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【日本アカデミー賞最多8冠】『ある男』


はじめに


 Netflixで配信が始まった『ある男』観ましたー。2023年の日本アカデミー賞最優秀作品賞・最優秀監督賞・最優秀主演男優賞・最優秀脚本賞など合計8冠受賞した本作。どういう作品なのか前提情報を仕入れず、名作を期待して視聴しました。

個人的な評価

ストーリー  B+
脚本     A
構成・演出  A
俳優     S+
思想     A
音楽     B
バランス   B
総合     B+

S→人生に深く刻まれる満足
A→大変に感動した
B→よかった
C→個人的にイマイチ

内容のあらすじ

 内容的には、夫と離婚し幼い息子と故郷に戻った女性・里枝(安藤サクラさん)が父を亡くし、不安な日々のなかで文房具屋を営んでいると、店の常連客になった谷口大祐(窪田正孝さん)と親しくなり、結婚するところから物語は始まります。
 数年後、ふたりの間には新たに娘が誕生し幸せに生活しますが、林業に従事していた大祐は作業中のミスで大木の下敷きになって亡くなってしまいます。

 法要に現れた大祐の兄・恭一(眞島秀和さん)は、不出来な弟が最期まで迷惑かけて申し訳ないと悪態を吐きますが、飾られている遺影を見て「これは大祐ではない」と言い出すのでした。

 この事態を受け里枝は、自分が結婚していた男性は本当はどこの誰で何者だったのか、離婚調停で世話になった人権派弁護士・城戸章良(妻夫木聡さん)に身元調査を依頼します。
 城戸は本名不詳の男をXと呼び、弁護士業務の傍ら調査を始めるのでした。


 以下、ネタバレありです。



感想(ネタバレあり)

 内容的に『在日差別』をテーマにしている本作。当初、安藤サクラさん演じる里枝の目線で窪田正孝さん演じる人物の正体を追っていく話が展開されるのかと思いきや、途中から現れる妻夫木聡さん演じる城戸視点のストーリーメインになります。
 窪田正孝さん演じる人物の身元調査をする城戸は、ことあるごとに帰化した在日3世であることで不快な目に遭います。

 妻・香織(真木よう子さん)の実家では、義父が在日韓国人・在日朝鮮人に対する生活保護に苦言を呈し、調査で刑務所に訪れた際は柄本明さん演じる囚人・小見浦に朝鮮人だと見抜かれて揶揄されます。
 そして、テレビでは桜井誠氏らと思われる政治団体による韓国・韓国人・在日の人々に対する下劣なヘイトスピーチの様子が流されます。

 窪田正孝さんの正体とかよりも、在日韓国人・在日朝鮮人由来の方々が日本では凄く嫌な思いをしています、ということが終始表現されます。
 この時点で、原作者・監督などがきっと在日の方で、自分は何も悪くないのに何でこんな目に遭わなきゃいけないんだ、と言うことを訴えたい作品であると気づきます。

 話が進むと、どうやら窪田正孝さん演じる人物は死刑囚の息子で、それゆえにまともな人生が送れなかったことが判明します。何度も戸籍を売買し、必死に誰かに成りすまして生活を送っていた彼に対し、日常的に出自による在日差別を受けている自分を重ね合わせて城戸は同情します。

 作中に、死刑囚の描いた絵を見て『俺は無実だ、ではなく、俺はそんな人間じゃない』と訴えてるように感じたという表現が出てきます。
 また、人権派弁護士として活躍する城戸に対し、柄本明さん演じる小見浦が「先生は在日差別されてるというけど、あんたも私を犯罪者として見下して差別してるじゃないか。差別を非難しているあんたが一番の差別主義者だと気づいてないんだね」と図星を突かれ「だってあなたは実際に犯罪者じゃないか!」と言って激高したり、と日本人の私の感性だとイマイチ感情移入できませんでした。

 おそらく、犯罪を犯した本人が糾弾されるのは当然としても、それによって親の因果が子に報いというやつで子どもが理不尽な差別を受けるのはおかしい。在日一世の方はまだしも、二世以降は日本で生まれて日本人として育ったのに朝鮮人だの在日韓国人だの言われて差別されるのは間違っているということを主張したいのだと思われます。

 しかし、日本人の価値観だと親と自分は別という個人主義より、家族は一蓮托生であるという運命共同体の思想・価値観のほうが強い気がします。
 そうでなければ、鬼滅の刃のような作品が流行るわけがありません。炭次郎が鬼になった妹・禰豆子を自分とは関係ないと言って切り捨てるようなキャラクターだったら感動できるんでしょうか。
 つらく苦しいけど、自分は兄であり、残された最後の家族だから自分の人生を犠牲にしてでも最後まで守り抜くと決意した生き様に感動できるのではないでしょうか。

 無論、本作の窪田正孝さん演じる人物のように、よい家族に恵まれなかった人が鬼滅を見るとムカつくだけであり、炭次郎や禰豆子に対しては「現実にはこんないいやついねーよ!仮にいたとしても、とっくに力尽きてくたばってる!」と一蹴されるかもしれません。

 でも本当に耐えきれないほど嫌だったら、海外に逃げるのが最適解な気がします。オウム真理教の元幹部やその家族が海外で暮らしてるのと同じで。理解しようとしない他人に理解してくれと叫んだところで無駄です。
 けっして、在日差別を受けている人や、親のせいで理不尽な人生を歩んでる人を虐げる意図はないですし、気持ちは重々理解できるのですが、その苦しみは家族に対する未練や愛情の証なのだから仕方ないじゃないですか、と思えてしまう私でした。


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