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第二部 春は遠き夢の果てに 一 疎水沿いに植えられた桜並木の下を、優…
二 「それにしてもさあ、ゆきぃ、いきなり人に飛びかかるクセ、たいがいにせんとあ…
三 木製のベンチに腰かけて、小川の流れを見るともなく見下ろしている。 少し…
四 「初めて逢った時のことな、こうも言うててん『ゆきちゃん、ちょうちょのおにいち…
五 すれ違い困難な道幅が続き、合っているのか不安になるくらい、長くて薄暗い峠…
六 萱葺きの母屋の向かって右側、少し離れた場所に、木造の平屋が存在する。なん…
七 やわからい微笑みをうかべたまま、静枝は袱紗を受け取ると、両手で包み込んで、祈るような形で胸の中央で抱き締めて、そのまましばらく瞑目していた。 そっと立ち上がると、箪笥の一番上の引き出しに収めてあった、臙脂(えんじ)色の袱紗を取り出し、それぞれから中身を抜き出すと、テーブルの上に双つ並べる。 「きれいななあ」 「きれいやろう、優希。おばあちゃんの、たいせつな、たいせつな宝物なの」 漆塗りの貝の内側に、鮮やかな紅色で描かれた可憐な蝶を、美佳も改めて眺める。ふ
八 「じゃ、優希のこと、よろしくね。ちょっと時間かかっちゃうかも知れないけど」…
九 レナちゃんのことを話すには、まずおばあちゃんがどんなことをしてたのか、聞…
十 次にレナちゃんに会ったのは、三ヵ月後の年末のこと。 「おかえり」って、お…
十一 それから二ヶ月ほど経った、真冬のすごく寒い夜、おばあちゃんから電話があ…
十二 ミカちゃんへ ミカちゃん、今さらこんな手紙を書いてしまってごめん…
十三 またサ店で働きはじめて、はじめのころは良かったんよ。顔なじみもいてよく…
十四 読み終わってからもしばらく、健吾は両腕に顔を埋めて泣いていた。 やがて、思い切ったように半身を起こすと、右腕でゆっくりと涙を拭う。 「この、嶽野ってやつ……」 そうつぶやく健吾は、穏和な彼がそれまで見せたことのない、ギラギラする不穏な決意みたいなものを、両眼に滲ませている。 「あたしも、こいつだけは許せなくて、一言言ってやりたくて、レナちゃん死んじゃったよ、満足? って、言ってやりたくて、気持ちの整理がつかないまま、喫茶店に行ってみたの……」 「うん」