全然無理していない

自分のペースで、自分のやりたいことを、肩肘張らずに

夢なんてなくったって、自分と周りのヒトに向き合えば、充実した人生を送ることができるお手本が、私の身近に存在した。

これからも私のカットを末長くよろしくお願いいたします。

<JINKEY BARBERSHOPホームページ>

http://www.jinkeybarbershop.com/
<JINKEY BARBERSHOPインスタグラム>

https://www.instagram.com/jinkeybarbershop/
※撮影時のみマスクを外して撮影を実施しております。店内では各感染防止対策実施中です。








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