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かつて少年漫画と少女小説を両手に抱えたあなたに読んでほしい熱いキャラクター文芸「陰陽師と天狗眼」レビュー

◆追いかけていたWEB小説が商業化した

 私は創作文芸同人のすみっこにいるオタクなのだが、この度めでたいことに、ずっと追いかけていたWEB小説が商業化することになった。
 それが「陰陽師と天狗眼」(歌峰由子著/原題:巴市の日々/マイクロマガジン社ことのは文庫より2020年8月20日刊行予定)である。

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古より怪異と隣り合わせの町・広島県巴市。
巴市役所の「危機管理課特自災害係(通称もののけトラブル係)」に採用された、出雲の高名な陰陽師一族出身ながら、少し訳ありの黒髪美青年・宮澤美郷と、幼い頃に在野の天狗を名乗る男に拾われ、フリーの山伏となった金髪・緑銀眼の熱血系イケメン・狩野怜路。
いきなり同居することになった異色のふたりが、現代に起こる怪異を華麗に、そしてお役所仕事に追われながら解決していくことに――。
広島を舞台に、異色バディがお届けする「もののけ」ファンタジー! (Amazonより引用)
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https://www.amazon.co.jp/dp/4867160431
(Amazonリンク)

 約2年間の連載と派生を見続けてきたために、愛着が強く、商業化の知らせを聞いたときは休みだったのも幸いして一日中呆けた顔で過ごしていた。簡単に言えば「推しが商業化」したのだ。全国区である。そもそもWEBに掲載されている時点で全世界に公開されているのでいまさらなにを、と思うこともあるのだが、この「商業化」というのには大きな重みがある。

 全国の本屋に並ぶ……っ! 編集部の厳選したアオリ・キャッチコピーで飾られ、WEB小説および創作同人など知らぬひとびとの元に届く……!

 感涙ものである。
 まあこんなオタクの唸り声など無視して、公式の情報を見てほしい。

 まず表紙を見てほしい。装画はカズキヨネ先生である。
 乙女系コンテンツのキャラクターデザインで有名な方だと、この件で改めて知った(浅学で申し訳ない)そんな方が描いた主人公・宮澤美郷と、相棒である狩野怜路の姿と、深く昏い空の背景は、まさにこの作品の「仄暗さ」を一枚で表す素晴らしいものだった。
 商業化恐ろしい。

<レビュー>
NetGalleyレビュー
書店・図書館・教育関係者メインのレビューサイトだが、私のような一般人でもレビュワーとして参加できた。真面目で素晴らしいレビューがたくさんあるので、よかったらこちらをまずは参考にしていただけるとうれしい。

その後、もし時間があるようなら、以下のオタクの長文でも読んでくれるとありがたい。

<「リアル」に着目したレビュー>(8/3追加)
祝!『陰陽師と天狗眼─巴市役所もののけトラブル係─』発売!
 同じく「陰陽師と天狗眼」を初期から(私以上に前から)読んでいるいぐあなさんのレビュー。主に、怪異・お仕事・地方都市の「リアル」に着目して語られているレビューです。

更には、彼等の仕事は本来、巴市のあちらこちらにある祠や神社を祀り、祭事でトラブルを事前に防ぐことなので、そのせいで古くから巴市にいる役員や建設業界にはよく理解されているが……いざ、予算等で天狗に渡した酒代などを議会で吊し上げられたらヤバいという役所内の立場もリアル。(上記レビューより)

 これですよこれ。これ。未然に防ぐことなんです。「防災」なんですよねえ……!!

◆陰陽師と天狗眼についていいところを語る

・まどろっこしい文章が苦手な人は以前作成した4枚のプレゼンを見てほしい

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 文字がいっぱい過ぎて申し訳ない。

・地方都市/お役所仕事の「リアリティ」と怪異

 作中、陰陽師・退魔ものにおなじみの札や呪文、呪術が出てくるのだが、決して御札が空を飛んだり、不思議な力でくっついたりはしない。御札は両面テープで貼られるのだ。だがまちがいなく呪いには効果があり、怪異はロジカルに「お役所仕事」で解決される。
 課の名前が「危機管理課特自災害係」である。要は洪水だの地震だのににた自然災害の一種とされているのだから、対処マニュアルだってあるし、プリントだって渡される。ちなみに美郷ら職員が現場に駆けつける時着る服は、狩衣でもなんでもなく、真っ赤な作業服(ジャンパー)である。
 怪異を身近なものだが、同時に人間社会の秩序を乱すものととらえ「市民の安全の為に」対処する姿は、読み手の現実世界と細かなところでリンクするため、不思議な共感と、同時に面白さがある。

・居場所を失った男二人の「昏く、深い」感情と出会い

 ※以下は、WEB版を下敷きにした語りになるが、少しのネタバレも嫌だというタイプは避けてほしい

で、なんでこんなこと言うのだと言われそうだが、個人的にこの作品の一番の燃えどころはここだと思っているオタクなので許してほしい。
 主人公の美郷は、あらすじにもある通り高名な陰陽師一族出身である。詳しくはネタバレになるので言えないが、彼の抱えた過去と暗さは壮絶なものである。市役所での勤務時も、なにげない世間話を静かに眺めつつ、己はその場所に行けないのだと自嘲するほどに、現世での生き方に疑問を持っている。一方、ひょんなことから彼を同居させた山伏の怜路も、明るく面倒見がいいのだが、出自が原因でひとの「縁」には人一倍敏感な男である。
 ものすごく簡単に言えば、この話は二人が「お互いを理解しあえる、初めての友人」になるまでの話だ。
 二人はそれぞれ人生の中で、理不尽な事件に巻き込まれ、結果孤独な気持ちを抱えてしまっている。現実の社会で「社会人」として振る舞いながら、その傷を時々薄闇の中で見つめ、ひとりで佇むしかできない辛さを抱えている。
 しかし二人は、幼子の様にはわめかない。カッコ悪くはない。それは彼らが「プロフェッショナル」の矜持を持ち(あるいは、作中で改めて認識するに至るのだが)この現世で生きているからだ。それでも、ひとは泣きたいときがある。辛さを認めて、その上で、生きることへの希望を持ちたい。それは、たったひとりきりでは難しいことだろう、と思う。

「陰陽師と天狗眼」は、一つの大きな事件をきっかけに、昏く深い水底から相手を引き揚げ、息を吸うこと(=生きること)へ、手を差し伸べる希望を見出す物語でもある。
 身もふたも無く言えば「努力・友情・勝利」という、かの有名な少年ジャンプのアレである。それでいて、作者の持ち味である緻密で丁寧な心理・情景描写は、彼らへの憧憬と共感を誘い、耽美ささえ感じる。そう、往年の少女小説のミームも持っている。タイトルに「少年漫画」「少女小説」を入れたのはそういう理由だ。

 この作品は少年漫画の熱い文脈を持っている。同時に、仲間を求め、この世界で生きようとするロマンを詰めた少女小説の文脈も存在する。
 あまり既存の商業雑誌の名前を書くのもナンセンスだが、これはオタクのお気持ち長文なので言わせてほしい。
 かつて80年代~90年代初頭にかけて「ジャンプ」「月刊Asuka」「ウィングス」「花とゆめ」「なかよし」「集英社コバルト文庫」「キャンバス文庫」このあたりを追いかけた方々には、かなりお勧めしたいのだ。貴方です。そう、そこの貴方です。

 互いの存在を認め、失いたくないと精いっぱい手を伸ばす熱い主人公の話だ。それが、理不尽な「社会」のなかでも失いたくない「熱い感情」を求める読者さんに届けばいいなと思って、このnoteを書いた。

 発売日は、2020年8月20日。夏の暑さがまだ消え去らないであろう幽玄の季節に、是非読んでほしい一冊だ。

◆各種リンク

※各種ただのリンクなのでアフィ等ではない。気にせず踏んで吟味して予約したり買ってほしい
<発行元>
マイクロマガジン社ことのは文庫
<各種通販サイト>
Amazon

楽天ブックス

e-hon

<WEB掲載版> 文体を見たいひとにオススメ
エブリスタ
※続編あり。書籍版は大幅改稿されるので、できれば書籍版をお手に取って頂けるとファンとしてはうれしいが、続編は掲載されているのでそちらも読んでほしい。つまりどっちも読んでほしい。 

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