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ビジネスへの貢献大!ずっと論文読むのを習慣にしていたら!と『経営者の教科書』を読んで。

今回読んだのは『経営者の教科書:ハーバード・ビジネス・レビューCEO論文ベスト12』(ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部訳、ダイヤモンド社,2020年)。
「経営者に必要な能力を『ハーバード・ビジネス・レビュー』の名著論文で習得する!」がキャッチコピー。
本書から、今回は第1,2,5章のダイジェストと感想をメモした。最初に全体を通してひとこと感想。これからは学ぶ経営者でなければだめだ。もちろん学びは研究論文を読むことに限らない。ただ、自分が最も賢い人間だと錯覚して謙虚に真剣に学ばななくなったらもう、その経営者も、彼(彼女)が率いる企業も成長せず、淘汰されていくだろう。世界はこの本のように、学び、思索を深め、知見を蓄え続けているのだから。

第1章 戦略構築にこそ戦略が必要である

 なかなかガツンと言ってくれる章題である。
 多くの企業では、経営幹部たちは戦略構築プロセスを自社の競争環境の特定の要件に合わせる必要性を十分認識している。だが多くの企業は、実際の環境が極めて不安定で変わりやすいことを知りつつも、予測可能で安定した環境に向くアプローチを取っていた。(なんじゃ、それは。無能なのか?)
そこで、「予測可能性:自社を取り巻く環境がどの程度予測しやすいか」「改変可能性:企業にそれを変える力がどれだけあるか」の二軸で4つの戦略スタイルに分類する簡単なフレームワークが紹介されている。
・予測可能性+、改変可能性+:先見型
 食品、保険、必需品小売、医療機関・医療サービス、マスコミ、等
 大胆な戦略が必要になる。適応的スタイルよりも伝統的スタイルとの共通点が多い。目標が明らかなので、計画的なステップを取ることができる。重要なのは、入念に資源を整理し、完璧な計画を策定し、正しく実施すること。実行面がまずくてせっかくのビジョンを損なうようではいけない。先見型を用いる戦略立案者は、最期までやり抜く勇気と、必要な資源を投じる覚悟を持つ必要がある。
・予測可能性+、改変可能性-:伝統型
 自動車、製紙・林産物、商業銀行、消費者金融、たばこ、産業コングロマリット、等
 これにはファイブ・フォースやブルーオーシャン、成長と市場シェアのマトリックスといったビジネススクールおなじみのスタイルが該当する。
・予測可能性-、改変可能性+:形成型
 建設土木、海洋、医療技術、金属・鉱業、貿易・流通、不動産投信、等
 他者に出し抜かれる前に、予測不能な環境を自社に有利になるよう形作る戦略をとる。
・予測可能性-、改変可能性-:適応型
 輸送インフラ、バイオテクノロジー、コンピュータ・周辺機器、建材、等
 これらの業界では、入念に作成田伝統的戦略が数週間のうちに陳腐化するかもしれない。こうした状況にある企業には、常に目標と戦術を改め、素早くスムーズに資源を変更、買収、処分できるよう、より適応力のあるアプローチが求められる。入念に練った詳細計画を立てるのではなく、手に入る最も優れたデータをもとに大まかな仮説を立てるやりかたで計画していく。ZARAの事例が紹介されていた。

4つとも、読めば「なるほど」とも「そうだろうか?」とも思う感じである。
戦略立案者が陥りがちな罠として、「自信過剰」「(ビジネススクールで伝統型しか学んできていないゆえの)習慣」「文化のミスマッチ」の3つが挙げられているのも親切なので、ぜひ一読を。

第2章 イノベーション戦略の70:20:10の法則

 企業の永続的な成長のため、イノベーションが必要だとよく言われる。具体的には、新たな収益源となる「新製品」や「新規事業」を生み出そうとする。ではそれをどの領域で起こそうとするのか?がこの章の主題である。行き当たりばったりや手当たり次第ではなく、投資をマネジメントしなければならない。まず、イノベーションレベルを分類し、これらに投資する配分の黄金比率があるかを見ていく。
イノベーションレベルの分類
・中核レベル(既存の顧客向けに既存の製品を最適化する)
   活動領域:既存の市場と顧客のニーズに応えるイノベーション
   成功する方法:既存の製品や資産を活用する
・隣接レベル(既存の事業から「自社にとって新しい」事業へと拡大する)
   活動領域:隣接市場に参入し、そこにいる顧客のニーズに応える
   成功する方法:漸進的な製品や資産を追加する
・転換レベル(ブレークスルー製品を開発し、まだ存在しない市場に向けた創出を行う)
   活動領域:新規市場を創出し、新しい顧客ニーズに目を向ける
   成功する方法:製品や資産を新しく開発する
ズバリ、黄金比率は?
 
トータルイノベーションのマネジメントに長けている企業は、上記3つのイノベーション・レベルに同時に投資し、そのバランスを慎重に保っている。
ではそのイノベーション・ポートフォリオの構成バランスに、黄金比率はあるのだろうか。上記分類に対する特定の資源配分比率と、株価で評価したパフォーマンスの向上に有意な相関があるかどうかを調査したところ、同業他社のパフォーマンスを上回り概して10~20%高いPBRを達成していた企業は、イノベーション活動の70%を中核的イニシアティブに、20%を隣接イニシアティブに、10%を転換的にイニシアティブに割り振っていた。

 では、最終利益への各イニシアティブの寄与度はどのような比率なのか。長期的、累積的なROIで見た結果、上記割合をきれいに逆にした結果となった。これらを表で整理すると↓

本文から表化。イノベーションレベルの分類と、投資の黄金比、結果としての長期利益寄与

 つまり転換的イニシアティブは大局的イノベーションであり、飛躍的成長のエンジンなのだ。10%程度でよいのでここに継続的に投資し続けるチャレンジが必要ということだ。ただし、この投資内訳がすべての企業に当てはまる魔法の公式ではないとしている。 消費財を扱う産業大手企業であれば、80:18:2 多様化した工業製品を扱う企業であれば、70:20:10 発展途上にあるハイテク企業であれば、45:40:15が、合理的な配分比率の事例として示されている

トータルイノベーションをシステム化する
 中核・隣接・転換のすべてのイノベーションレベルに投資し続ける必要は理解できた。しかし、このことは、企業が3つの異なるケイパビリティをすべて獲得・維持しなければならないことを意味する。3つすべてを得意とする企業はほとんどない。特に転換的イノベーションは(想像通り)多くの企業が苦労する。調査会社コーポレート・ストラテジー・ボードによると、成熟企業が新規事業に乗り出す場合、試みの99%は失敗に終わるという。異なることを実行する組織には、異なる人材、異なるモチベーション、異なる支援体制が必要なのだ。場合によっては、このチームを物理的に切り離したときにうまくいく傾向さえある。距離が離れていないと、中核事業の維持ばかりを重視する会社の規範や期待の引力から逃れることができないのだ。
道筋と、経営者の役割
この章の最後の部分は、ぜひ本書を読んでほしい。短いが、真面目な経営者の方には一顧に値するだろう。

第5章 売上げが止まる時

 まったく、ぞっとする章題である・・・。しかし研究からわかることがあり、売上げが止まることを阻止できるなら、絶対に学ぶべきだ。
 この論文は、コーポレート・エグゼクティブ・ボードの企業成長をめぐる調査の一環として行われたものだ。リーディングカンパニー500社のここ半世紀における成長過程について、詳細な分析を試みた。とりわけ重点を置いたのは、一時的な減速や不調ではなく、長期的な低迷の起点となる「成長の壁」である。
研究成果❶ 原因のほとんどは回避可能
 50社を対象に成長力に陰りをもたらす主原因を詳細に分析したところ、対処可能な要因が87%であり、不可抗力の要因は13%に過ぎなかった。対処可能の87%は戦略要因(70%)と組織要因(30%)分けられる。
そして戦略要因のうち、上位は
・リーダー企業が陥る「成功の罠」(23%)
・イノベーションマネジメントの破綻(13%)
・成長余力を残したコア事業の見切り(10%)
である(本書には下位を含め詳細に図式化されており必見 p116)。
もう一方の組織要因の上位は、
・人材不足(9%)・・・貧弱なスキル、有能な人材の流出、一部への依存など
で、先の3つと合わせてこの4要因で5割を超える。つまりこの4つが要注意と言えるだろう。
 これらのうち、私が最も関心を持ったのは「成長余力を残したコア事業の見切り」である。実は企業の多くがいまだに既存事業をうまく拡大できずにいることがうかがえると言うのだ。失敗はこうして起きる。コア事業が飽和したり既存のビジネスモデルに障害が生じたりすると、より競争の少ない領域へ進出する潮時であるとみなしてしまう。当然、その企業は市場リーダーの地位からすべり落ち、悲惨な状況に陥る。経営陣が自社の中核事業や製品について「成熟した」という表現を使ったならば、危険信号とみてほぼ間違いないと言う。どうだろう。実は、こういう企業は多いのではないだろうか。本来、経営陣は、成熟しきった事業についてさえ、新しいビジネスモデルを探り、つとめて再活性化を図らねばならないのだ。

研究成果❷ 成長の失速を示す兆候をいち早く察知できるツール
それは、財務諸表などの公開データではない。それらは戦略の結果を反映しているため、戦略の衰えを早く察知することには役立たたない可能性が高い。むしろ、経営陣が注目している市場、競合他社の動向、社内慣行などが成長の鈍化を示唆していた可能性があるという。もうひとつのツールは、以下の4つのベストプラクティスである。最初の2つは戦略の前提となっている仮定を棚卸するのに有効で、後の2つは、それらの仮定が現状に適しているかどうかを確認する役割を果たす。
①自社の常識について再検討する
 様々なメンバーを集めたクロス・ファンクショナル・チームをつくり、自社や業界についてどのような考え方や思い込みが社内に浸透しているかを探り出す。例えば以下のようなやっかいなテーマが良い。「顧客は誰か」「顧客の意見としてあり得ないものを10種類挙げよ」「業界の前例を打破して成功した企業はどこか」「具体的には、どのような前例をひっくり返したのか」など。こうして自社に蔓延している常識に挑んでいく。参加者の人数が増えるほど、それまでの信頼性や有効性のメッキがはがれていくという。
②最悪に至る前に戦略を再考する
 5年後に会社が繁栄しているか衰退しているか、ビジネス誌でどのように取り上げられているかについて、何通りもの見通しを立ててみる。定期的な社外ミーティングで取り組むとよい。経営陣と世界中から集まった精鋭スタッフが、1日ないし2日をかけて将来のシナリオを検討する。これらのシナリオには共通点があるはずで、そこに注目すると社内に深く根を下ろしている考え方や先入観のうち、どれに注意を払えばよいかがわかる。
③「影の内閣」をつくる
 この手法に先鞭をつけたのは、フォーチュン250にランキングされている某メーカーである。ミドルマネジャーの中から、ゆくゆくは執行役員への就任も期待される逸材ばかりを集め、常設チームを立ち上げた。このチームは通常、経営委員会の前日に会議を開き、翌日の経営委員会と極力同じ議題について話し合う。経営陣は戦略の前提となっている仮定についてこだわり勝ちであるが、社内事情により明るい信頼できるミドルマネジャーたちが、新鮮な視点を提示するわけだ。もちろんこの手法はリーダー育成プログラムの柱としても位置付けられる。ただし、経営層の戦略の欠点を率直に指摘することで芽を摘まれるような企業では機能しないし、導入してもいけない。
④戦略の検証にベンチャーキャピタリストを巻き込む
 ベンチャーキャピタリストに同席を求め、戦略の前提となっている仮説についての問題点を探ってもらうと、リーダーが取り組むべき課題が浮き彫りになるほか、ベンチャーキャピタリストならではの実践的な視点、すなわち投資効果を見極める目が鍛えられる。ただし、人材の探索と選定は重要。

以上、『経営者の教科書~ハーバード・ビジネス・レビューCEO論文ベスト12~』から、第1,2,5章について自分なりにまとめた。ほかにも、9章 企業変革の落とし穴、11章 戦略実行の本質、など興味深い章が多い。また別の機会に取り組みたい。


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