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【福田平八郎】琳派と抽象の狭間で踊る【山種美術館】

秋雨煙る9月29日、東京 恵比寿の山種美術館で企画展「福田平八郎×琳派」がスタートしました。
福田平八郎氏のことはあまり詳しくないのですが、安定と信頼の山種美術館の企画展なら…と近くを通りかかったついでに初日の鑑賞。
見終えて満足ほくほく。日本美術の新たな魅力を発見する絶妙な企画でした。


展覧会の概要

今年は福田平八郎の没後50周年なので全国的に企画展が組まれている様子。春には大阪中之島美術館で大規模な回顧展があったらしいのですが、巡回予定に東京会場は今のところなし。来てもいいのよ…?

今回観覧した山種美術館の特別展では収蔵作品から福田平八郎作品を50点ほど並べています。後半は福田が影響を受けたと語っている琳派の優品を併せて展示する二段構成。俵屋宗達・酒井抱一を中心に見事な花鳥画が複数出ており、こちらだけでも見ごたえ十分。


福田平八郎作品を眺める。

福田平八郎は大正時代から昭和40年代まで活躍した日本画家。その作風は時代とともに驚くほどの変遷を遂げており、初期から晩年までの作品を眺めていくと次第に色彩と単純な形状にシフトしていくのが分かります。
ちなみに、観覧前に私が知っていた作品は春の『花 flower 華2024』展で見た『牡丹』の屏風のみ。

宋代の水墨画を思わせる端正な描画は「幽玄」という言葉がよく似合いますね。このファーストコンタクトのイメージで行ったら、大分異なる作風の絵が多くてびっくりしました。

福田平八郎の初期作品は正統派の近代日本画の要素が強く見られますが、中後期になるにつれて抽象表現に似たものへと移行していきます。デフォルメされた形状と画面を区分する鮮やかな色彩がもたらす驚くような対比は、ジャンルこそ違えど何やらアンリ・マティスを想起させ、伝統的な日本画とは異なる領域へのシフトが鮮やかです。

具体的に見てみましょう。展覧会のポスターにもなっている『』は、シンプルな白地を薄墨色の線描による竹の葉でびっしり埋め尽くし、その単純な反復を打ち破るように突き出した二本のタケノコの存在感が驚くほどモダンな作品。黒黒した皮の光沢にはっとさせられます。単純な作品構成に込められたエネルギーと春のタケノコの生命力がシンクロした優品。

山種美術館 Yamatane Museum of Art on Instagram: "福田平八郎《筍》(#山種美術館)。昭和22年の第3回日展に出品し、絶賛された名作です! 竹や筍を写生してまわる中で、黒漆のように黒光りした筍が強く印象に残っていたという平八郎。地殻を破って生え出た力強い筍の姿を描きたかったそうですよ✨ #山種美術館 では、4/23(土)~7/3(日)の期間、#奥田元宋と日展の巨匠展 を開催中です。 詳細に関しては、プロフィール( @yamatane_museum )記載の公式サイトからご確認ください。 #日本画 #日本画家 #日本美術 #日本文化 #岩絵具 #mineralpigments #mineralpaint #japaneseart #japanesepainting #japaneseculture" 1,480 likes, 8 comments - yamatane_museum on May 26, 2022: "福 www.instagram.com


展示作品の中で気に入ったのは、『芥子花』『紅白餅』『桐双雀』『彩秋』『漣』など。単純化された形状と鮮やかな色彩が見事に調和した作品群です。

右側が『芥子花』。フラットだけれど鮮やかで美しい色彩、単純ながらも特徴を捉えた描線が素晴らしい逸品です。この柄のテキスタイル、作ってほしいなぁ。

オンラインでは画像が見つからなかったのですが、個人蔵の『紅白餅』(画像検索で出てくる折り鶴のいる絵じゃないほう)は水色の背景に白とピンクの丸が可愛らしい作品。印象は本当に抽象画に近いのですが、タイトルが「コンポジションNo.9」とか「思索(3.22)」みたいな難解なタイトルでなく、そのまんま『紅白餅』なあたり、ほっこりします。

桐双雀』は秋、桐の種が茶色い小珠となって並ぶ枝先にとまった二羽の雀を描いたシンプルな色調の作品。けれどよく見ると、一言で茶色と括ってしまうには勿体ない複雑な色彩が隠れています。黄色やピンク、紫色を帯びた赤茶色。味わい深い作品です。


彩秋』はシンプルな形状のススキを画面下に、赤から黄色、青緑まで複雑に色を変えていく柿の葉を上部に配したビビッドな一作。唯一撮影可だったので記念に一枚撮ってきました。実物は顔料がキラキラしてもっと美しいですよ。

右上とその他の余白にはっとする『彩秋』


白地にシンプルな青の描線を連ねた『さざなみ』は福田平八郎の代表作…ではなく、今回展示されているのは個人蔵の方の『』だそうです。珍しい!
重要文化財にもなっている有名な作品(下図)は下から上へ密度が上がっていきますが、本作は均一に波線が分布。その代わり、左上から右下へと青と紫の混色が徐々に薄まって水色に向かう変化を見せ、絶妙な美しさ。印刷では表現しきれない味わいがあるので、ぜひ実物を見て欲しい作品です。


琳派を楽しむ。

福田平八郎は生前「琳派大好き! たまに琳派に影響されすぎてデザイン画みたいな絵になっちゃう(意訳)」と語っていたそうですが、確かに彼の後期作品を見ると琳派っぽさも感じなくもないですね。個人的には抽象画の方が近い気がするけど。

そんな福田のルーツとなった琳派の作品の数々が後半のテーマ。山種美術館所蔵の琳派の名品が展示されています。山種美術館には尾形光琳の収蔵品は少ないようで、メインとなるのは酒井抱一俵屋宗達
宗達筆と伝わる『槙楓図』は、植物の繊細な描写と大胆な画面が魅力。時代が古いので全体的にくすんでいますが、正面に立つとボタニカルでゴージャスな雰囲気に圧倒されました。
また、俵屋宗達と本阿弥光悦のコラボレーション色紙もずらり。豪華すぎる短冊です。


酒井抱一の『秋草鶉図』は琳派の粋を極めた逸品。構図のバランスの良さと繊細な筆致が見事で、細部を拡大すると肉眼では気づかないほど繊細な描線が描き込まれているのが分かります。リズミカルに伸びたススキの間を鶉が飛び跳ね、奏でる秋の音楽が目で感じられそうです。空に浮かぶ月は漆黒。銀が錆びたのではなく、もともと黒かったと考えられています。ハイセンスですね!


鈴木其一の『四季花鳥図』も見逃せません。師である酒井抱一の特徴をよく捉えつつも、華やかで繊細な花を寄せた構成は其一独自の美意識を表現しています。向日葵の派手な存在感は其一の軽やかなタッチで自然に溶け込み、調和の取れた画面です。


展覧会の締めくくりとして、速水御舟や安田靫彦、奥村土牛といった近代日本画家たちの琳派オマージュな作品も展示されています。近代日本画壇の巨匠たちの琳派好きを再発見できますね。


まとめ

福田平八郎をエンジョイするもよし、琳派の名品を味わうもよし! 一回で二度美味しい美術展です。日本画好きの方はぜひどうぞ。

また、鑑賞後には美術館一階のカフェで提供されている恒例の企画展コラボ和菓子もおすすめ。日本の季節の味わいを堪能できますよ。

「秋草」と栗緑茶を注文しました。練切美味しい!



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