御本拝読「あぁ、だから一人はいやなんだ。3」いとうあさこ

幻冬舎文庫の罠

 数多ある各社の文庫本の装丁を見比べるのが好きです。特に背表紙は、一見してどこの文庫か分かるので。そして、私が持っている文庫本の中で二番目に多いのが「幻冬舎文庫」です(一番は新潮社文庫)(その昔、文庫のカバーの隅についてるマークを集めて応募する企画で、時計をいただいたぐらい)
 幻冬舎文庫、私が持っているのはすべて女性の著作でした。しかも、ほとんどがエッセイ。もっと言えば、半分以上は女優さん・芸人さんのエッセイ。大好きな小林聡美さんのものはきれいに全部そろっているし、阿佐ヶ谷姉妹のものは既に読みすぎてくったりしてきている。幻冬舎文庫の、ミントグリーンの背表紙に著者別のカラーの装丁もかわいくて好き。カバーの質感や、本体の表紙・裏表紙もいい。
 そして、今回の本も幻冬舎文庫の芸人さんのエッセイ。これも、読みたいものがたまた幻冬舎だったというだけの話ではありますが、ここまでくると、幻冬舎が私の好みをリサーチしているのかもしれない。幻冬舎の罠にはまる私。
 私が読んでるものだけの話ですが、幻冬舎から出ている女性のエッセイは、ゆるゆる長く読み続けられるものが多い気がします。すごく思想や意見が強いことはなく、なんとなくさっと手に取って何回でも読める。近所の人や職場の先輩との世間話的な。

いとうあさこ嬢

 さて、本書はお笑い芸人・いとうあさこさん(以下、あさこ嬢)の日々をつづったエッセイの第三弾。もちろん、1,2,も読了してますが、コロナ禍での日々メインな本書は本当に笑かしてくれました
 なぜ、「あさこ嬢」なのか。それは、どうしても育ちの良さと人の良さがにじみでて、お転婆なお嬢様を見守る執事のような気持ちになってしまうから。そして、文章がとても上手い。難しい言葉やうまいこと言おうということがなく、さらっと読みやすい文章が書けるのは、やはり地頭の良さやきっちり勉強してこられてるからに違いなく
 コロナ禍について書かれた小説やエッセイ、中には悲惨だったり憂鬱だったり憤りだったりが溢れすぎて、読んでるこっちの気が滅入る時があって。殺人や暴力の描写ももちろん暗い気持ちにはなりますが、コロナ禍での苦しみは、自分もリアルタイムに体感してきたことだから余計に。
 そんな中、あさこ嬢はコロナ禍も上手に漂って楽しんでおられる様子。もちろん、芸能界はコロナの影響甚大だっただろうし、さらっと苦労もたくさん書かれています。しかし、「どうしてこんなことに……」とめそめそすることなく、許される範囲でめいっぱい酒と食と人生を楽しんでいくあさこ嬢。軽妙な文章で語られる面白おかしな日々は、読むと元気になる薬のようでした

愉快な「一人」

 タイトルこそ「だから一人はいやなんだ」ですが、全然一人じゃないしいやそうでもないあさこ嬢。お友達も、先輩後輩も、あさこ嬢の周りにはいつも誰かがいます。お人柄ですね。
 おそらく、普段そうやって呼んでおられるニックネームそのままに、文中で登場する色んな芸能人やそうでない方々。顔を知っている方もそうでない方も、なぜかみんなあさこ嬢の文章を通すと魅力的で良い人だと信じられるマジック
 人は、鏡なんだなあ、と歌詞のようなことを思います。あさこ嬢が周りの人に優しくするように、周りの人もあさこ嬢に優しい。そのほんわかした美しい循環のかけらを、本書を通して見せていただいてます。
 そして、一人で果敢に何かに向かっていくときも、結構何事にもわくわくされているのが分かる。うじうじしたところや、卑屈なところが一切なく、トラブルやアクシデントも割と冷静な判断で乗り切っていく。やはり、頭の良さと、長年の経験で鍛えられたその精神力が光ります。
 私も「一人」ですが、こうなりたいと思う理想の一つが、あさこ嬢です。「一人」だけど、「一人」を強がりもせず悔いもせず、飄々と軽やかに生きていく。もちろん読んでいて普通に笑えるのですが、読み終えるたびに自分自身が「一人」であることがちょっと誇らしくなる不思議。
 このシリーズの特徴で、あさこ嬢の撮られた食事の写真がちょうど本の真ん中あたりにまとめて挟み込まれており、「今読んだやつの料理、どれ?」と毎回探すのもまた一興。この楽しみ方も、紙の本ならではなんですよね。



 
  

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