見出し画像

「私たちはまだ原始人だ」。運動で脳とメンタルも鍛える。


新型コロナウイルスの流行をきっかけに、健康維持への関心はより一層高まった。これを機に、運動を始めた人も少なくないだろう。街ではジョギングをする人をよく見かけるようになった。

今までも生活習慣病への警鐘として運動が勧められてはいた。それでも世間ではどこか「意識高い系」のイメージが張り付いていたように思える。
しかし、今ではその認識が逆転して、健康維持に対する意識が低い人のほうが心配されるようになった。まるで新型コロナウイルスが、怠惰な現代人に鞭をふるったかのようだ。

運動といえば、体力・筋力を鍛えるものとしてのイメージが強い。
そのため「別に私は身体を動かす機会がないし」という声や「アスリートじゃないんだから」と、自分には関係のないものだと勘違いしている人が実に多い。
座り作業が多かったり、机にかじりついている人なんかは尚更だろう。

しかし、運動には「身体のすべて」を活性化させ、整える効力がある。
「身体のすべて」には、体力や筋力だけではなく、免疫力も含まれる。
つまり、脳の力、いわゆる集中力記憶力、ひいてはメンタルを鍛えるためにも、運動は欠かせないのである。


運動のメリット

運動のメリットは数えきれない。ざっくりと言ってしまえば「身体機能と知的能力のすべてを向上できる」のひとことに尽きてしまう。それに、私も全ての知識を網羅しているわけではない。
なので今回は、実際に私が意識しているものを掻い摘んで並べてみた。それが以下の通りだ。

身体へのメリット
・心肺機能の向上(体力がつく)
・肩コリ、腰痛の改善・予防
・血流の改善(基礎体温も上がる)
・免疫力上昇
脳へのメリット
・集中力、記憶力の上昇
・前頭葉(理性を司る器官)の機能向上
・実行機能(計画を立てたり、注目する対象を変える)の改善
メンタルへのメリット
・ストレスに強くなる
・自律神経が整う(ストレスや不眠の予防になる)
・ポジティブになる

ざっと並べただけでも、これだけの効果がある。特に、集中力やストレス耐性は多くの人がほしいと思っているはずだ。

運動と脳機能、あるいはメンタルとの関係性を調べた研究も山ほどある。
例えば、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)の研究チームは「運動は脳の成長因子を増やし、脳のはたらきや容量を維持・改善する効果がある」と発表している。


私たちはまだ原始人のままだ。

そもそも、なぜ運動はこんなにもメリットがあるのか。それは私たちの脳が未だに原始人と同じ構造をしているからである。
実は、人類史の99.9%は、狩猟採集をして暮らしていた時代だといわれている。つまり、人類が地球上に現れてから今に至るまでの大半が、原始人の時代である。私たちが学校で習ってきた縄文時代やら近代やらの歴史は、わずか0.1%、ほんの一瞬の出来事に過ぎないのだ。

そうして見ると、人類はその0.1%の中で大きく躍進したと前向きに捉えることもできる。人類スゴイ。大半の時代をジャングルでウホウホしていたにも関わらず、ほんの一瞬で多くの技術や科学、テクノロジーを生み出した。

しかし脳はどうだろうか?進化論を見てもらえばわかる通り、生物の進化は実に緩慢だ。何万年にもわたって徐々に徐々に変化していく。実のところ、私たちの脳はこの1万年変化していない。つまり、生物学的にみると、私たちの脳は未だジャングルやサバンナに住んでいるのだ。


なぜ運動がいいのか?

こうした事実を踏まえたところで、なぜ運動がいいのかを解説してみよう。
まず、狩猟採集の時代は、基本的に外で活動していた。屋内(当時でいえば洞穴だっただろうか)にいるのは、夜に休むときぐらいだ。

当然、集中力が要求されるのは、外で活動するときだ。彼らは、獲物や食料の場所、敵や危険の接近、狩りの手順など、様々な範囲に注意を飛ばしながら行動した。
獲物を逃せば飢えに苦しみ、敵の発見に遅れれば死の危険がある。凄まじい集中力が求められたはずだ。

脳を使うというのは、意外にもカロリーを消費する。重さは身体全体の2~3%しかないにも関わらず、消費カロリーは全体の1/4~1/5にまで及ぶ
そうなると、出来るだけカロリーの消費を抑えなければならない。食料が安定しない当時ならば尚更だ。

そこで人類の脳は、できるだけ狩猟採集の活動中にだけ脳を使うよう進化した。そして座ったり寝転んで休むときは、脳の働きを制限する。そうすることで、消費するカロリーの量を抑えたのだ。
生き残るためだけに脳を使う。夜にわざわざ物思いになんてふけっていては、大事なカロリーの無駄遣いになってしまうからだ。

つまり、私たちの脳は運動によって活性化するように出来ているのだ。
資源や食糧が豊かになった現代でも、そのシステムは変わっていない。座りっぱなしで仕事や勉強をすること自体、そもそも脳にとって非合理的なのだ。
脳にとって座っているということは「休息している状態」なのだから、眠くなるのも当然である。

実際、運動をすることによってBDNF(脳由来神経栄養因子)が分泌されることがわかっている。簡単に言えば、脳を成長させるための栄養素だ。しかもこれは、何歳になっても分泌されることが判明している。
他にも、やる気や認知力を高めてくれるドーパミン、気分を高揚させるノルアドレナリン、抗うつ効果のあるセロトニンなど、お得なホルモンがたくさん分泌される。
ここまで一度に沢山のメリットがあるのだから、運動しない手はないだろう。


どんな運動がいいのか?

ここまで運動のメリットや仕組みについて解説してきた。それでは、実際にどんな運動を、どこまでやればいいのか?について説明していこう。

今回は脳機能やメンタル改善に役立ち、なおかつ手軽にできる方法を紹介する。もっとハードなものもあるのだが、今回は割愛する。

結論からいうと、20分の軽いウォーキングだけでも脳の機能が向上することがわかっている。
たったそれだけの運動でも上記のホルモンが分泌されて、集中力の向上やストレスへの耐性がつくようになるのだ。
しかもこの効果は、ある程度までならやればやるほど良いらしい。20分を30分や1時間に延ばしてもいいし、ウォーキングをランニングに変えてもいい。
ただし、オーバーワーク(限界を超える運動量を行うこと)だけは気をつけたほうがいい。オーバーワークをすると、かえって逆効果になるからだ。

ポイントは有酸素運動であることだ。
有酸素運動を行うことで血流がアップし、脳に酸素が行き渡りやすくなる。酸素供給が十分に行われることで、集中力・記憶力が向上するのだ。

運動量の目安は、
心拍数が上がり、軽く汗をかく程度
といわれている。

期間の目安は、
・長期的なら30分~1時間を週に2~3回
・短期的なものなら5分~20分を1時間~1時間半ごと
に行うことが推薦されている。あくまでも目安なので、自分のやりやすいように調整してほしい。継続できることが何より大事だからだ。


もっと簡単に運動をとりいれるには?

上記で紹介したような運動が理想的ではあるが、都合上なかなか難しいという人もいるだろう。
そんな人のために、毎日できる簡単な運動習慣を紹介しよう。もちろん上記の運動と組み合せてもらえれば、なお良い。

・階段をつかう
・立って作業をする
・15分に1回立ち上がる

こういった小さな習慣から試してみるのもいいだろう。
駅でエスカレーターを使うところを階段に変える。小さな用事ついでに立ち上がるなど、ちょっとした機会に取り入れてみてはいかがだろうか。

ちなみに私は、部屋に簡易的なスタンディングデスクをつくって作業をしている。
台座と大きめの本を積んだだけなので、絵を描くには無理があるのだが、パソコンやスマホを使う作業はここで立ったまま行っている。


人類の歴史において、99%が狩猟採集の時代だった。テクノロジーが発達し社会が激変しても、私たちの脳は以前として原始人のままだ。

狩猟採集時代に最適化された脳の使い方を知る。それこそがもっとも合理的な脳と身体の使い方なのである。


─────────────────────────※ひとこと
狩猟採集時代の脳をもった人間と現代社会によるギャップは多岐にわたる。なかでも顕著なのがネットとスマホらしい。このあたりはいずれ何回かに分けて書いていきたい。

─────────────────────────

参考文献
ジョン J. レイティ エリック ヘイガーマン『脳を鍛えるには運動しかない! 最新科学でわかった脳細胞の増やし方』NHK出版 (2009)

メタリストDaigo『自分を操る超集中力』かんき出版 (2016)

メタリストDaigo『知識を操る超読書術』かんき出版 (2019)

アンデシュ・ハンセン『スマホ脳』新潮新書 (2020)

サムの本解説ch『【15分で解説】運動の最強メリット3選【脳を鍛えるには運動しかない】』





この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?