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猛暑日の午後二時

たん、たんたん、たんたんたんと、音が聞こえた。

どうやら子供たちが外でグリコをして遊んでいるようだ。

階段をリズム良く駆け上がる音と、忙しない蝉時雨が、台所の窓の隙間から漏れている。

アイスバーを片手に扇風機の前を占領する。

窓の外には吸い込まれそうなほどの青が広がっていた。

ふと、私にもあんな時期があったなと懐かしむと同時に、大人の良さを実感した。

古いアパートは音だけでなく、暑さまでも防ぐ事が出来ないらしい。私は扇風機の前に居るにも関わらず、じんわりと汗をかいていた。

しかし、これも風情があって良いのだろうと思った。

「子供っていいなぁ」と呟き、あの頃を思い出しながら少し切なくなった。

きっと、外の子供たちは穢れなき汗を流しながら遊んでいるのだろう。

そんなことを思ったところで、「大人」になってしまった今、もう後戻りは出来ない。

私は今、着実に階段を1歩ずつ上っている。

あの頃を懐かしむ事も、風情があって良いじゃあないか。これもまた、大人の良さってものだろう。

私はアイスバーを平らげ、茣蓙に転がる。仰向けになって空を見上げみた。空は青くて美しい。それは大人になってようやく気づいた事だった。

うん。大人も悪くない。そう思えた猛暑日の午後二時のこと。

〇ステキ文芸のほうで「この一文に続け!」に応募した作品です。

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