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春は遠き夢の果てに

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かつて存在したという、夢のように美しい梅林を求めて、美佳はその町を訪れる…。 花々に彩られた京都を舞台に織りなされる、不器用で優しい人々の物語。
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#京都

春は遠き夢の果てに (一)

    第二部 春は遠き夢の果てに      一  疎水沿いに植えられた桜並木の下を、優…

春は遠き夢の果てに (二)

     二 「それにしてもさあ、ゆきぃ、いきなり人に飛びかかるクセ、たいがいにせんとあ…

春は遠き夢の果てに (三)

     三  木製のベンチに腰かけて、小川の流れを見るともなく見下ろしている。  少し…

春は遠き夢の果てに (四)

    四 「初めて逢った時のことな、こうも言うててん『ゆきちゃん、ちょうちょのおにいち…

春は遠き夢の果てに (五)

     五  すれ違い困難な道幅が続き、合っているのか不安になるくらい、長くて薄暗い峠…

春は遠き夢の果てに (六)

     六  萱葺きの母屋の向かって右側、少し離れた場所に、木造の平屋が存在する。なん…

春は遠き夢の果てに (七)

     七  やわからい微笑みをうかべたまま、静枝は袱紗を受け取ると、両手で包み込んで、祈るような形で胸の中央で抱き締めて、そのまましばらく瞑目していた。  そっと立ち上がると、箪笥の一番上の引き出しに収めてあった、臙脂(えんじ)色の袱紗を取り出し、それぞれから中身を抜き出すと、テーブルの上に双つ並べる。 「きれいななあ」 「きれいやろう、優希。おばあちゃんの、たいせつな、たいせつな宝物なの」  漆塗りの貝の内側に、鮮やかな紅色で描かれた可憐な蝶を、美佳も改めて眺める。ふ

春は遠き夢の果てに (八)

     八 「じゃ、優希のこと、よろしくね。ちょっと時間かかっちゃうかも知れないけど」…

春は遠き夢の果てに (九)

     九  レナちゃんのことを話すには、まずおばあちゃんがどんなことをしてたのか、聞…

春は遠き夢の果てに (十)

     十  次にレナちゃんに会ったのは、三ヵ月後の年末のこと。 「おかえり」って、お…

春は遠き夢の果てに (十一)

     十一  それから二ヶ月ほど経った、真冬のすごく寒い夜、おばあちゃんから電話があ…

春は遠き夢の果てに (十二)

     十二    ミカちゃんへ  ミカちゃん、今さらこんな手紙を書いてしまってごめん…

春は遠き夢の果てに (十三)

     十三  またサ店で働きはじめて、はじめのころは良かったんよ。顔なじみもいてよく…

春は遠き夢の果てに (十四)

     十四  読み終わってからもしばらく、健吾は両腕に顔を埋めて泣いていた。  やがて、思い切ったように半身を起こすと、右腕でゆっくりと涙を拭う。 「この、嶽野ってやつ……」  そうつぶやく健吾は、穏和な彼がそれまで見せたことのない、ギラギラする不穏な決意みたいなものを、両眼に滲ませている。 「あたしも、こいつだけは許せなくて、一言言ってやりたくて、レナちゃん死んじゃったよ、満足? って、言ってやりたくて、気持ちの整理がつかないまま、喫茶店に行ってみたの……」 「うん」