見出し画像

悪夢 百田瑠璃夏

 佐藤と会った日から、私はまた映画制作をしたいと密かに思っていた。三人共ホラー映画が好きという事で、ホラー映画を撮ることになっていた。キャストである美幸が居なくなり、ストーリーを修正しないといけないので、話の流れと、一番人に恐怖を与えるものは何かを考えてみる。そのせいか、或いは梅雨で連日豪雨のせいか、私はこの一週間悪夢のせいで、まともに眠れていない。視線を感じるのは学校に居る時だけだが、家では悪夢にうなされ、心が休まる暇もない。今日も寝不足のせいで一層疲れて帰宅する。いつものように机に向って、眠気と戦いながらストーリーを考える。

 ザーッと突然、雨音が聞こえる。気が付くと、私は机に突っ伏し眠っていた。カーテンの隙間から外を覗くと、灰色の雲が空に覆い被さり、いつもこの時間に見える夕日が隠され、時間帯が分からなくなる。スマホを見ると、もう七時になっていた。ん?何か違和感を覚え、もう一度スマホを見ると、日付が変わっていた。今は朝の七時なのだ。あのまま十二時間近く眠っていたのか……。

 慌てて朝の準備を済ませ、傘を持ち家を出る。通学路はいつもよりどこか寂しい。それはあの日みたいな雨だからか、一緒に通学する人が居ないからか……。今までに無い程の孤独を感じる。一人で歩を進めていると、後ろから誰かの気配を感じる。怖くて振り向けない為、そのまま走り出す。すると、後ろから足音が大きくなり、さっきより近くなっている気がした。

 無我夢中で走り、息を切らしながらなんとか学校に着く。だが、まだ追ってくる。鉛の様に重い足を精一杯持ち上げ、どうにか階段を上る。息が苦しいが、足を止める事への恐怖が大きい。体が吸い込まれる様に、部室である視聴覚室に着くと、鍵が開いている。重たい扉を開き中に入る。振り返り、焦りで震える手を抑え、なんとか鍵を閉める。部屋の中は薄暗く、窓から稲光が差し込む。部室内は、半年前と違って、閑散としている。一番手前の窓を見ると、少し開いていた。隙間から雨が入り込んで、辺りの床を水浸しにしている。その水溜まりを踏みながら、窓を閉めようと手を伸ばした瞬間、ピカッと稲光が見えたのと同時に、上から大きい何かが降ってきた。窓を開け、雨に打たれながら下を覗くと、そこには美幸が仰向けに横たわっていた。血の気が引くのを感じる。美幸と目が合い、肩で息をする。酸欠でぼやける視界の中、美幸の口が動く。雨音に声は掻き消されている。恐怖に駆られ、釘付けになっている目を離したくて、後ろを振り向くと、ドアが開いていて、雨雲の様に黒い人影がそこには居た。


 突如耳元で聞き覚えのある曲が流れ、体を勢いよく起こす。勢い余って椅子が後ろに倒れそうになり、慌てて体制を直す。机に向き合ったまま居眠りしていたのだ。最近見た映画に影響されているだけかも知れないが、どこか現実味があり、いつも同じ悪夢なのに、それが夢だと気付けない。

 ふと顔を触ると、濡れている。泣いていたのか。着信音が繰り返し鳴る。聞き覚えのある曲は着信音だった。電話は佐藤からだ。慌てて涙を拭きながら電話に出る。佐藤に夢の事を相談してみよう。

 美幸が何を伝えようとしたのか知りたい。それが何であっても、佐藤が居るから怖くない。そんな風に思える友達ができたのも、美幸のお陰だ。だからこそ、美幸の無念を晴らしたい。机にある可愛いヘアピンを見つめ、決意した。

#小説
#写真
#友情シリーズ
#写真は本編とは無関係です

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?