見出し画像

生物多様性とリモートセンシングデータ~リモートセンシングが作る生物多様の未来~

天地人は、衛星データを使った土地評価コンサルを行っているJAXA認定ベンチャーです。地球観測衛星の広域かつ高分解能なリモートセンシングデータ(気象情報・地形情報等)や農業分野の様々なデータを活用した、土地評価サービス「天地人コンパス」を提供しています。

Tenchijin Tech Blogでは、宇宙に関連するさまざまな最新情報を、天地人のエンジニア、研究者、ビジネスリーダーが一歩踏み込んで解説します。

今回の記事では、前半は生物多様性についての説明や実現の必要性について解説をし、私たちが生きる地球における生物の役割について考えます。後半は、生物多様性において活用されているリモートセンシング技術について紹介し、生物の保護と多様性の実現の可能性を探ります。


1. 生物多様性とは?

私たちの地球には、目に見えない細菌からゾウのような大きな動物まで、3000万種類もの生き物がいるといわれています。すべての生き物は長い歴史の中、異なる環境下で自分たちの居場所を見つけながら、共に進化してきました。アリもハトも、ライオンもヒトも、タンポポも柿の木も、バクテリアも、それぞれの個性を認め合い、お互いにつながり、直接的・間接的に支え合ってきたからこそ、私たちはいま存在しているのです。このような生きものたちの豊かな個性とつながりのことを生物多様性と呼びます。

生物多様性条約では、「多様性」には3つのレベルがあるとしています。森林や里地里山などの「生態系」、動植物から微生物などのさまざまな「」、そして「遺伝子」の3つです。以下ではその3つの多様性について解説していきます。

  • 生態系の多様性

地球上、あるいは特定の地域に様々なタイプの自然があること (森林、草原、河川・湖沼、海など)

出典:環境省

大気中の二酸化炭素を吸収して酸素を供給する森林生態系や水を浄化する湿地生態系など、生態系は、様々な機能を持っています。様々な生態系の機能が融合し、地域あるいは地球全体の環境が維持されると考えられており、これを生態系の多様性といいます。

  • 種の多様性

地球上、あるいは特定の地域に様々な種類の生きものが生息・生育している状況のこと (動物、植物、菌類など)

出典:環境省

それぞれの生態系を構成し、その機能を維持しているのは様々な生物の種です。ある生態系における生物種の数の大小を種の多様性といいます。生態系において生物種の数が多くなる、すなわち種の多様性が高くなればなるほど、その食物網は複雑になり、エネルギー転換や物質循環のルートが多くなります。

そうすると、環境の変動や人為的な撹乱によって生物種の一部が減少しても、生態系全体の機能は大きく損なわれずに維持され、やがて元の状態に復帰することができます。このように、種の多様性が大きければ生態系の柔軟性と抵抗力が高まると考えられます。

出典:茨城県ホームページ
  • 遺伝子の生物多様性

同じ生きものの種類の中にも、遺伝子による様々な違いがあること (形、模様、生態など)

出典:環境省

これは、同じ種内での個体の遺伝的な変異のことをいいます。ある生物種の集団(個体群)にとって、その集団内に様々な遺伝子型の個体がいる方が、環境の変化に対して多様な反応(環境変化への対応、その種の進化など)を示すことができます。

このように、種内や集団内に様々な遺伝子を持っている状態を遺伝的多様性といいます。

2. なぜ生物多様性を実現する必要があるのか?

生物多様性は、地球上で長い時間をかけてつくられたかけがえのない貴重なものであり、それ自体に大きな価値があるため、保全すべきものです。また、私たちが生きていくための不可欠な基盤にもなっています。食べ物や水はもちろんのこと、快適な気候や自然の自浄作用などのたくさんの目に見えない恩恵を日々受けながら私たちは生活しています。

このような自然からの恩恵を「生態系サービス」と呼び、4つのサービスに分類されています。これらの観点から生物多様性を見ると、いかに私たちにとって不可欠なものであり、これらが失われてしまうと私たちの生活自体が成り立たなくなることが実感できるのではないでしょうか。

出典:神奈川県ホームページ

供給サービス
生きるために不可欠な食料や水、様々な原材料を提供する供給サービスは、自然生態系の恩恵の一例です。地球表面の大半が農業や畜産業に利用されており、私たちの食事の多くは限られた数の作物や海洋生態系からの魚などに依存しています。これらは重要なタンパク源を供給し、生物多様性の維持が欠かせません。作物の遺伝的多様性が失われると、病害による全滅リスクが高まります。

また、衣類、住居、燃料、肥料などの原材料も自然から得られます。医薬品開発に必要な遺伝資源や薬用資源、さらには観賞植物やペットとしての動物も、生態系からの供給物として大切です。生物多様性と健全な生態系が支えるこれらの資源は、私たちの生活に不可欠です。

調整サービス
調整サービスは、私たちが快適に生活できる環境を維持する機能です。例えば、樹木や植物が大気汚染や騒音を減らし、緑地が健康促進に貢献するなど、快適な生活環境を作り出します。また、植物は光合成で二酸化炭素を吸収し、気候調整に重要な役割を果たします。さらに、森林などの自然環境は災害緩和や土壌侵食防止など、見えないところで様々な貢献をしています。

文化的サービス
自然環境は私たちがレジャーとして楽しんだり、その美しさを観賞したりする対象にもなるため、これらを文化的サービスと呼びます。魚釣りや海水浴、公園散策や紅葉狩りなど、生態系から得られる精神的な充足や感性の醸成は、私たちが豊かに生きるために大きな影響を与えています。

基盤サービス
上記①〜③のサービスを支えているのが基盤サービスです。例えば動植物の死骸をバクテリアが分解し、豊かな土壌が形成されることで、食物連鎖が支えられていたり、ある動物が別の動物の生存や繁殖に必要となっていたりと、生態系の間には相互作用があります。生物多様性が保持されることで、全ての生命の生存基盤となる環境が提供されているのです。

このように、私たちは生態系から大きな恩恵を受けており、これらのうち一つでも欠けると、特定の種が絶滅したり、気候変動が起きたりと、さまざまな弊害となって表れるのです。さらに、生態系は複雑に関係し合っているため、発生する問題がどのような原因で、どのような影響を与えるのかがわからないという点も、生物多様性の保全が難しい理由と言えます。

3. 生物多様性分野で活用されるリモートセンシング

ここまで、生物多様性の意味や実現の必要性について解説してきましたが、生物多様性の保全には様々な策が取り入れられています。今回はその中でも、生物多様性の保全と研究において、革命的な役割を果たしているリモートセンシングに注目します。この技術により、広範囲にわたる生態系の監視が可能となり、従来では困難だったデータ収集や分析が実現しています。以下では、リモートセンシングを活用した生物多様性に関する3つの事例を紹介します。

  • アマゾンの森林監視

アマゾンの森林は、世界の生物多様性に不可欠な役割を果たしている一方で、違法伐採や森林減少の進行という深刻な脅威に直面しています。この貴重な生態系を保護し、その持続可能な管理を推進するために、リモートセンシング技術が重要な役割を担っています。国際熱帯木材機構(ITTO)プロジェクトは、アマゾン地域での伐採と土地利用の課題に取り組むため、森林被覆の変化に関するリアルタイム情報を提供し、アマゾン協力条約機構(ACTO)のメンバー国をサポートしています。

この取り組みにおいては、レーダー衛星とAI技術が組み合わされ、アマゾンの森林伐採の検知と予測に利用されています。この技術の活用により、違法伐採への対策と管理能力が大幅に向上しています。森林被覆の監視は、森林破壊や伐採の問題に迅速に対処するための情報を提供し、持続可能な森林管理を通じて炭素蓄積量の増加や生態系の健全性の向上を目指し、環境サービスの向上に貢献します。

参考文献
ITTOプロジェクトがアマゾン森林の監視のための大きな新資金を導く | ITTO | The International Tropical Timber Organization



以降の内容は有料となります。
(この記事のみ購入する場合は、200円です。月に3~4記事が月額500円になるサブスクリプションプランもご用意しております。)
天地人へのご質問・記事に関するご感想・記事の内容のリクエスト等ございましたら、pr@tenchijin.co.jp までお気軽にお問い合わせください。


ここから先は

1,902字

¥ 200