御本拝読「作家超サバイバル術!」中山七里・知念実希人・葉真中顕

 作家の生活や来し方を書いたエッセイや自叙伝は星の数ほどある。そこには大抵、自分の生活習慣や趣味、思い出や主義主張、本人の心や脳の中身を適度にラッピングして読者が読みやすいように書き下してある。もちろん面白いのだけど、実は「モノを書く」という仕事についての話は案外少なくて、本書ではそこのみを抽出してさらりと、しかしかなり真摯に丁寧にさらけ出してくれている。
 当たり前の話っちゃあそうなのだが、まず、御三方とも(中や表紙のイラストと漫画を担当している佐藤青南さんももちろん含めて)めちゃくちゃ文章が読みやすい。ストーリーを追うわけではないのに、するすると頭に入る。よく考えたらみなさん、トリッキーな文体やセンセーショナルな設定や表現で人をびっくりさせるのではなくて綿密に伏線や背景を構築していくタイプ。小説を書くというのは思いっきり文系の仕事に見えるが、中でも(内容的なことも)かなり理系的な方々。アホみたいな言い方になるが「あたまのいいひとは、わたしのようなばかにせつめいするのもうまいのだなあ」というのが感想の第一声だ。
 要するに、「小説家になった後どうするか」の話なのだが、よくある小説講座とかハウツーの本ではない。小説の書き方や小説家の生活の様子ではなく、新人賞の後、専業作家になった後、担当さんとは、出版社とは。SNSの使い方や売り込み方、続けていくための諸々。めちゃくちゃリアリティのある話である。怖い。
 「三作縛り」「SNSによる弊害」の話は、分かりやすく説明してもらうと、「ああ!そういうこと!」と腑に落ちる。この人いいなと思った新人作家の本が、3作目まではシリーズで間を開けずに刊行されていたのに、その後ぱったり……は、いち読者としてよくある。そういうことか……。SNSも、私個人は「作家さんなんてもう自分の本出てるし、自己顕示欲なんてそこで最高に満たされちゃってるからSNS利用する意味ないのでは?」と思っていた。そういう問題じゃないのね。
 書き手のカラーというかキャラクターが上手い具合にばらけているのも良い。年長で多作、厳しさと懐の深さをあわせもった偉大な賢人のような中山七里さん、ファイティングスピリットとはこの人のための言葉と言いたくなる熱さの知念実希人さん、穏やかで実直で多方面にバランスがいい葉真中顕さん。読んだ人が必ず「この人とは意見や感覚が近いなあ」と思えるはず。
 そんな違った三人でも、総括すると大体のことにおいて結論は同じだったりする。それは、小説家として生計を立てるという生き方そのもので、それぞれが違うやり方・違う道でも、「たくさんの人に読まれる小説を書く・本を出版する」という結果は同じ。だからこそ、自分なりの考え方や方針をしっかり持っておかないとすぐにぽしゃったりくじけたりするんだよ、ということが一番の本書の教訓かもしれない。
 個人的に「新人賞をとった後、お前は今の仕事を辞めるな!という人ほど、仕事を辞めてしまう」(※要約)という一文が心に残りまくっている。これはもう、ダニング・クルーガー効果そのものではないか。小説家でなくても、一般的な学校や会社でも、よく見られる現象だ。実力がない人ほど、なぜか楽観的で果断なのはなぜ
 小説家やライターとして生活したい人はもちろん、実は高校生や大学生に読んでほしい一冊かもしれない。新社会人とか、入社三年目くらいまでの若者とかも。どんな職業でも仕事をする・生活をするって厳しいし、会社や組織に属するということは本書につまった苦労をしないでいいというメリットがある。小説家は、よほど自制できて自活のバイタリティがある人間でないと無理だ
 ちなみに、実は、私は本書の書き手の皆さんの中では佐藤青南さんの作品を一番たくさん読んでいて、合間に挟まる漫画やキュートなイラスト(あとで御本人の写真を検索したらそっくりだった)がすごく嬉しかったし好きだ。

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