てまり

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てまり

小説書いて写真を投稿するだけのアカウントです。 主にミステリーたまにホラーちょっとSFを書いています。 基本下から物語が続いています。 シリーズはタグに書いてます。 最近ステキ文芸で投稿始めました。

最近の記事

⑪これから

昨夜、突然茉莉花から電話があった。直ぐに会って話したいことがある、とのことだった。確か一昨日会ったはずだが、もう進展があったのだろうか。私は今日会う約束を取り付けて電話を切ったが、ひどく緊張しているのか手が汗で艶めいていた。 昨日から緊張が続いたまま私は茉莉花の家に着いた。今日も茉莉花の両親は不在らしい。お母さんの方は最近パートを始めたらしく、家を空けることが多くなっていた。それが私たちにとっては好都合で、最近は茉莉花の家で話すことが前提のようになっていた。お邪魔する

    • ⑩理想と現実

      恐らく茉莉花は自分の体が変だということに気付いたのだろう。しかし、何故DNA鑑定をしたのだろうか。否、問題はそこでは無い。DNA鑑定をした事で、もしかしたら茉莉花は体の秘密に気が付いてしまったかもしれない。 俺はそんな事をぐるぐる考えながらサーバールームに足を運んだ。ここ最近、茉莉花に本当の事を話すべきか迷いと葛藤に追い詰められ、サーバールームに入り浸っていた。ここではあの子の声が聞こえるような気がして気を安らかに持つことが出来た。 「そろそろ潮時か。」 大きな溜め息

      • ⑨振り出しに戻る

         今日は届いたDNA鑑定を開封する日だ。菖蒲には鑑定結果を開封せずに持ってきてもらい、私の家で開封することになっている。今日はお父さんもお母さんも家にいない日なので安心して開封することができる。  チャイムが鳴り、ドアを開けると、蝉の声が私の声をかき消してしまいそうな程響いていた。首筋から汗を流している菖蒲を迎え入れて、部屋まで案内した。  グラスいっぱいにお茶を注ぎ、慎重に部屋に運んでいくと、さっそく菖蒲はトートバッグからA4サイズくらいの封筒をテーブルに出していた。私は少

        • ⑧憶測

           茉莉花と会う一週間前、お母さんが探偵に依頼していた調査報告が届いた。調査報告の内容は、私を作った人の名前と住所、私の唯一のルーツである、私の心臓が移植されるはずだった娘の名前と住所が記されていた。私はその娘の名前を見て驚愕した。そこに記されていたのは、「小林茉莉花」だった。住所も見てみると、丁度茉莉花の住んでいる辺りだった。疑いたい気持ちもあったが、この珍しい名前と、住所が記された調査報告書が疑う余地を与えてくれなかった。私は茉莉花の病気の事を思い出して妙に合点がいった。ま

        ⑪これから

          ⑦覚悟

           外から忙しなく蝉の声が聞こえている。冷房の良く効いた涼しい部屋にいるはずなのに、音だけで外の暑さを感じられる。夏休みに入ってから菖蒲とは全く会っていなかった。今日は約一か月ぶりに会う。久しぶりに会うからか私は少し緊張していた。気付くと出されていたお冷が入っていたグラスは空っぽだった。丁度通りかかった店員さんにお冷を注いでもらっていると、菖蒲が私に合図しながら向かいの席に座った。菖蒲は店員さんが立ち去るのを待ってから話し始めた。 「久しぶり。最後に会ったときに茉莉花の病気の話

          ⑥それでも生きていく

           母との確執は解消されたものの、それでもまだぎこちないものだった。テレビでは最近のロボット研究の進化などが報道されていた。居間のテーブルの前に座っていると、家事が一段落した母が後ろのソファに座った。 「最近のロボットはすごいね。」 母は感心したように言った。テレビには犬型の愛らしいロボットが映っていた。 「これならアパートでも飼えるね。」 母は「そうだね。」と笑って返した。  しばらくテレビの話題で二人の会話に花を咲かせたが、突然、母の表情が真剣なものになった。 「菖蒲、自分

          ⑥それでも生きていく

          猛暑日の午後二時

          たん、たんたん、たんたんたんと、音が聞こえた。 どうやら子供たちが外でグリコをして遊んでいるようだ。 階段をリズム良く駆け上がる音と、忙しない蝉時雨が、台所の窓の隙間から漏れている。 アイスバーを片手に扇風機の前を占領する。 窓の外には吸い込まれそうなほどの青が広がっていた。 ふと、私にもあんな時期があったなと懐かしむと同時に、大人の良さを実感した。 古いアパートは音だけでなく、暑さまでも防ぐ事が出来ないらしい。私は扇風機の前に居るにも関わらず、じんわりと汗をかい

          猛暑日の午後二時

          ⑤されど我が子

           まだ午後の五時だというのに酷い豪雨のせいで外はすでに真っ暗だ。私はカーテンを閉め、夫の裕司が傘を持たずに出勤して行ったことを思い出した。職場は徒歩圏内なので傘を持って迎えに行こうかと思った。あえて傘を一つだけ持って迎えに行こうかと迷っていると、突然ドアが開け放たれ、外の豪雨と雷の音が、それ以外の音を遮断した。私は何事かと慌てて後ずさったが、それは帰宅した夫だった。雨に降られた夫は走って来たのだろうか、酷く息を切らして鞄を抱え背中を丸めていた。私は慌ててバスタオルを洗面所から

          ⑤されど我が子

          ④病気

           先に付いていた菖蒲がこちらに気付き、軽く手を振った。私も思わず笑顔で手を振る。私は少し速足で席に向かい、菖蒲と向かい側の椅子に座った。菖蒲は何だかいつもより雰囲気が軽くなっていた。何か良いことがあったに違いない、と思った。飲み物を注文し、待っている間に待ちきれず、私は「話って何?」と少し前のめりになって聞いた。菖蒲は「あー」と少し話すのを躊躇った後、決心したようにこちらに向き直った。 「言葉を選ばずに言うと、私と両親は本当の親子じゃなかった。」 私は少し悪いことをしてしまっ

          ③誰の子?

           心地よいしが卓上の目玉焼きを艶めかせている。それをゆっくりと、慎重にトーストに乗せる。私はこの瞬間が大好きである。美しい食べ物を眺めている時こそ、心が安らぎ朗らかな気持ちになれるのだ。 「いただきます。」 手を合わせてトーストと目玉焼きを一気に頬張った。こんなに楽しい気分になるのは随分久しぶりな気がした。茉莉花に出会えてから私はだいぶ変わった。心を開き、悩みを打ち明けられる存在ができたということが一番大きな要因だろう。私は心が軽くなったし、彼女が悩みを打ち明けてくれるこ

          ③誰の子?

          ②思い出

           私は先天性無痛無汗症だ。幸い知能に問題は出なかったものの、怪我をしないよう細心の注意を払いながら普通の人と同じような生活をしている。私は血を流す痛みを知らない。汗もかかない。たまに自分は本当の人間なのかと疑いたくなる。でも怪我をすればちゃんと血も出るし、感動モノの映画を見て涙を流したこともある。ある時不注意で、段ボールで指にぱっくりと傷を付けてしまったことがあった。それの痛みは全く無いのに、血がどくどくと勝手に傷口から溢れ出して、とても怖かったのを今でも鮮明に覚えている。あ

          ②思い出

          友情シリーズは高校2年生の時に学校の夏休みの課題で書いたものですが、もっと多くの人に読んで貰って感想も聞いてみたかったので投稿してみました。 因みに写真は大好きなイチゴジャム🍓です。

          友情シリーズは高校2年生の時に学校の夏休みの課題で書いたものですが、もっと多くの人に読んで貰って感想も聞いてみたかったので投稿してみました。 因みに写真は大好きなイチゴジャム🍓です。

          雨 篠原沙葉

           左側の脳がズキズキ痛む。そろそろ雨が降るのだろう。梅雨の時期は特に偏頭痛が酷くて困る。グレーの空を見上げると、水滴が一粒瞼に落ちた。それが合図かの様に、一斉に降り始める。降り注ぐ雨で全身あっと言う間に濡れ、髪の毛先から水が肩に滴り落ちた。こんなに地面を叩き付ける様な雨は、あの日を思い出させる。慌てて折り畳み傘を取り出すが、制服は既にびしょ濡れだ。  通学路の人混みの傘の隙間に、健太の後ろ姿が見えた。その横には、モモの姿もある。モモは高校に上がって初めてできた友人で、皆からは

          雨 篠原沙葉

          悪夢 百田瑠璃夏

           佐藤と会った日から、私はまた映画制作をしたいと密かに思っていた。三人共ホラー映画が好きという事で、ホラー映画を撮ることになっていた。キャストである美幸が居なくなり、ストーリーを修正しないといけないので、話の流れと、一番人に恐怖を与えるものは何かを考えてみる。そのせいか、或いは梅雨で連日豪雨のせいか、私はこの一週間悪夢のせいで、まともに眠れていない。視線を感じるのは学校に居る時だけだが、家では悪夢にうなされ、心が休まる暇もない。今日も寝不足のせいで一層疲れて帰宅する。いつもの

          悪夢 百田瑠璃夏

          友達 佐藤健太

           久しぶりに会った百田は、少し髪が伸びて肩くらいになっていた。そのためか、雰囲気も少し重くなったように感じた。門の前で、反対側に歩いていく百田の小さな背中を見送った後、学校から帰宅し、俺は疲れ切って自室のベッドに倒れこむ。今日の事を振り返り、森山の事を思い出してみる。  高校に入学してまだ間もない頃、基本一人で居る俺に声を掛けてきたのは森山だった。それから暫くして、告白されてなんとなく付き合って、それから百田を紹介された。 百田はどちらかと言うと積極的な森山とは反対のタイプで

          友達 佐藤健太

          対峙 百田瑠璃夏

           男はジメジメとした薄暗い森の中を駆け抜けていた。月明かりに照らされるその表情は、恐怖で凍りつき青ざめていて、ぎょろりと目を見開いている。その口からは、荒い息遣いと共に、小さな悲鳴が漏れている。  やがて、男の前方の森が開け、あと少しで、街灯がひっそり佇む小道に停めてある車に辿り着きそうだ。男の顔には少しの安堵が浮かんだ。  遂に男は車に辿り着き、勢いよく乗り込む。外を見渡すと、後ろを追って来ていたはずのアレの姿は無い。男は溜息を吐き、胸を撫で下ろした。ふとバックミラーに目を

          対峙 百田瑠璃夏