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春は遠き夢の果てに

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かつて存在したという、夢のように美しい梅林を求めて、美佳はその町を訪れる…。 花々に彩られた京都を舞台に織りなされる、不器用で優しい人々の物語。
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#桜

春は遠き夢の果てに (一)

    第二部 春は遠き夢の果てに      一  疎水沿いに植えられた桜並木の下を、優…

春は遠き夢の果てに (二)

     二 「それにしてもさあ、ゆきぃ、いきなり人に飛びかかるクセ、たいがいにせんとあ…

春は遠き夢の果てに (三)

     三  木製のベンチに腰かけて、小川の流れを見るともなく見下ろしている。  少し…

春は遠き夢の果てに (四)

    四 「初めて逢った時のことな、こうも言うててん『ゆきちゃん、ちょうちょのおにいち…

春は遠き夢の果てに (五)

     五  すれ違い困難な道幅が続き、合っているのか不安になるくらい、長くて薄暗い峠…

春は遠き夢の果てに (六)

     六  萱葺きの母屋の向かって右側、少し離れた場所に、木造の平屋が存在する。なん…

春は遠き夢の果てに (八)

     八 「じゃ、優希のこと、よろしくね。ちょっと時間かかっちゃうかも知れないけど」  美佳の申し出で、昼食の前に二人で件(くだん)の枝垂桜(しだれざくら)を観に行くことになった。時刻は、既に正午を少し回っている。 「さっきパンを食べたから、お腹ももうちょっともつと思うから……」 「ええからええから、早よ行っといない」苦笑しながら、静枝は美佳の腰を押し出すようにする。 「ゆきぃ、よかったなあ、おばあちゃんと二人で」健吾が、少し離れた場所でなにやらくるくる踊っている優希に

春は遠き夢の果てに (九)

     九  レナちゃんのことを話すには、まずおばあちゃんがどんなことをしてたのか、聞…

春は遠き夢の果てに (十)

     十  次にレナちゃんに会ったのは、三ヵ月後の年末のこと。 「おかえり」って、お…

春は遠き夢の果てに (十一)

     十一  それから二ヶ月ほど経った、真冬のすごく寒い夜、おばあちゃんから電話があ…

春は遠き夢の果てに (十二)

     十二    ミカちゃんへ  ミカちゃん、今さらこんな手紙を書いてしまってごめん…

春は遠き夢の果てに (十三)

     十三  またサ店で働きはじめて、はじめのころは良かったんよ。顔なじみもいてよく…

春は遠き夢の果てに (十四)

     十四  読み終わってからもしばらく、健吾は両腕に顔を埋めて泣いていた。  やが…

春は遠き夢の果てに (十五)

     十五  桜並木をゆっくり引き返していると、ちょうどゆるやかなカーブから姿を現した静枝と優希が目に入る。目敏くこちらをみつけて、大きく手を振る二人に、美佳も手を振り返す。春爛漫の、夢のような田園風景の中に佇む祖母を見ているだけで、なぜか涙がこぼれそうになる。 「そろそろええ頃合や思て出かけた時に、ちょうど石黒先生来てくれはってね、お弁当持ってもらいましたんや」 「美佳ちゃん、ひさしぶりやな」  ごま塩の5分刈り頭にギョロ眼を光らせた診療所の石黒は、見た目はいかついが