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#エッセイ

御本拝読「雨だれの標本」吉永南央

 「紅雲町珈琲屋こよみ」シリーズの最新刊。七十代後半の珈琲屋店主・杉浦草が町や人に関する謎を解く、毎年楽しみに待っているシリーズのひとつ。謎解き、ではあるが、いくつも死体が出てきたり壮大なトリックや陰謀があるわけでなく、家族や友人という小さいコミュニティの関係のもつれや秘密を解いていくシリーズだ。
 失礼を承知で、それでも忌憚のない言い方をすれば、このシリーズは巻によって好き嫌いがはっきりと分かれ

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御本拝読「いきもののすべて」フジモトマサル

 今現在も普通に過去の作品の再版や改版・合本などが新しく出ているから、生きているんだと勘違いしてしまう。あ、そうだ、亡くなっておられるんだ、と気付いてその度に寂しくなる。そんな作家さん・漫画家さんの一人、フジモトマサルさん。ありきたりだが、もっと作品を拝見したかった方だ。
 私は、所謂「シュール」「トガっている」というものを好む人間ではないと思っている。めっちゃベタにコウペンちゃんやシルバニアファ

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御本拝読「新宿二丁目のほがらかな人々」新宿二丁目のほがらかな人々

 ゲイだから○○、というのは、A型だから几帳面とかみずがめ座だからエキセントリックとかいう迷信めいた言説と同じだと思っている。占いは統計学、という論にも一理あるが、基本的には成育歴や職種などの外的要因から成る「個人による」だろう。が、本書が面白くて読みごたえがあるのは、間違いなく本書に出てくる御三方がゲイだから、である。それは、単純に「ゲイだからこう考える」ということではなく、ゲイという性質と付き

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御本拝読「作家超サバイバル術!」中山七里・知念実希人・葉真中顕

 作家の生活や来し方を書いたエッセイや自叙伝は星の数ほどある。そこには大抵、自分の生活習慣や趣味、思い出や主義主張、本人の心や脳の中身を適度にラッピングして読者が読みやすいように書き下してある。もちろん面白いのだけど、実は「モノを書く」という仕事についての話は案外少なくて、本書ではそこのみを抽出してさらりと、しかしかなり真摯に丁寧にさらけ出してくれている。
 当たり前の話っちゃあそうなのだが、まず

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御本拝読「ごはんのおとも」たな

生きる「おとも」に

 前回の御本拝読から全然テイストが違うじゃないか、と自分でも思う。ごはん系の絵本や漫画でじわじわと頭角を現し、しっかりとファンを増やしていっている作家・たなさんの作品。大判フルカラーコミック、私の大好きな形です。色んな人の「ごはん」にまつわる短い漫画と、レシピ見開き1ページの連作漫画集。
 過剰な表現や劇的な展開はなく、本当に「普通の人の普通の食事」のお話。作ったり作られたり

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御本拝読「炎上CMでよみとくジェンダー論」瀬地山 角

新書という文化

 海外の出版事情を網羅しているわけではないので完全に個人の感想だが、日本は出版される書籍の物理的な種類が多いと思う。洋書だと、硬くて分厚くて高価なハードカバーか軽くて安価なペーパーバックか。アメリカンコミックやフランスのバンドデシネも、日本の書店の漫画コーナーほど細かい形態の違いはないかもしれない。日本では、一般書のハードカバー、ソフトカバー、文庫本、多種多様な漫画、そして、「新

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御本拝読「あぁ、だから一人はいやなんだ。3」いとうあさこ

幻冬舎文庫の罠

 数多ある各社の文庫本の装丁を見比べるのが好きです。特に背表紙は、一見してどこの文庫か分かるので。そして、私が持っている文庫本の中で二番目に多いのが「幻冬舎文庫」です(一番は新潮社文庫)(その昔、文庫のカバーの隅についてるマークを集めて応募する企画で、時計をいただいたぐらい)
 幻冬舎文庫、私が持っているのはすべて女性の著作でした。しかも、ほとんどがエッセイ。もっと言えば、半分以

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御本拝読「聡乃学習」小林聡美

さとのがくしゅう

 ではないです、「サト、スナワチ、ワザヲ、ナラウ」です。
女優・小林聡美さんのエッセイ集、既刊では最新刊。2019年単行本で発行、去年文庫化されました。ちょうどコロナ禍前の、小林さんの毎日がつづられています。
 昔から小林さんのファンですが、やはり最新が一番良いと毎回思わせてくれる素敵な女優さん。不思議な清潔感というか、凛として静かなのに暗さや重さを感じさせないからっとした佇ま

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御本拝読「私のマトカ」片桐はいり

寒い日の本、旅編

 大雪の中を出勤し、無事に転びもせず生きております。私自身は雪の降る山陰の生まれ育ち&生まれついての立派な骨格にどっしりした下半身故、黙々と京都市内の混乱をやり過ごしました。しかし電車は止まるしそもそも通勤できない人が続出、連絡便や本の納品も壊滅状態。あんな時は、二日三日図書館閉めといていいと思います。誰も来なかったし。
 さて、そんな大雪吹雪の中、いつもの倍の時間かかって通勤

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