見出し画像

(短編SF小説)エコーワールドの響き:時空を超えた絆

「すべての宇宙に、最良の選択をした私たちが存在するとしたら、それはどんな世界だろうか?」

Ⅰ. 西暦2130年

西暦2130年。陽葵(ひまり)と蓮(れん)は1年ぶりの再会となった。

この時代、地球は気候災害の危機から見事に再生し、自然と機械の垣根はシームレスに溶け混ざり、自然と人間が共存する新しい世界が拡がっていた。緑豊かな屋上や、エネルギーを集める道路が特徴的なこの新しい世界で、「エコーワールド」と呼ばれる現象が人々の間で話題となっていた。それは、無限の宇宙を探索するための仮想空間だった。

「ここが噂のエコーワールドね…」と陽葵は驚きを隠せない様子でつぶやいた。

Ⅱ. 未知の世界への一歩

仮想現実を通じて、彼らの目の前には様々な人生が広がった。宇宙のネットを織り成すワンシーンごとの仮想世界が、異なる宇宙での特別な存在を示していた。ある世界では、蓮はピアニストとして観客からの喝采を受けていたが、内心では何か満たされない気持ちを抱えていた。

「みんなの拍手はめっちゃ嬉しい!でも、なんか心に穴が空いているようなんだよなぁ…」と蓮は心の中で思い、空を飛び交うタクシーを眺めながら家路へ向かった。

Ⅲ. 約4.3億km

一方、陽葵は海王星近くの宇宙ステーションで地球外生命に関する重要な発見をしていた。有名な国際論文誌の査読を1ヶ月かけてようやく通過したメールを聴き、今までの研究成果が実を結んだことに達成感を覚えていた。しかし、地球から約4.3億km離れているこの宇宙ステーションの中で研究仲間と3人の共同生活。弟の存在がなければ、その達成感も薄れてしまう。

「蓮がいないと、この発見もなんだか色あせてしまうなぁ…」と彼女は苦笑いしながら考えた。

彼らが体験した別の現実は、孤独な成功の寂しさを教え、真の達成感について考えさせられるものだった。

Ⅳ. 空間の先に

星々に囲まれた仮想空間で、陽葵と蓮は変わらない絆を感じていた。

「おれたちの絆は、これらの人生を超えてるのかなぁ」と蓮は静かに言い、陽葵は「超えられるでしょ、きっと」と、深く頷いた。

「エコーワールド」からゆっくりと抜け出した瞬間、彼らの表情は入った瞬間よりも明るくなったように見えた。

本当に大切なものは、見えない絆と、その絆が織りなす無限の物語なのかもしれない…


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?